Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
一同が方舟の前に集まったのは、その日の昼頃のことだった。全員が揃い、ウタハとユウカも外に出てきたのを念入りに確認してから、深く息を吸って、イリアは単刀直入に聞いてきた。
「先生。隠してることがあるよね?」
隠していたわけではない。言うタイミングが無かったことと、あったとしても関係悪化に繋がることを考えると──いや。これを、隠していると言うのだ。
そして、昨日まで全くその気配が無かったのに、急にこのように言われたということは、何かがイリアにあったということだ。だとすれば、余計に悟られているという可能性に確実性が増す。
“うん、そうなる。でも、そろそろ言わなきゃいけないと思っていたからね。話すよ”
今判明している全てを、先生は語った。あくまで自分達の目的になるのは、この世界に、異聞帯にトドメを刺すこと。現実から、排除してしまうことである。
アイムは黙り込んだ。ナノは考え込んで独り言をブツブツと言い始めた。イリアは、最初から知っていたかのように無反応。
レイアだけが、ハッキリと言葉でリアクションを返した。
「変だとは、思ってたさ。だってこの大陸船団の外には、自分でこんなのを作れるようなのはまずいないはずだから。キヴォトスの外から来たわけでもなさそうだし。ただ、そうか……この世界は、おかしいんだな」
「どうだろうな。少なくとも私は、ここが特別おかしいとは考えない。ただ、生き残るようにとされたのが元々こちら側だっただけだし、その理由もまだ分からない。彼女は、知っているのかもしれないが」
カンナに視線を向けられたイリアは、小さく頷く。どうやら、その通りらしい。
「まず、改めて自己紹介はしなくちゃいけないね。皆も、ずっと付き合いがあるナノでも知らないことも言わないと」
「へ? ってことは、もしかして」
「うん、昔のことを思い出しちゃって。いや、ママがずっと、この時のために忘れさせてたんだ。あたしは、石弓イリア。辺境の浜辺の試練を任された、綿津見の最後の娘」
王は、自らの娘を自分の元から去らせる日、記憶の繋がりを断ち切った。これは、イリアに限ったことではない。彼女は今まで、何十人も「娘」を生み出していたが、ナツノヒを除く全員に、これを施していた。
いつか思い出すことにはなる。自分が働きかけるか、そうでないかは各々違う。しかし共通しているのは、自らの関わらない場所で各々の価値観を手に入れ、自分の記憶と向き合うことを望んだことだ。
「あたしは、昨日の夜見た夢にママが入り込んできて、それで記憶を戻された。この世界のことも。でも、あたしの考えは変わらないよ。むしろ心から決めた。ママを止めないと。あたしが、やらないと」
「ストップ。私はあなたを報告を通じてしか知らないけれど、それでもハッキリ言えるわ。急なことで、考えを焦り過ぎだって。それに、背負いすぎ。私達には、背負うことの専門家がいるのに」
その背負うことの専門家も、ユウカに全くもって同意だった。確かに、トリンにとってアキレス腱になりうるのは娘であるイリアなのかもしれない。だが、彼女でなければ何もできないわけではあるまい。むしろ、できる限り誰かを頼らないと、異聞帯の王とは打ち破れる存在ではない。
だからこそ、ここでゆっくりと腰を据えて話し、情報を改めて整理する必要がある。まず、ちょうど落ち着いてきたナノが、一点どうしても気になったことを聞いてみることにした。
「ちょいイリアちゃんさ。辺境の浜辺の試練を任されたって、何?」
「うん、そうなんだけど……あんまり内容とかは……うん」
「内容とかはよくて。それ、どのタイミングで聞いてたの?」
これは、普段から付き合いのあるナノだからこそ出てくる問いだった。前提として、彼女らは日常的に会っている。それこそ、直近では会っていない日というものがないくらいだ。先生に出会った日も、かろうじて会ってはいる。
代議院辺りで聞くとしても、無理がある。それに、態度面でも、隠し通していたにしては何も知らなさすぎるし、意図して嘘をついていたようにも思えない。
「うん、ナノに聞かれたら正直に答えるしかないよね。でも、ゴメン。あたし、別に話を聞いて任されたってわけじゃないんだ。心に直に刻まれた、というか」
「……待って。あー、辻褄合う説は思い付いたかも。なんかいなかったあの日、先生に会った日っしょ?
「凄いね。やっぱり敵わないや」
親友であるからか、それとも推理力があるからか。彼女の考えた仮設は、全く狂うことなく的中していたようだ。
そして、それを聞いてウタハもひとつの可能性に思い至った辺りからすると、どうやら後者がより大きな要因だったらしい。
「なるほど、それで。あの日のイリアさんとの出会いは、確かに違和感があった。一応先生にも伝えたけど、衝撃で気絶してたからね。その場の違和感というのを一番肌で感じていたのは何を隠そう私だよ。まるで私達が来ることを分かっていて、待っていたかのようだった」
「本当にその通り! 凄いね皆。確かにあたしがあの日に感じてたのは、何かがここに来るような気がするっていうのだったんだけど、今思えば誘導されてたんだね」
「お待ちください。では、イリアさんは王様に操られていたことがあるのでは? 今、そうでないとは限りません」
空気が緩んできていたところで、ワカモの指摘がまた流れを変えてきた。確かに尤もな指摘であり、そこそこ付き合いがあるはずのレイアでも疑いの目を向けたくなってくるほどだった。
しかし、不思議とそれに対する反論には説得力があった。
「ううん。それ以外の行動への干渉はしてないって。これだけはどうしても誘導しなきゃダメだったって。何より、あたしを操ってハメるとか、ママはやる気じゃない。むしろあたしを自由にして、