Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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1-13:ヒノムの風穴にて

 地底探索部と親交を深めつつ、方舟と通信を繋いで情報を整理することにした。

 

『彼女の夢についての話だけれど、別に無理がある話じゃない。ちゃんとした、叶う可能性の高い夢だよ』

 

 ウタハはここが元々どういう地形なのか、分析を語った。ここは、風穴なのだ。風穴とひと口に言っても様々な形成過程が存在するが、基本的には溶岩流を条件としている。

 ヒノムはこのような氷雪世界においても、かつては確かに火山だった。そして、もう一つカスミの夢の実現可能性の根拠がある。

 

『この異聞帯は、魔王を封じるために熱という熱が奪われた。これはもはや概念の作用、科学では説明のつかない神秘の領域だ。だけどね、それでも熱を消し去るというのは無理のあることなんだ』

“つまり──()()()()()()()()()()()()()ということを意味しているってところかな”

『そう。けれど、それを追うことの危険性も同時に意味している。それでも応援するかは、先生次第かな』

 

 魔王を封じるために熱が奪われたのなら、それを暴くことは逆説的に封を開くことを意味しかねない。それでも夢を肯定できるのか。

 とはいえ、いずれにしても、その魔王というのは異聞帯の前提を形成するもので、避けては通れぬものだろう。考えて見ればこれは、いつ覚悟を決めるかという話にしかならないのだ。

 

 さてそんな一方で、生徒達はまた一人、見たことのある顔を見つけたようだ。

 

「とりあえず、まず聞かないといけないことがある。なぜ、ここにあなたがいるのか」

「こっちのセリフー! それに説明できるわけないでしょ、こっちだってまだ全然分かってないんだから!」

 

 ヒナに詰め寄られているこの少女、どういうわけか上書きを回避して残っている赤司ジュンコである。単独になっている辺りから察するに美食研究会の面々は便利屋の社員同様いなくなっているようだが、おそらく地底探索部に保護されたのだろう。

 場合によっては死んでいたかもしれないのだから、なんとも幸運だ。ヒナのような力もアルのような特殊な事情があるわけでもない、テロリスト集団にいただけのゲヘナ生では、生存能力は数段下がる。

 

「筋金入りの危険人物と名高い者と立て続けに会うとは、私としては運がないと言いたいところだ」

「安心しなさいな。あの子は美食研究会の中では常識人ポジションだから」

 

 アルがフォローを入れるが、カンナの感想も的外れではない。実際のところ、先鋭化しすぎた美食と暴食と悪食に囲まれていてまともに見えるだけで、あれにノッていただけで十分に危険人物扱いの妥当性がある。

 ただ、運がないなどということはないだろう。ゲヘナとは本来そういう所だ。今いる氷雪のゲヘナは犯罪行為がどうこうという概念自体が希薄なのだが。

 

「運がないって言いたいのはこっちなんだけど……なんで初めて会った私を知ってくれてる人が風紀委員長なの?」

「それは確かに、運がないかもしれない。でも協力者として出会えたのだから、転じて幸運とは思わない?」

「協力者にかける圧じゃないでしょー! 助けて先生ーっ! 私のこと見えてたよねーっ!」

 

 残念ながら先生は取り込み中である。技術班に注文を出しつつ、今後の計画を練っていた。よって詰め寄られる彼女に助け舟を出してやることは不可能であった。彼も増殖や分身の類ができたら助けてやれたものを。

 

 さて、異聞帯の情報を集め、それに従ってやるだけのことをやる、という道は途切れたと言える。新たな道を模索する時だ。

 

“ユウカは何か気になることはある?”

『異聞帯が出現する直前に、空想のサンクトゥムタワーは各地で視認されていたと思いますが……このゲヘナには、見当たらないですよね』

 

 同じく、サンクトゥムタワーが各地に現れた虚妄のサンクトゥムの件では、現地に行けばよく見えるものだった。あのサンクトゥムタワーの名こそ冠しているがあまりにも禍々しがった塔を、皆覚えていた。

 だから、このことはもう少し気にしておくべきだったのかもしれない。何せ、この異聞帯がキヴォトスを上書きして現実に定着している要、あるいは楔なのだから。

 

“タワーそのものは見えなくても、タワーのヘイローは空に見えてた覚えがあるね。それを利用して座標を計算とかは……無理?”

『実体ではないですし、そもそもD.U.のものですら中心の定義が曖昧なので、厳しいような。厳密さは度外視した簡単な定義を適用すれば、なんとかといったところかなと』

“概算程度にはなるさ。お願いできる?”

 

 返事代わりの唸り声、そしてキーボードの音。かなり真剣な算術使いモードに入ったらしい。久しぶりな気がする、数学の天才らしい振る舞い。

 次第に、音に困惑の声が混じってきた。まるで、ありえないものを見たかのような、形容し難い声が何度も聞こえてきてから、返答がようやく帰ってきた。

 

『すみません、先生。ちょ〜っと何度計算してもおかしなことになって。具体的には、()()()()()()()()が出てきちゃって』

“はい?”

『やっぱりちゃんと定義できてないからかしら? ごめんなさい先生、役に立てなくて』

 

 いや。本来ならあるはずの、そして一度は存在が確かに確認された建物が、消えているのだ。だが異聞帯の存在そのものが、それが失われていないことの証明にもなっている。

 まずもって、サンクトゥムタワーは普通の状態にないと考えるのが妥当だろう。だとしたなら。

 

“計算の定義、物理量の定義じゃなくて、観測対象そのものに間違いがある……とか?”

『え? いや、確かにタワーのヘイローを対象にというのはかなり無理があるとは──』

“そうじゃない。対象の選び方を、私達が間違えたんじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性がある。近くに行く価値はあるよ”

『──分かり、ました。それじゃあ、距離の絶対値が最小になる座標を、こちらで特定しておきます。今後の行き先はそこですね』

 

“──さて。ところでジュンコはなんでこんなところに?”

「先生達こそ、なんでここに来れてるの? 最近流行りの異世界とかそういうのじゃないの、ここ?」

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