Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
リアは、もう既にある程度の諦めがついている。だが、それは市民代表階級の総意ではあるまい。むしろ、いかなる制止を行おうと、王の警護は全力でもって行われることだろう。そして諦めているがゆえに、その心情には無関心であり、むしろ試練の名目を与えるのに好都合だった。
“玉座の島は図を見た感じだと、そこまで大きくはないのかな?”
「元々は、生活にも娯楽にも困らない最低限くらいの規模感でした。今もそれは大して変わりませんが、ひとつ最近になって変わりました」
“──空想のサンクトゥムタワー”
「ご名答。あなたの生きていた勝者の歴史の上書きを成立させるための楔が作り上げられました。外部からの視認ができないように、陛下はあれこれ手を尽くしておられるそうですが、上陸すればそれをはっきりと、明瞭に目にすることが叶うでしょう」
異聞帯攻略における最終目標は、やはり異聞帯の王と密接にあるようだ。今までは、異聞帯の王を滅ぼした際に、接続してリソースを得ていたためか、同時に機能を停止していた。
更には、シッテムの箱にもデータが蓄積しており、通常のサンクトゥムタワーと同じものと誤認される性質も逆に利用して、王を討った後という条件付きながらも、ハッキングによる停止もできるようになった。
いずれにせよ、副次的に止められる可能性があるだけで、主目的は王ではなくこちらだ。
「サンクトゥムタワーの偽物……なんだか、聞いたことがあるような話じゃありませんか?」
“ワカモが想像してるのとはちょっと違うかな。あれと比べても、より本物らしさがあるものだよ”
いつかキヴォトスの全てを「反転」させようと下ろされた、あの柱とはまた違う。その世界は何も間違っていない世界における、本物のサンクトゥムタワーとして、仮想的に現れたものなのだ。
つまり、本物と偽物、現実と虚妄の違いではなく、
「あれは確かに、莫大な力を秘めているように思います。あれがあるのならば、実のところこの大陸船団の心臓を稼働させる必要が無くなるくらいの、そのレベルのエネルギー源です」
「それを我々は2度、ついでのように止めることができていたというわけか……末恐ろしいと同時に、不可解だ」
それだけのエネルギー源を、今までなぜ応用する者がいなかったのか。世界の局地的な運営に、リソースを食われているのか。それとも、もっと恐るべき性質を有しているのか。
そしてそのようなものが、どうしてここまで脆弱であるのか。そこまでのエネルギー源としての機能を持つのなら、数々の観点から、接続された王の死亡
それこそ、本体が抵抗なりするべきである。
「だが、実際の事例としてそうであるのなら、それが好都合で丁度いい。原因が分からなくとも、実質として都合がいいのであれば、それを使うに越したことはない。原因は後から帰納的に考察できるものだよ」
“つくづくドライだね、カイも。でも、確かに分からないものを考えるより、わかっている事実に従って進んでいくのは大事だと思う”
「おそらく、殿下……いえ、イリアさん。あなたにとっては、里帰りという形になるのでは?」
「かもね。でもそんな気にはあんまりならなそうかな。ママに思い出さされたりはしたけど、結局普通にあんまり覚えてないし」
というより、イリアの感情としては、本当にそんなところで育ったのか、若干の疑いがあるくらいだった。だが確かに、夢の中で見た幼い日の記憶では、とても小さな島から出ていったような記憶がある。あまり実感はない。
「そうですか。しかし、母の顔は覚えていることでしょう。あなたとしては、どういう思いであるかは分かりませんが……私は、あなたに対して、憐憫のような情を抱いています。背負わされすぎている」
「もう、言われた。でも、あたしは自分で背負うよ。任されてるんだから」
それが背負いすぎだという話だろう──半ば、一同は諦めている。きっと、イリアの心の核にはそういったものがあるのだろう。一度決めたらそれに集中する。そして、責任感が強い。
相応に、逃げたいと思っている。普通に、友達と楽しく暮らし続けることは望んでいる。その上で受け止めている。
“なるほど、イリア。君は、確かにごく普通の生徒、ごく普通の人間だったのかもしれないね”
「えっ? 今の流れでそう思う?」
“思うよ。自分の過去のことを知って、それでも選べるんだから、きっと相応しい”
イリアはどこか、ホッとしていた。周りの誰もが、理由は分からないが、同じような気分になった。
特別であることは、意外と辛いのだ。
「──なら、これはあなたが持つべきです。きっと、あなたこそが、これに値するものです」
手渡されたのは、宝石と弾丸。宝石は青く輝き、海そのものであるかのよう。それ自体はいい。問題は弾丸だ。主に銀で作られているだろうそれは、加工をしたり外付けの薬莢などをつけるなどすれば様々な銃に込められる。散弾銃に入れても、単発にはなるが問題なく撃ち出せる。それだけでも特殊なのだが、なにやら不気味な光を放っている。
恐るべきエネルギーがそこに凝縮されているのだと、自らを誇示しているかのようだ。
「一発限り……まさか、でもなんでこんな?」
ナノには疑問だった。カンナにも、カイにも、ワカモにも。アイムにも、レイアにも。
だが、先生とイリアだけは、疑問を持たないでいられた。
「これって……」
“作ったのは、恐らくは彼女かな。彼女は、王の望む裁きにはなれなかった。だから信頼できる場所に託した”
そして、それを隠すために、自らをも隠すことを強いた。ありえない話ではなかった。
またひとつ背負って、最後の試練へと向かう。リアは、その背中を静かに見送った。そして祈った。
どうか、最後に残る世界が、美しく生き続けられるようにと。