Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
仲間を置いてきてしまったことへの罪悪感が一行を襲ったのは、氷の木々に囲まれた場所まで辿り着いてからだった。
「カスミ、大丈夫かしら……」
その気持ちを最初に口に出したのはアルだった。ショットガンひとつで戦車隊を食い止めようというのは無謀にも程があるのではないか、というのは誰もが重々承知の上。その上で、自分がやるとヒナを押しのけてまで主張したのだ。
応えずには、いられない。
“今は、信じるしかないよ。さて、カスミが渡してくれたメモだけど、暗号解読に自信ある人は?”
「一応、それなりに慣れている方だと思います。少し見てもよろしいですか」
“カンナが言うとちょっとマジ感あるかも。お願い”
じっくり紙と睨み合うこと、数分。気付けば同業者とも言うべきヒナと話し合っていた。とは言っても、確認くらいの内容だが。
「ストレートに解くと矛盾した解になる、よく考えたものね」
「ええ、ですがそれにさえ気付けば簡単。やはりと言うべきか、座標ですね。地図を」
アルが地図を広げると、カンナは縦軸と横軸を確認しながら、こことはそう離れてはいない、森の中の一点を指し示した。
ただ森の中の一点、だがゲヘナの地理にある程度明るい者には心当たりのある座標でもある。
「ここって確か、洞窟がある場所ではありませんか? いえ、私の知るゲヘナの方では、という話にはなるのですが」
「えっ、そうだったかしら? 確かにヒノム火山の近くには多いけど、地図でどことか分からないし、禁足地が近いからあまり行くものでもないし……でも、そうね。言われてみればそうかも」
アルはあやふやだが、まあそれはいいとして。
無意味にそんな座標を指し示すこともあるまい。アビスは塞がっていたこの異聞帯だが、洞窟地形すべてが埋まっているなどということもなかろう。きっと隠れ家になるような場所が──
──あった。
“なかなか入り口は広々としてるね。形的にかなり人の手が入ってるかな?”
「形もそうだけれど、少し温かい空気が流れてきてる。
ヒナの指摘するように、地熱などほぼ無に等しい、というより熱力学法則が壊れていて熱という熱がなくなっている世界の洞窟からの温風は、人のいる証だ。カスミの紹介する人物ということは、もしかすると──
吹雪いてきたこともあり、急いで中に入ることにした。
中は照明が用意されていて、生活感もどこか漂ってくる。人家の廊下を歩いているかのような感覚だ。程なくして、少しの分かれ道を進んだ先に、より明るく広い空間があった。
その空間に入ると、よく考えたら予想通りなイベントがひとつ起きる。
「誰? もしかしてここを奪うつもり? それとも万魔殿の人達?」
かなり覚えがある生徒が、疑いの目を向けてきた。それはそうだ、部外者がいきなり入ってきて、警戒しない方がおかしい。だからこそ、証明をしなくては。
“私達はカスミに、ここに来るように言われて……君はメグ、でいいんだよね?”
メグのことを聞いてここに案内された、という体でいく作戦。実際はその名前は最初から知っていたのだが、話を面倒なことにしないのにも繋がる。先生が知っている方のメグは、この辺りの事情を聞いたら混乱するはずだ。こちらもおそらくそうなのだろう。
「部長が? ねえどこにいるの、部長は?」
“部長……か。カスミと一緒に行動してたら、万魔殿に捕まりそうになってね。これを受け取って、それを頼りにここに来たんだ”
カスミのメモを見せると、メグは食らいつくようにじっと見た。紙の繊維を一本一本見るかのように、隅々までじっくりと、睫毛と紙が当たりそうなところまで寄せて。
そして、緊張感のある間がしばらく続いてから。
「うん、大丈夫! 信じるよ! ようこそ、地底探索部へ!」
簡単に信じられた。あまりに突然の態度の変わりように驚く一行。
「どうして信じる気になった? 私達は強盗かもしれないし、万魔殿が摘発に来た可能性だってあるって言ったのはそっちじゃないか」
などと言っているカンナ自身、その顔つきだけ見たら強盗と思われるかもしれないが、あちらからすれば確かな証拠がある。
それが、カスミの渡したメモ。
「そのメモ、私達も同じのを持ってるんだよ。キレイなメモを持ってる人に悪い人はいない、悪い人に取られそうになったら破け、って部長が言ってた」
“紹介状の役割もあったのか。絶対とは言えないけど、いいセキュリティだね”
「まあ、そういうことかな? そうだ、自己紹介! 私は
要は、温泉開発部の異聞帯版のようなもの──というのは、少し正確ではないようだ。何せここは温泉などというものは掘ってもまず出ないし、名前からしてどこでも掘っているようだ。そして、夢を追いかけて、ときたものだ。
ちょうど、カスミが色々と事情を聞いてなお協力的である理由も知りたかったところだ。彼女の背景について、迫ってみることにしよう。
“夢?”
「うん。あんまり、よく分かんないんだけどね。ゲヘナは昔は暖かかったらしいから、その跡がどこかに残ってないかって探してるんだって」
なんだかんだで、カスミという人物の志向は温泉に収束するのかもしれない。だが、異聞帯においては特に「夢」という単語と結びついている。何かにつけてしょっちゅう湧く世界とは違うのだ。
“それを聞いて、メグはどう思った?”
「
なるほど。
地底探索に限らず、こんなところで夢を見たところで到底叶うまい。ならばその考えを愚かなものと切り捨てる空気があるものだろう。
だが、夢を見る者は、輝いている。そんな子供を応援するのも、また先生の務めであった。