Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
いったい、どこからが始まりだっただろう。
生まれたその日から、どことなく、それを目指していたような気がする。
王となる。あの頃はまだ、そのようなことを具体的に考えていたわけではないが、似たようなことは考えていた。そして、無意識にこのような世界を作りたいと望んでいたのかもしれない。
理由が欲しかった。世界は満たされなくて、無秩序で、奪い合っている世界であってほしかった。それは認めたくなかったのだが、認めざるを得ない。
そして、動機はしっかりと与えられた。あの日は誰と誰が争って、それがどうしてあんな大きな銃撃戦騒ぎになったのか分からない。一つ確かなのは、キヴォトスでは珍しく死人が出る争いだったことだ。その中には偶然その場に居合わせた自分を守った友人もいた。
その出来事から、確かに積極的に行動を起こすようになった。だが、その行動原理は何だったのだろうか?
「ワタシはそれを、悲しんだか?」
憎んだか? 恨んだか? 悼んだか?
否。その行動原理の正体は、糾弾するべき罪という口実を得てキヴォトスを転覆することを正当化する論理を得たことへの、興奮だったのだ。
もはやそうやって半ば無理矢理作り上げた大陸船団に生きる者は、本当に満たされているのだろうか。もはや自分の行いの全てを疑っている。故に、
「ならばあの者らに託す。間もなく、ここに至る」
呟いてから、覗き見る。王は全てを見ている。もちろん、こちらに向かってくる異界の船と、その横を進む小さな舟も。
「ボート隊、後ろは大丈夫かい?」
『えーと……ああ〜っ、来てる! 戦闘準備、入りま〜す!』
“来たか!”
航行能力がむしろパワーアップして復活した方舟。脇に伴っているボートは、方舟に弾かれる異聞帯住民が後方確認と直接戦闘を担当する。ワカモも操縦の心得があるので共に乗っていた。
デジタル双眼鏡で後方に目を光らせていたアイムが、近付いてくる船を発見。十中八九、追手であろう。一応念の為様子を見るが、武器を構えている人が乗っているのも見え、戦闘準備は必要そうだった。
「砲手、宇沢レイサ! 準備はバッチリです!」
“ようやく回ってきたお役目が不慣れな内容でごめんね。でもレイサはこういうとき、信用したいと思える”
「いえいえ、意外と練習してみたら向いてる感じしてますので!」
こちらから挑む道理は無いので待っていたら、水柱が上がった。明らかにこれは相手が砲撃を外したものが、水面に着弾したものであった。攻撃されたなら、反撃の道理あり。レイサが照準を合わせた砲撃が、少しずつ近付いてくる船の群れの先頭、その懐に入る。
大きく揺れており、効果は十分。
「とはいえ、やっぱり沈めるくらいの気持ちで撃つべきかしら……そちらはどう、ホシノさ──」
「どおかな、これ? 似合う?」
ユウカの目線の先には、防弾チョッキに忍具を備えたホシノがいた。
「えっと、その、えっと……その、格好は?」
「あー、イズナちゃんが貸してくれてさー。忍軍やってた縁ってやつ?」
「いや、そうね、見た目は別に関係ない、関係ない……」
ハッキリ言ってとてもダサいのだが、実用性は明らかにある。高性能鈎縄で敵船に飛び移り制圧を基本とし、煙幕やマキビシなど忍者らしいアイテムが備わっている。
ほとんどは基本的な忍具の域だが、ホシノほどの実力者なら十二分に活かしきれるだろう。
苦笑いするユウカに見送られ、甲板に出るホシノ。そしてまっすぐに、接近してくる艦隊を見つめながら、ボート隊に呼びかける。
「ねえ、そこの皆ー! 船内突撃やってみない?」
「はあ? 何を言って……!?」
レイアは顎が外れるかと思った。腕から伸ばした縄一本を巻き取りながら敵船に突入する、まさにその瞬間を見せられたのだから。
だが、彼女も大概強者だった。もしかしたら、自分もやれるのでは? と思い立ったなら、即行動に移した。確実に船の群れは迫ってきている。現実的に飛び移れると思ったら、飛び移った。
「わーお。レイアすんごいねぇーやっぱ……って、ワカモちゃーん? 何その目」
「私達も動きますよ」
ナノの頭に「?」が浮かぶ。だが、流石に彼女は頭が回る。ことの重大さはすぐに理解した。
このボートは、すぐに破壊されるだろう。それまでに脱出し、敵船を奪って方舟に並ぶ。更にそれが撃ち落とされることも、前提にしつつだ。
「……アテシと、できればイリアも抱えて飛ぶってできそ?」
「ナノさんだけなら……イリアさんは、少し体が大きすぎるかなと。ところでアイムさんは」
「大丈夫だよ〜、わたし意外とやれるの見たでしょ〜」
イリアは何も言わず、自分でもいけるとばかりに飛び移った。飛び移る先の高さは小さな船でもビルの2階くらいはあるが、ある程度鍛えたキヴォトス住民ならいけるものである。
乗ったら当然、敵に囲まれる。それを打ち払い、船を奪うことが必要となる。それに、ワカモはなんの躊躇もない。
ただ、暴れたいだけなのかもしれない。少なくとも、世界を救うための戦いというものに、元々強い興味があるわけではなかった。だが。
「方舟は、沈めさせない。
片端から、制圧していく。船の奪取よりも、安全の確保の方が急務だ。連戦だが、幸い弾薬は回収しやすく、長期戦は比較的容易にできるだろう。
制圧された船は、機能もほぼ停止する。それが壁になって後続の行く手も阻んでいく。
だが、流石の数の暴力。少しずつ方舟の防壁システムにも負荷がかかり、危機も迫っている。
「速度を上げよう。操縦席、いけるかい?」
「直したてなのに、随分と無茶を強いますね。ですが、方舟もむしろ望んでいるようです……よ!」
安全のために重くなっているレバーが1段階引かれる。それと同時に、舟は大きく揺れた。
壮絶な削り合いは、どちらに分があるか。