Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
汎キヴォトス史のサツキは、痛みを嫌っていた。それは彼女の武器にも反映されていた。逆に、口調だけはそのままに、性格は殺意満々の凶悪なものになっているのか。あまりにも禍々しいデザインのアサルトライフルを取り出した。
「先生は撃たせない!」
アルからの、スナイパーライフル使いとは思えない速射によりサツキの手元が狂わされる。そのおかげだろうか、凶弾は先生の首元ギリギリを通過していった。
肝は冷えるが、それを決して表情には出さない。それが我らが先生である。
「私が知ってる、よく似てるのと比べると……随分、気性が荒いのね。万魔殿なんかにいるし。もう分からせてあげるしかないでしょ」
「生きたいのであれば、それ以上口を開かないことです」
ヒナが周りを軽くどかしながら、アコと実質的な一騎打ちに持ち込もうとする。もはや取り巻きは相手にするまい、それよりも強者だろう彼女に集中を、と。
そして、坑道からゾロゾロと発掘メンバーが銃を手に出てくる。人数的には多少劣る上に、あちらの方が全体の練度は上。だがどうにかひっくり返したい。だから、カスミはひとつ、腕自慢に大仕事をさせることにした。
「ねー、部長が言ってた部隊長さんって、あなたで合ってるかなー?」
「……へぇ。タイマンの勝負がお望み? じゃあ私が他に気を配る暇を与えられないってこと、証明してみなさいな」
メグを、サツキの相手をする役にする。地底探索部の副部長のメグは、カスミが最も頼りにする人物。最高の武器を与え、最高の戦力、部の守護者としていた。
左手には火炎放射器。そして右手には、とても片手持ちしながら、いや手持ちで扱うものではない、ガトリングガン。そのあまりにもインパクトのある見た目に、思わずサツキの口角も上がる。
「すっごい、その武器うちに欲しいかも! 普通に執行部隊仕様の武器より凶悪じゃない? 殺さない運用、どうやってるのよ?」
「わっかんないよねー。慣れちゃってるもんね、そういうやり方!」
別に皮肉のつもりはない。というか、メグはそんな頭の使い方ができるほどの出来ではない。ただだいぶ頭に来たらしく、サツキはいつの間にか1対1に完全に乗せられていた。
これで分断は完成だ。なんとしてもその全てで勝利し、万魔殿をこの場から撃退するのだ。
“リーダー格はこの二人に任せて……他の皆は、何としてもあっちに加勢をさせないように全力を尽くしてほしい。私はここまで大人数を指揮するのは難しいから、最低限の仕事しかできないけど、皆を信じる!”
「ふうん。けっこう、知らない動きをするのね。うちのそっくりさんと入れ替わってほしいくらい」
「話は聞いています。汎キヴォトス史と我々には、互いにifの関係にある同一人物がいると。貴女のお仲間と私が対応している、あまり想像したくありませんね」
アコのこめかみを銃弾の束が掠める。ヘッドショット連射を狙っていたか、そしていつになく苛立っているのか、らしくもなくヒナは舌打ちをした。
分かっている、あれは別人。同一人物だが、別人。いつものように、若干鬱陶しいくらいに自分を慕う人物の影がちらつくと、どうしても感情が出てしまうが。
「さっきあなたは、口を開くなって言ったわね。今私ね、同じことを思ってるの。それ以上は私の友人への愚弄になる」
先生は、待てと言うだろうか。ヒナ自身、言ってほしい気持ちも多少はあるのかもしれない。それでも、このアコの姿をした敵を自分が乗り越えなければならない、というどこかから湧いてくる感情を抑えられないのだ。
「なるほど、理解しました。互いに背負っているものは、案外似ているのかもしれません。だからこそ、負けるわけにはいかない」
奇しくも、同じマシンガン使い。突くべき隙も、晒す隙も似る。違うのは、基礎動作の数々。異聞帯特有の野性味、攻めの姿勢、獣のような体重の使い方は、万魔殿の精鋭部隊であろうと変わらない。
だがアコが相手するのは、汎キヴォトス史において最高峰の実力者。後出しでそれよりも強い動き方に切り替えることも可能なのだ。
銃撃戦とは、肉弾戦が成立しないような距離を保ち、遮蔽物などを利用してするもの──というのは、ここでは通用しない。むしろ、その心理を突き、肉弾戦と交えた銃撃戦を行うのが、異聞帯ゲヘナ式と言える。
チアキの部隊など、建物がある環境を前提としている場合は別だが、むしろ執行部隊はその逆だった。いつでもどこでも、処刑をするため。そして臆した者を、確実に狩るため。距離をとったところに当てにいくことを目指す。それは逆に。
「申し訳ないのだけれど。私を威圧で仕留めるには、ちょっと気迫が足りないかもしれないわ」
「……っ! ほんとに本気ですかっ!?」
相手がむしろ向かってきて、すれ違いを狙われると厳しいということを意味する。
それに対する対応は遅れなかった。多少は、多少は想定内だった。ただ、本当にその対策を実践してくるとは。自分のやり方が通じるのか、少しの不安がアコの中に過る。
一方で、ヒナも悩ましく思っていた。確かに相手の攻め手に対応する方法は見い出せていたが、適した攻め手が分からない。多少キメ顔ですれ違いざまに撃ってみたが、それなりに痛い反撃を貰った。その他の切り口が要るだろう。
このままでは、ジリ貧か千日手。確実に心を折らねば、このような本気の相手を抑えきることは不可能である。
ただひたすらに、ふたつの影が山の麓を廻っていた。