Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
翌日、一気に大所帯になった一行は、ユウカから送られてきた座標──の、真上を目指していた。そう、やはりと言うべきか、空想のサンクトゥムタワーに「最も近い」場所の座標は、地下だったのだ。
幸いにも、人が掘っていけるくらいの深さではあったので、無事地底探索部のお世話になることに決定したのである。
「なんというか、すごく『何も無い』って感じですね。この地面の氷……どれだけ掘れば、土に到達するのやら。その土も、永久凍土で氷とそう質感は変わらないのでしょうが」
目標地点の近くで屈んで、セナが呟く。まさに大氷原、本来のキヴォトスにある氷原地帯もビックリな氷の大地。
ただ、もう少し先に森林地帯が見える。そして目標の場所は、その付近であるらしい。カンナはここで戦闘に入った際の立ち回りを脳内でシミュレートした。
「もし緊急の事態となっても、逃げ込む場所はある、と。木の位置も太さも絶妙、都合はいい」
“目立つ行動をする関係上、理想的なロケーションではあるね。さて、多分先に来てるはずだけど……ああ、あれか”
先生の目線の先には、ロボ犬らしきものがちょこんと居座っている。これが、今回のアシストマシン。
『よし、指定の座標に来たね? 今回は私謹製のロボット犬型探査機、名付けてココホルト君を使って地下構造を調べながら発掘をしていこう』
……ここ掘れワンワンか?
リオのような常にズレているタイプのよりはいいとはいえ、ウタハのセンスも良いときと悪いときでブレがある。
ただ、見た目はロボット犬。ミレニアムで大人気、他校の生徒からも好評な愛嬌のある振る舞いは健在であり、実際皆がメロメロだ。
「かわいー!」「ロボットがこんなにも愛らしいなんて……!」「なんだか妙に嫉妬心が」「こんなに可愛くて探査機なはずがないだろう!」
『ははは、あんまり弄くり回さないでくれよ。けっこうこの子もデリケートだからね。それに優秀なんだ。もう既に見つけてるよ──目指すべき座標の辺りに、何かはあるって』
一気に一同(のおよそ6割くらい)の目つきが変わる。目指す座標はそう入っても深い。数十mは掘らなければいけない位置だが、それほどの場所をもう解析済みとは。先に着いていたからかもしれないが、なかなかに高性能。
“何かって何さ、具体的には”
『空洞……かな。変に細い出入り口のようなものがあるとか、あまりにも形成要因が不可解だったり。ああ、一応断っておくけれど、形成要因が分からない空洞なんてけっこうあるから、それだけで怪しいとか思わないようにね』
“思わないよ。
怪しさを補強する要因にはなるが。距離が実数値で測れない目標に、実数空間で絶対値的には最も近くなるという座標の辺りに発生している空間など、あからさまに怪しいのである。
さて、地底探索部はもう完全にやる気である。いや、それどころかもう掘り始めている。洞窟生活をしている身でも扱える、電力を必要としない掘削機を自作しているらしい。しかもやたらと性能がいい。
「何がどうなってるのよこれ。オーパーツ?」
「夢見る者の力だよ、陸八魔アル!」
どういうわけかアルだけフルネーム呼び捨てなカスミは、既に地面だったラインより下に下半身が全て入っている。ここまで、僅かに数分。気持ちがいいくらいに掘り進めていたために呆然としていた、その沈黙を破った一言であった。
もちろん、オーパーツではない。だが異聞帯は、時としてこういった変な技術が飛び出す。これに関してはあまりに例外的なものだろうが。
使い方を教わって凍土を削ったり、あるいはシンプルにスコップで掘ったり。生徒達はもちろん、先生も加わって掘り進める。
深くなっていくにつれて、後で戻ることも意識して横幅も広がっていく。気付けば、小さな窪地のようになってきていた。もう既に数時間はコツコツと掘り進めており、指定の座標もかなり近付いてきたところ。
「ハァ、ハァ……ちょっと、しんどいかも……」
ジュンコの息が荒くなってきた。こんなに人力での長時間発掘作業をしているのだから、当然だろう──と、普通なら考える。だが、先生はどこか違和感があると思っていた。
これは、何か変だ。ただ疲れて息が上がっているのとは違う、過呼吸になりかけているような、細く速い呼吸。
“ジュンコ、ちょっといいかな”
慌てて腕を掴む。脈拍は明らかに異常だ。医療の専門家でなくともわかる。
「先、生……?」
“大丈夫? どこか具合が悪かったら遠慮なく言ってほしいな”
「具合が悪い、というよりは……体が、うまく動かない、かも。なんだかよく分からないんだけど……なんかすごく、すごく……怖、い……?」
自分の体がどのような種類の悲鳴を上げているのか、それも分からない状態。ただ少なくとも分かるのは、これは心因性のものだということ。セナは専門外か。
いや、それどころか。
「すみません、私もそんな感覚がしています……!」
「ごめんなさい、私も。こんなのは初めて……うまく、言語化はできないのだけれど、生まれて初めて、こんなに怖いって思ってる……」
セナに、ヒナまでもが得体の知れない「恐怖」に支配されている。
……「
“私が無事なのは……
指示を出すなり、全員が猛ダッシュで掘った穴から逃げ出す。そして少し息を整えると、先程までの地獄絵図が嘘のように皆がスッキリとした表情。まるで風呂上がりのような開放感すら感じているようだ。
直後、ウタハから通信。
『ココホルト君を通じて状況は理解した! 皆、無事かい?』
“とりあえず、どうにかなったみたい。けれど、これは続行不可能と見ていいと思う”
続行不可能である、という事実にも情報がないわけではない。今日は以降の時間を話し合いに充てるべきだろう。
なんとも、気持ち的には満足感のない結果となった。