Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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断章(Ⅰ)

 雹が止む。それをゲヘナ校舎の一室から眺めていたのは、長い銀髪を揺らす目つきの悪い一人の生徒。

 バツが悪そうにしているチアキの方に振り向いて、静かに呟いた。

 

「おそらく今回も取り逃がしただろう。間の悪いことだ。いや、あの女のことだ。おそらく予測して立ち回っている。雹を克服する術だけは、是非とも教えてもらいたいくらいだな」

「結果的には、私が取り逃してさえいなければ……本当に申し訳ないです! ごめんなさい!」

 

 チアキは深々と頭を下げるが、それに対する反応は、決して不機嫌さを伺わせるものではない。

 

「いや、それは許す。このマコト様もあのような乱入者をわざわざ想定などしない。イロハの戦車隊も、おそらくはもうすぐ帰投するだろうが、あの山の怒りのことは割り切れる」

「そんな、運が悪かったみたいな言い方はよくないんじゃないですか? なんか負け惜しみみたいで嫌だなぁ〜」

「私は負け惜しみはしない。運も実力のうちとも言うだろう。だが、これ以上運に見放されてはならない」

 

 万魔殿議長、マコト。この異聞帯においては、佐棚(さたな)マコト。冷え切った世界を冷え切った心で監視し、魔王の封印を守る者達、その長。

 誰に支持されているでもなく、誰を統治するでもなく、ただその任に適していただけの人物、とここでは定義されている。支持も統治も、そもそもこの異聞帯では無意味。

 

 しばらくの後、イロハが部屋の中に入ってきた。

 

「地底探索部長、並びに空崎ヒナ、取り逃しました。おそらくは、これが話に聞いていた──」

()()()()()()()。その教導者がやって来たということに、全く相違はない。戦力を見せた上で取り逃がした、痛手だな」

 

 敗北というわけではないが、これくらいのことをすれば捕らえられるくらいの想定ではいた。少しばかり彼女らからすれば、怖い展開になってきている。

 直接相対したチアキとイロハは、よりそれを感じていた。

 

「見くびっていました。我々が受け取っていた事前情報によれば、汎キヴォトス史の生徒はこちらよりも遥かに貧弱。事実、あの者達のうち二人は、最善こそ尽くしていましたがそれでも及びうるものとは感じられませんでした」

「逆に、それ以外は違ったと……空崎ヒナについては、私自身何かただならぬものを感じていた。力量もそうだが、何より私と()()()()()()()()()を感じられる」

 

 正史──汎キヴォトス史、と呼ぶ──においては、確かにただならぬ縁がヒナとマコトの間にあった。だが異聞帯においては元々縁などないはずなのだ。

 はずなのだが、何か近いものがある。もっと言うと、マコトが知る「魔王」に含まれるものに、似たものがある。

 それを言語化することは、感じている当人にも難しい。

 

「おそらく、地底探索部の元に集い、今頃協力関係を結んでいるものと思います。この異聞帯側に属する生徒が、数多く敵対することになるかと。かなり難しい状況です」

「つまり、部レベルで我々に反発しようとしている。そういうことだろう、イロハ?」

「え、ええ、まあ」

 

 キキキッ、と笑い声が漏れる。どこか満たされない、虚しい、そんな笑い声と共に、ぎこちなく口角が上がっていく。

 これを喜ばしい、歓迎したい状況と思いたくなる自分は、きっと歪んでいる。歪んでいなければ、魔王などとは付き合えまい。何にせよ、一つ確実に、言いがかりでもない口実を作れた。

 

「なら、地底探索部はこれにて取り潰しだ。ゲヘナ封鎖自治区内の秩序を乱したという名目に、万魔殿に逆らったという事実。これで以て、統治機構として処分を下すには十分だろう」

「承知しました。では、執行部隊の手配を。先輩方との話し合いは、こちらで済ませておきます」

「頼んだ。内容は記録するように。奴らが()()を見出す前に、何としても捕えろ」

 

 イロハが部屋を去り、またチアキとマコトだけが残る。だがもはや話すことなどなかった。

 強いて挙げるなら、こんなところか。

 

「ところで……私は、何をしたら?」

「今までと変わらん。校舎の警備だ」

「あっ、はい」

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