Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
穴を掘った側の、氷の木々。その中に紛れつつ、方舟との通話で今後の作戦について考えることにした。
『生徒の皆さんはもちろん、私達も近付けば影響されるかもしれませんね。無事でいられるのは、それこそキヴォトス外の存在、先生くらいのものかと』
“エアトンさんも、何か感じられたんですか?”
『探査機越しですが、こちらにもある程度感じられました。方舟は総員鳥肌が立っていましたよ』
キヴォトスは元より、神秘宿る土地。そこに縁を持つ存在が反応する恐怖。やはり「色彩」──あるいは、それに近い性質を持つ、強烈な負の影響力がこの下に眠っている。
その可能性として一番大きいのは、やはり「魔王」。だが地表近くまで迫っているとはいえ、人力で掘れるくらいのところまで来ているということなのか? だとしたら、想像よりもずっと近くて恐ろしいというものだ。
「白石ウタハ、もう一度確認させて。この……ここ掘れワンワン? が読み取った地下空洞の構造はどうなってたのかしら?」
『ココホルト君だよ、社長さん。シンプルに何も無い空間に、どこかに繋がっているかもしれない出入り口のようなもの。けっこう広いね』
「その、どこかにっていうのは?」
『断言はできないよ? ただ、多少想像はしていただろうと思うけれど、やっぱりあの山の方角に伸びてる』
ただでさえ寒さで全身が常に凍りそうなのに、ここで背筋が凍るような思いをさせられるとは、アルも思わなかったか。嫌な予感というのは当たるものだ。
まして、比率でいえば8:2くらいで異聞帯寄りであるアルは、かなりその辺りのカンが鋭くなっている。それが、嫌な方にばかりアンテナを向けてしまう。
“詳細な調査にはどれくらいかかりそう?”
『詳細って言われるといくらでもかけてしまうよ? 冗談はさておき、どこに繋がっているかっていうのを調べるなら、今日の晩のうちにどうにかしたいね』
「報告します! 遠くに大人数がまとまって歩いてきているのが見えます!」
地底探索部の一員が手を挙げてカスミとメグの方を向いた。万魔殿の手の者の可能性が高いだろう、と即座に判断をした。
「もう少しだけ、奥に移動しよう。そうだな、あの穴の前で話し合っているのをギリギリ盗み聞きできるくらいがいい」
いい具合に木の密度はある。かなりの大人数であったとしても、隠れることはできるだろうし、緊急時には逃げることもできるだろう。少し移動して、その近付く影の動向を見守る。
一応、ドローンも飛ばしておく。気付かれて撃墜されないよう、そっとそっと近付いてカメラを起動。シッテムの箱に映像を送っていく。
近付いて来た集団は、見覚えのある制服を着ている。やはり万魔殿か。その先頭に立っている者の顔にも覚えがある。片方はサツキの顔。そして、もう一人は。
「アコ……?」
自分にとって最も信頼すべき副官とも言えよう。天雨アコその人な外見に、ヒナも流石に戸惑う。だが、異聞帯とはそういう性質のもの。すぐに頭の中でそうなる理由に納得をいかせようとする。
この世界にヒナは本来いないのだ。だがアコはいたのだろう。その場合、彼女がいそうな場所はどこだろうか? 普通に考えれば、万魔殿が一番収まりがいい。なるべくしてなった、この世界における結果なのだろう。
「なんというか、痛み入るわ」
「陸八魔アル……たぶんそれは誤用だと思うのだけれど。でも気持ちは伝わった。大丈夫、私はこういう時に容赦なくやれるタイプなの」
「あ〜、これはやってるわね。どう考えても狙ってここを掘ってる。マコトちゃんの心配っていつも当たるのね」
「全くあの人は、ふんぞり返ってる割に勘ばかり鋭いんですから」
「まあまあ。こうしてちゃんと送るべき時に執行部隊を出した。それは認めていいんじゃない? 素直じゃないわね」
単に精鋭というだけではなく、彼女らには一つ、大きな、そして負担の極めて重い役割、あるいは権限がある。
「サツキ部隊長、一応聞いておきます。処分内容はどのように?」
「どのようにって、決まってるでしょう? 汎キヴォトス史、なんてマコトちゃんが呼んでた奴らも、地底探索部も、ゲヘナを殺そうとするのなら、そうし返されても文句は言えない」
キヴォトスにおいて、多いに避けられるべき行為、それは殺人である。彼女ら執行部隊は、これを
当然ながら、この過酷な異聞帯であろうとも、人を殺すということに対しての忌避感、嫌悪感はあるものだ。だからこそ、それ相応の強靭な精神力が、その構成員全てに備わっている。
「了解です。はぁ……今回の仕事はなかなか骨が折れますよ。まさか汎キヴォトス史勢力が地底探索部に入れ知恵をするとは」
「たまたま会ってしまったのなら、ほんと最悪の組み合わせよね。話が通じるのに、考えが全く通じないんたもの。さて、裏は取れたから作戦会議。キャンプ地に戻りましょ」
“汎キヴォトス史──か”
思えば今まで無かった、正史側を呼ぶための名称。今まで過ごしていた現実のこと。それに名前が与えられた。
だがそれ以上に、状況はかなり深刻だということも分かってきたし、今まであえて考えないようにしていたことも露呈してきた。かなり本気で、殺しにかかるくらいの勢いで来ようとしている、というのもそうだが、それはあちらからすれば
即座に、真剣にこれからのことを話し合った方がいいということになった。どうやって戦い抜くか。何か策はあるのか。そして何よりも、これ以上、協力関係を続けていられるのかどうか。
ほぼ確実に外からは見つからないくらいに森の奥深くまで入って、腹を割って話す必要があった。