Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
どれくらいぶりだろうか。遂に、最後の試練の場所にして、試練の場所を伝えられたスタート地点、代議院の議事堂に戻ってきたのだ。
「随分と大袈裟な建物じゃないか」
初めてここに訪れるカイは、このような感想を漏らした。元々キヴォトスというのは、学生に与えるものと考えるとかなり大袈裟すぎるように思われる建物が多く見られる。ティーパーティー、玄龍門辺りはその代表格か。それと比較しても、確かにこの議事堂は見劣りしない。
だが平均的な地位水準がこの異聞帯ではずいぶん異なる。それを踏まえれば、むしろ質素かもしれないくらいだった。もっとも、これ以上豪奢なものをきちんと整ったものとして作り上げるのは至難だろうが。
今回の出迎えは、議長本人によるものだった。相変わらず、ミュージカルでもやっていそうな王子様タイプの見た目をしている。
丁寧に一礼をしてから、議長は告げた。
「では、私の後ろについて来てください。少しばかり、人に聞かれては好ましくない話ばかりになりますので」
案内された先は、地下室だった。いや、地下という言い方はこの大陸船団において語弊がかなりあるのだが、しかし確実にかなり深い層まで隠し階段で向かった。
「どうぞ、こちらにお掛けください。なんというか、とても静かな部屋ですが……ここでは、一切の情報が外部に漏洩することはありません」
“そうなの? 不可能ではなさそうだけど”
「正確には、陛下には筒抜けですね。しかし、だからこそ許しの無い者が干渉した場合、徹底的に処罰することとなっています」
そうなると、話せる秘密のレベルも異なってきそうだが、王の意図の片鱗が明らかになった今、「下手な発言」のラインも相当に緩いだろう。今なら、どのような秘密も打ち明けられるというところか。
「何の目的で、そこまでする必要がある? まさか……」
「お待ちください。見たところ、あなたは尋問というものに腰を一旦入れると頭を回しすぎるところがあります。職務的な理由でしょうか」
一言でカンナの性質を見抜く辺り、ただ者ではない。有力者や実の娘を差し置いて行政を任される理由も、なんとなく分かるというものだ。
だが言い当てられて驚きながらも、カンナもまたひとつ見抜いていた。
「そちらこそ、先程から何か、諦めのような感情が滲み出している。その対象も、ぼんやりとだが想像がつく。自らが崇敬する、王に対して。違うか?」
「……お見事。ええ、察してはいたのですが、あの日、そちらの先生とお話をした際には、まだ信じようとしていました。あの御方は、それでも正しいと主張したいのだと。とんだ、思い違いでした」
何度か、王と話す機会があった。そして、確信する直前を見計らったかのように、彼女は自らの思惑をちらつかせた。
あえて、誰かを踏みにじることを肯定した世界だと、そのように思っていた。だが、王は本心から肯定しきれずにいた。小さくも、深い絶望。ただ単純に、人々が、大衆が、上に立っていいい者といけない者が分けられたのを正当性として、背徳感から罪悪感だけを除いた。この極端さこそが、ある意味で大陸船団の本質だった。
「うげ……思い当たるフシがなくもないのがイヤ。なんか嫌って昔っから思ってた理由、これだなぁ」
「ナノさん、でしたね。あなたは、確かな目を持っているのでしょう。殿下をこのようなことに誘った理由も、少し分かるような気がします」
「殿下て。イリアはそんなんじゃないって。ね?」
当の本人はそう呼ばれることに満更でもなさそうな様子だが、しかし少し考えてからやはり否認することにした。
「本当は、特別な何かだとしても、あたしは普通の子でいたいかな。それで、普通の子のままで、ママを止めたい」
「それが……あなたの選択。分かりました、それならば更に伝える限りをお伝えしましょう。皆様にも、その資格はあります」
これから、王に会いに行くのだ。望みは叶えるのか、叶えないのか。それともどちらにとってもいい道を見出したいのか。それは彼女には分からない。だが、確かなことがある。
自分には全てを話す義務があり、納得するかどうかを選ぶ権利がある。
「議長は伝統的に、身分を隠すことにしています。ですから、私の本名……星崎リアという名を名乗るだけでも、このような場を用意しなければなりません。ご容赦を」
“リア……うん、なかなか素敵な名前だね。普段名乗れないのは勿体無い。でも、別にそれを言いたいからってだけでこんなところに呼んだんじゃないんでしょ?”
「確かにそうです。これから機密情報を次々と渡していくことになりますので。主に、陛下のおわす玉座の島についてのことですね」
そう言いながらリアが取り出したのは、メモリーカード。この異聞帯でも、機密情報をコンパクトな形にして運ぶとなればやはりこれのようだ。端子もナノが使える。
その内容については、壁に映し出されていた。
「これは……海図、でしょうか?」
確かにこれは海図なのだが、やはり汎キヴォトス史の世界でオデュッセイア関連の情報として先生もたまに見ていたものよりは、明らかに海が広かった。かなり見づらそうだが、それと同時に気になる情報も映し出されていた。
「この大きな塊は〜……大陸船団、なのかな〜?」
「リアルタイムでちょっと動いてるっぽいし、多分な。それと海上の線、一箇所に集まって……?」
その線は、疎らなようだが、ある場所でだけかなり集中し、渦を描いているように見える。アイムとレイアが注目していた大陸船団について見てみると、試練が行われた4スポットにほど近いところから線が伸びているようだ。
「これが玉座の島に辿り着くための航路を示しています。これは、代議院の中でも特に強い権限を持つ者と、その者らが所有する船とその係員しか内容を知ることができません。私の読みでは、そういった者達が皆さんの移動を察知すると、すぐに妨害に動くことと思います。それでもなお到達するのが、私の課す最後の試練です」