Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
「ヒナの姉貴があんな遠くに……」「むしろ楽になった、ありがたい!」「メグさんに奴らを近付けさせるな! 横槍を入れられることだけは避けろ!」
既に互いに何人かは脱落している。数的不利は依然として変わらない。だが状況は少し上向いてきたか。肉食獣の集団のごとき恐るべき精鋭部隊相手に、善戦している。
「戦いが上手いのね、あのヒナって娘は。私達、ちょっと見くびってたかも。正解の戦い方ばっかり」
「ちょっとー、よそ見されちゃ困るんだけどー?」
「うわ、ビックリした。なんでそれ単発で止められるのよ。わっけわかんないんだからもう」
ガトリングの単発威嚇射撃など、あまり聞かない。サツキもその謎技術には驚嘆するが、しかしそこに弱点を見出した。
よそ見されちゃ困る、か。何が困るのだ。むしろそこはラッキーとか、そう言ってくれなければ困る。1対1でやれとカスミに指示を受けてメグはこうしているが、こんな堂々としたやり方にこだわる必要がどこにある。
「いいわ、応えてあげる。私も正直でいることは好きだから。私、サツキっていう名前なんだけど、あなた、なんて名前?」
「え、どうしたの急に。メグ、だけど」
「うんうん、メグね。覚えた。これで──真正面から、撃ち抜ける」
そう言った瞬間、驚異的なステップでメグの横に回り込んで撃つ。撃たれる前に反応して避けることができたが、射線上に味方の姿が。当然ながら命中し、当たりどころが悪く一発ダウン。
「あっ! ……ちょっと、何してるの!」
「ごめんなさい、正面からじゃなかったわね。まあ生憎、正直でいることは好きだけど、騙し討ちも好きか嫌いかで言うと好きなの。メグは?」
「嫌いになったよ、今ので!」
「満点の答えね。さあ、続けましょう」
嘘を、ついたかもしれない。人を騙して自分だけが得をするというやり方は、幼い頃から絶対にやりたくなかった。それをやり続けていると、
その意味は、よく分かっていない。けれど、間違った教えではなかったと思う。カスミ部長は、まっすぐに生きてて、それが誰よりも眩しくて。最後に勝つのは正直者なんだと、そう証明してくれているようで。
だから、ここでもまっすぐに勝つ。大丈夫、それだけの力はある。
「同時発射……避けられるものなら、避けてみろ!」
「ようやく本気って感じ? こっちもう本気出しちゃったんだけど。でもいいわ、死ぬ気でいく!」
「そろそろ、動くのも辛いのでは? どれだけの、弾を受けていると、思って……」
「そっちこそ、もう空元気でしか動けないでしょう……? もうあなたがもたないことは、分かってる」
アコとヒナの戦いは、互いに肉を切らせて骨を断つという戦いが続いていた。撃たれたら撃ち返す。なまじそれで互いにしっかり当てられるばかりに、削り合いになっていた。
もはやこれは、肉体の削り合いではない。実際のところ、肉体だけで言えばもう互いにいくつか筋肉はダメになっている。セナがこれを見ていたら即座にドクターストップをかけるだろう。
これは精神の削り合い。立とうとする意志、それを喰い合っている。意志を削られながら、相手の肉体からしゃぶり、吸うように立ち続ける。
だが、それもそろそろ限界になろうとしていた。
「でも、そうですね。そろそろこのまま続けるのは、私だって辛いです。いっそ、渾身の一発、奥の手を真っ向から撃ち合ってみては? それで立てていれば、文句なし。互いに倒れても、それはまあ、それまでということです」
「そうね。ただ弾を撃つだけじゃない、必殺の一撃で終わるのなら、気持ちよく終われる。私もそのためのやり方とか、考えてはいるものよ」
互いに銃を構える。銃弾を最大まで装填し直し、銃口は互いの急所をしっかりと、じっくりと狙う。どちらが先に出るか、様子を伺う。先に、アコが始めたのは、声出し確認。
「標準補正よし、装填よし、射撃準備完了、身体接続……よし。生体波動弾射出モードに移行」
「……っ!」
生体波動、という言葉にヒナの体が少し震える。キヴォトスの生徒は生命力が強い。銃弾を喰らったくらいでは死なない。だが、そのレベルの生命力を弾丸にされてぶつけられたなら、どうなる?
もはやヘイロー破壊爆弾と危険性はそう変わらない。外してもらわなければ終わる、と体中に緊張が走る。その「覚悟」を、実感する。
アコの銃から、弾が放たれる。マシンガンゆえ、執拗に、何十発と。撃ち返してくる弾はなく、これで敵を消し飛ばしてしまったかと認識する。だが、それにしては、おかしい。
手応えがない。そもそも生体波動入りとはいえただの弾丸、目標を消し飛ばすような性能はない。なら、どこに消えた?
周囲を見渡そうとしたその瞬間、体格的と地形的に本来ありえない、後ろ斜め上から撃ち込まれる。
「能ある鷹は爪を隠す、と言うけれど。
「いや、それは……冗談でしょう!?」
「初めて見た人は皆そう言うの。でも、冗談なんかじゃない。私は、飛べるのよ」
それなりに無理のある動作ゆえ、基本的には避けるものであるが、この通り。ヒナは、背の翼で飛べる。
アコは反撃ができない。流石にかなり消耗した。消耗した上で空撃ちに終わるとは、なんとも不憫なことだが。
「連射速度最大、リミッター解除……!」
「こんな……私は、奥の手を、撃ち合ってと……!」
「ええ、だから奥の手。別に強力な一撃、必殺技が奥の手とは限らないでしょう? 例えば、そうね。速撃ち勝負でも申し込んでたら、勝てたんじゃないかしら」
まあ、マシンガンには速撃ちなんて似合わないことだけれど。
そう言って放たれた、ビームのごとき弾丸の束は、完全に目標を戦闘不能に追い込む、まさしく必殺技であった。
「……ふう。さすがに死ぬほどにはしてないけど、これ完全に気絶してるわね。せめて運びましょうか、ちゃんと帰ってもらわないとバツが悪いし」