Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
「ちょっとわけわかんないけど……皆、大変な思いしてたんだ」
“ジュンコもね。というか、こんな状態で大変な思いをしない方がおかしいくらいだよ”
ジュンコにとってはとてつもない情報の嵐だっただろうが、なんとか異聞帯についての話を受け入れたようだ。とはいえ、理解しきれてもいないだろう。
とりあえず、魔王のせいで酷いことになった世界、くらいの理解があれば十分だ。
「仲間が急にいなくなった、っていうのは同情できるわ。だって私も同じだし。私は名前も思い出せないから、もっと酷いかも」
色々な意味で立場の近いアルには、共感できるところも多いだろう。だが同時に、とても恵まれているように思えた。それを妬む彼女ではない。それを羨む彼女でもない。
ただ自分が、とてつもなく悲惨な状況にあるということを理解できてくる。それでも、それを言い訳にすることもない。取り戻すために戦えばいい。そのための仲間が増えるなら大歓迎だ。
「それで先生、ミレニアムの才媛達とはどんな話をしてたの?」
“ああ、山はすぐに再接近するのも良くなさそうだからね。異聞帯攻略の本質的な目標とも言える空想のサンクトゥムタワーを……って、ヒナ?”
「ああ、ごめんなさい、自分で聞いておいて注意を逸らしてしまったわね。でも気になって。遠くからすごく知ってる声がするというか」
洞窟の出口の方に皆で意識を集中させて聞いてみる。何かドサドサという音が聞こえるが、おそらくそれは違うものだろう。そのノイズの向こうに、人の声らしきものが聞こえないこともないような、といったところ。
異聞帯側の者は耳がいいのだろうか。メグとアルは、その正体に気付いたようだ。
「来たわね。お出迎えの準備はいい?」
「もっちろん!」
急ぎ足で出口へ駆けていく二人を追って見えた外の景色は、すっかり夜の闇の中。だがそれでも分かることがある。また雹が山から吹き出しているようだ。
そして聞こえていた音はこの大粒の氷が雪原に落ちる音だったらしい。だが、別の種類の地面の音もする。もう少し広い面積で圧さないとしない音。そして声も、よりハッキリと聞こえてくる。
「うおおおおっ! もうすぐだああああっ!」
雹が降りしきる中、カスミが全力でこちらに駆けてくるではないか。一応断っておくと、この雹は火山の噴石に近いものであり、粒としては非常に大きく、かなり頑丈な方舟の上に降ってきた音がしっかり艦内に響いていたものである。決して防音が悪かったわけではなく、かなりの勢いをつけてかなりの威力で降ってくる。
キヴォトス人体質であろうと、痛くないことは全くないはずだ。強靭すぎる。
“うわあああ本当に戦車隊から逃げてきたあああ!?”
「その声は先生! よかった、皆来てくれたか!」
その勢いのままカスミは洞窟に突入して、メグの胸元に飛び込み──泣き叫んだ。
「びぇええええ! やっぱり強がるものじゃなかった! すごく大変だったあ!」
「もう、すっごく心配したんだよ! でもほんとに良かった……!」
「──それで、読み通り山が爆発してくれてね。安全策を考え続けてるような兵隊には雹の中での活動は難しいらしい。それで逃げてこられたわけさ。いつもそうしてきたんだが、今回はなかなか厳しかった」
カスミは子供っぽく泣き叫んでいたのが嘘のように堂々と経緯を語った。考えが正しければ、というのはヒノムが爆発する時間の読みのことだったようだ。それにしても、雹を噴き出す間隔が短いものだ。いくら活火山だったとはいえ、噴火ばかりしていたわけではないだろうに。
「部長っていつも、一人でどこかに行って色々調べて、万魔殿の人に見つかって、雹の中で逃げてるんだよ」
「なんだか、それは逆に安心感があるような……」
ヒナはため息をつく。単独行動や逃げ足という違いはあれど、根っこに知っている人物の面影がある。それにどこかホッとしている自分がいる、その感情はどうにも言葉にしにくい。
“それで、イロハは「我々を否定するな」と、そう何度も言っていたんだね?”
「そう。妙に含みがある言い方だったが、ひとつ確実なことがある。万魔殿は、どうしても現状を──
彼女らは、真剣なのだろう。そのことばかりを考えているのだろう。だから知っている姿からかけ離れた状態になっているのだろう。
魔王の存在は、神秘の根源にも関わる。そこを下手にいじくると、自分達はどうなってしまうのか。いや、それだけだろうか。だがそれでも、カスミは確信している。
「だがね。私はそうすべきじゃないと思っている。夢も希望もない、代わり映えのしない凍った日々を続けるくらいなら、何か大きなことをしてみたいだろう? ここの皆と地面を掘りまくるのも、その一環だ」
“……そっか”
「ここが異聞帯というものであると聞いて、私の中にはどこか、納得があったんだ。やっぱり、
なんてね、と笑ってみせる。今彼女は、心の底から笑っていた。地底探索部の面々も、各々何を見付けたいだとか、部長の夢がどうとか、そう語らいながら笑っている。
こんな世界で生きていては、そんなことはなかなかできなくなる。先生も、ついてきた生徒達も、いつの間にかそんな空気に染まっていたことを思い出さされた。この異聞帯で、ちゃんと自分達は笑っていたか?
“ふふっ。よし、じゃあそんな運命の出会いを記念して、と言ったらなんだけどね。地底探索部の皆で、ついて来てくれないかな? ちょうど明日調べたいところがあってね、地下まで調べられる人手が欲しかったんだ”
「お安い御用だとも! さあ今日はもう寝よう、私は本当に疲れたよ……」
“ああ、うん、お疲れ様……”
洞窟の中には、いくつも眠るのにちょうどいい場所があった。朝日が差さないこと以外はかなりいい。寝袋にくるまって眠ると、意外と心地が良かったようだ。