Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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1-22:熱源

 負傷者たちも外から呼び、一緒になって、山の中に眠っていた温泉を堪能する。ゲヘナにおいて、最後の温泉になったからなのか、その効能は絶大だ。

 全ての傷を癒す、魔法の泉──そのように呼ぶべき、まさに人智を超えた秘湯。足を入れるだけでこれなのだから、肩まで浸かったらどれだけ心地良いことだろう。

 水位の下降もようやく落ち着いてきた。

 

「……凄いわ、どこも痛くない。セナ、これって痛みが消えただけじゃないのね?」

「見せてください。──嘘。この辺りに痣があったはず、肋骨もやられていたと思います。こんなことが、あっていいの……?」

 

 執行部隊との戦いで戦闘不能状態になっていたはずの部員達も、すっかり元通り。思わぬ──いや、期待していた最高の休憩時間の訪れ、そして夢に見ていた景色への到達に沸き立っていた。

 ここでひとつ、パーティーでもしようか。そんな提案が聞こえてくると、皆もそれに乗っていく。

 

 だが、そうするわけにはいかなかった。先生の元に、方舟からの通信が来たのだ。

 

『先生、いや皆、戦って発掘をして、本当にほんと〜〜〜に疲れているところにすまない!』

“疲れなら大丈夫、最高の温泉で身も心もリフレッシュさ! いや、本当に完璧にリフレッシュしてる。凄いよ”

『それは良かった……いや、良くない! 多少は予想していたことだったけど、ここまでガッツリと連鎖で反応するとは……! とにかく、外に出てくれ!』

 

 ウタハがいつになく必死だ。ここまで必死なのは、いつ以来だろうか。いや、初めてくらいかもしれない。そのくらいなので、事態の想像も逆についていた。なのだが、その想像をも上回るものを見せつけられてしまった。

 

“なん……なんだ、これ……!?”

 

 空が赫く染まっている。血の色のようだった、虚妄のサンクトゥムが染めた色とは違う、全てを焼き融かす炎のような、熔鉄のような色。

 そして遠くには、眩く中央部を輝かせるサンクトゥムタワーが1基。その横には、遠くからでも見て分かる影の巨人のようなものが。

 

『サンクトゥムタワーの座標が、実数空間で割り出せるようになってる。視認はできてるね?』

“やっぱり、あれがそうか!”

『魔王の封印の内側、現実界とは違う場所にあれは隠れていたらしい。いや、私じゃなくてエアトンさんの見解だけれどね』

 

 エアトンの名が出てきた。生徒達からは一歩退いた立ち位置の一般人、という認識は改めていいのかもしれない。何せ、ここで詳しそうな流れが出てきたのだから。

 

“エアトンさん、ちょっとその見解の方をお願いしても?”

『はい。まず私は、あの恐怖を撒き散らす地下空間が、魔王封印の地だろうと考えていました。それは皆さんも想像していたことだろうと思います』

“それはまあ、確かに”

 

 他に想像できることが無かったから、ではあるが。

 

『そこから通じる穴、それを栓のように塞ぐ氷、そして氷は突如砕けた。となればそれは、氷の封印を解きうる熱源への道を塞ぐ栓だったと、そう考えるのが妥当でしょう』

「熱源……あの行政官モドキも言ってたかも!」

 

 行政官モドキというアルの言い方はともかく、話は繋がってきた。エネルギーの移動が物理法則に反していた、というのは異聞帯の地層から観測されていた事実だ。熱を一点に集め、その他を凍結することで、この封印は作られていたのだ。

 

「ちょっと待っていただきたい。ならば、わざわざ封印と熱源を繋ぐ通路を作る意味とは?」

『逆に考えてみてください、公安局長さん。魔王に有利なものを作る者は何者か──そう、魔王しかいない。奴は熱源を探り、()()()()()()ものの、封印はなお対抗したのでしょう』

“……納得は、いく。あの氷に穴を穿つことが、この最後の封印の存在に傷を付ける行為だったことも、言語化はできないけれど、感覚が納得していますよ”

 

 地上の住民が到達しない限り、熱源は誰の元にも届いていないものとする。そのような原理が働いていたのだろう。

 屁理屈のような、概念の壁。かなり危うい防護壁だった。それでもなんとか成り立っていた。それを、破ってしまったのである。

 

 異聞帯を取り除かんとする汎キヴォトス史という立場上、これもある意味で運命だったのかもしれない。いずれにせよ、空想のサンクトゥムタワーは触れられる場所に呼び出さねばならなかった。

 決戦の時は、すぐ近くまで迫っている。

 

“ところでエアトンさん。どこからそんな考えが浮かぶような知識を……?”

『少し昔の、取引相手から聞いた話が活きています。唯一、取引したことを後悔した相手なのですがね。ははは』

 

 

「ああ……なんて、ことだ。ゲヘナ存続の道はもう無い。倒しても倒されてもいけない、あれと共存など、もっての外だ」

 

 ゲヘナ学園の一室。マコトは、絶望に沈んでいた。

 慢心していた。それは確実だ。執行部隊も、戦車隊も信頼に足らない者達だったわけではない。だが、それを信頼しきって、手を尽くしてこなかった。その結果、魔王は目覚めた。

 己の無能を、己自身で嘲笑いたくなってくる。全ては空崎ヒナの行動を早期に突き止められなかったこと、陸八魔アルに見向きもしていなかったこと、そのどちらか、もしくは両方から始まった。

 

「イロハ」

「はい。本当に、申し訳ありません……止められませんでした」

「私達に、もう道はない。だがそれでも、足掻くことはできる。この世を終わりに導いたのだ、償いをさせる必要もあるだろう」

 

 決戦の地へと向かう──そう、全兵員に伝えるよう、司令を出す。決戦の地とはどこなのか、それはもう決まっている。

 魔王の眼前、空想の巨塔が根差す場所。本来だったら可能性からも切り捨てられたこの世界を、現実にまで運んでいる、ただひとつの楔のある氷原のただ中。

 

 魔王──あるいは、「異聞帯の王」。それは、ふたつの方向から迫ってくる、()の存在を感じていた。

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