Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
火炎放射器と、ガトリングの同時打ち。炎で移動を強制させながら、逃げる先に撃ち込むというもの。なるほど、やられるだけで普通は終わりかもしれない。
事実、サツキは緩急を絶妙につけた読み合いを押し付け、どうにかかわしつつメグの周囲をぐるぐると回って対応していた。
「目が回ったりとか、しないの?」
「……」
「無視、ね。もしくは──踏ん張るために、喋れないとか?」
なので試しに、火炎放射器の方を狙って弾を撃ち込んでみた。命中すると、当然そちらがブレる。だが、体幹全体が一瞬大きく崩れそうになったのを、彼女は見逃さない。
もう一発、もう一発。どうにか立て直して、メグ自身はバレてないと思っているのだろう。しかし、完全に理解したサツキは、急に進行方向を変えて接近、ゼロ距離射撃に移った。
「かは……っ!」
「やっぱり、流石の力自慢でも大変でしょう、それ? さて、次は?」
「……っとと。まだまだ、こんなものじゃない!」
直に殴ろうとばかりに飛び込む。だが近距離はそれこそサツキの得意とするもの。一矢報いたかと思えば押し返される、これを繰り返していた。
こんな時、皆が助けてくれればなぁ、とメグはチラリとカスミの方を見る。しかしあちらもあちらで手を貸している場合ではないらしい。それに、自分は任された身。どうにか、自分だけで頑張らないと、と踏ん張る。
サツキも、決して無傷ではない。実際、死ぬ気でやらないといけないと思うくらいには押されているし、メグを評価している。だがこちらの方が上と、明確に自信を持っているが故の余裕は崩れなかった。
「強い人間には、強い武器。戦術の基本だけれど、流石にもうそれ、持ってられなくない?」
「ううん。部長のために、皆のためにって思ったら、いくらでも力は出てくるから!」
「友情って、羨ましいわ。まあ私は、この立場になる以上、そんなものとは縁を切ったわけだけど……」
言いかけたところで、視界の端に映る。遠くから、何かを担いでくる小さな影。ゆっくりと歩くような動きで、しかし猛スピードでこちらに来る。
その正体に、訓練されている上にゲヘナ異聞帯生徒の基礎スペックの高さもあり、サツキは一瞬で気が付いてしまった。
「……
僅か、0.2〜3秒。その間だけだが、確かに彼女の思考は停止していた。だがその思考停止によって、反応が遅れた。
「ちょっとだけ……待ってあげたよ」
「しまっ……!」
完全に意識が向いていない時間を察知して、構えるだけ構えて、撃たずに待ち構えるとは。どれだけ、真っ向勝負にこだわりがあるのだろうか。
だがそれでも反応は間に合わない。まともに集中砲火を喰らってしまう。
余裕は完全に崩れた。重傷一歩手前くらいでもある。しかし、サツキは立つことができた。おそらく、メグと同じ理由で。脳裏には部隊の部下達の顔、万魔殿の者達の顔、そしてゲヘナの風景が浮かぶ。
決して良いものでなくとも、大事にしていたもの。
「やっぱり、
「そんな……はずは!」
「でも、ごめんね。やめてくれないと、止めてあげないといけなくなっちゃうよ」
ただ叫ぶ。叫びながら、サツキは全身全霊の走りで再びゼロ距離射撃を試みる……が。
銃を握る手を、ガトリングを離した手で掴まれた。そのまま、地に伏せさせられる。彼女の手強いようでいて脆い心は、既に折れていた。
トップに立つふたりがやられて、士気が無くなったのか、執行部隊は倒れた者達を担ぎながら大急ぎで退散した。つまり、この戦いに勝ったのである。
「皆、よくやってくれた! もうよっぽどでもない限り追手は来ないはずだ。来たとしても間に合うまい。発掘を再開するぞ!」
オーッ! と
「メグさん、ヒナ委員長。お二人は治療が必要です」
「ええーっ!? 掘らせてよー!」「私なんかより、やられた皆の方を……」
「ダメです。あっちで伸びてる皆さんより、負傷の内容はよっぽど酷いんですから。本当に、なんでこれで戦えていたのか不思議で仕方ないんですよ」
掘っている面々も、たまたま軽かっただけで、怪我はしている。しばらく休みが本当は欲しいのだが、今日中にという計画は守りたい。万魔殿に再び準備する時間は与えたくないのだ。
いよいよ発掘は最終段階にまで来ていた。低温の層の中心部にかなり近いところまで来ており、もはや土はほとんど無い、ほぼ氷だけの空間になっている。
“あれ、なんかちょっと向こうが透けてない? ライトの反射、さっきまでこんなじゃなかったよね”
先生に言われて、皆も初めて気が付いた。少しだけ、氷の向こう側が見えている──ような気がする。ついに最後のひと押しだと、より一層気合が入る。
ある者は外までそれを伝えに行き、共にその向こうを見ようと誘った。またある者はメグの火炎放射器を取りに行った。向こう側が見え始めてから、急に氷は硬くなり、時間がかかってしまったが、ついにその時が訪れる。
穴を穿った、その瞬間のこと。周囲の氷が、全て一斉に砕け散る。下には、大きな水たまりと、浮き島。全員が着地できる位置なので、そこは良かった。着地の衝撃もほとんど無い、不思議な浮き島。まるで、迎えに来てくれたよう。
そしてだんだんと水位が下がっていく。だが、そんな現象よりも驚くべきことがあった。
「暖かい……どこも、火は焚いていないはずなのに。これが、もしかしてこの世界の……」
カスミの瞳が輝く。人が寒さを凌ぐための火が無くても、とても暖かい空間だったのだ。そして、水位が下がっていく水たまりにも触れてみる。
熱かった。火傷するほどの温度ではないが、自然に「お湯」が存在することに、カスミは腰が抜けそうになるくらいに驚く。
「温泉じゃない! 疲れたところにちょうどいいわ、皆で……あ、でも脱衣所が無いわね。足だけで我慢しましょうか」
アルに倣って、皆で靴を脱いで足を湯に浸ける。
とても素晴らしい。全ての疲れが、傷が、癒えていくようである。
“カスミ。夢は叶ったかい?”
カスミの目が潤む。だがすぐにそれを拭い去り、前を向いて言ってみせるのだ。
「ほとんどは、叶ったよ。でも全部じゃない。ゲヘナの皆に、温かいっていう感覚を、思い出させてあげたいからね」
“なら、まだ手伝ってあげないとね”