Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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1-24:生徒達、世界、知らない人達

 自らの足で向かった先、氷原に穿った大穴の前。もう既に、万魔殿と方舟に残っていた者達との戦闘に入ろうとしている、そんな状態まで来ていた。

 

“やっぱり、君が来ていたか。そうだろうなと思ったよ、マコト”

「名前と姿はやはり知っているか。なら名乗る手間が省ける。世界の敵となる者として、どのようなことを考えているのか、何者であるのか、興味はあったが……ヘイローもない、ただの人か」

 

 この評価は、極めて正確だ。結局、ただの人である。だからこその、責任ある大人でもあるのだが。

 

“ただの人、なるほどね。私のことをそんな風に見てくれる人も、意外と珍しいんだよ。素晴らしい私の生徒達の、ちょっと困ったところさ”

「素晴らしい生徒達、か。それについてだが、貴様が生徒に向けている感情は、他の誰もが抱く種類のものではない。そうだろう?」

“そう思うのはなんで?”

「話だけは聞いている。汎キヴォトス史を導く教導者──シャーレの先生、だったか? 貴様は()()()()()()()()であろうとしている。どれだけ歪んだものであろうと、だ」

 

 全くもってその通り。それはキヴォトスでの活動を続けているうちに、より強く思うようになったことだ。

 いや、思わずにはいられないのかもしれない。どうしようもないと仲間達までもが匙を投げた生徒達を、救おうとしたことが何度もある。これでちょっとした都合でそれをやめては、一貫性がない。それは子供の手本としての大人像に反するだろう。

 

“そう。私は、全ての生徒の味方。今までそうだったし、そうありたいと願ってる”

「なら、ひとつ問いたい。異聞帯を解消することの意味することは分かっているな?」

“……分かっている、つもりだよ”

 

 異聞帯は解決したならば、完全に消え去る。その住人は、例外なく共に消え去る。空想のサンクトゥムタワーのシミュレートに存在証明を完全に依存しているのだ。

 丁寧に説明されるまでもなく、そこまで理解はできていた。

 

「なら、私のことはどうなんだ。味方になろうと思うのか? 思うのならば、私の願いは聞き入れてくれるのか?」

“それは──”

「それは? 別世界の生徒は、これから滅ぼす世界の生徒は、違うということか? だとしたらなぜそこの穴掘り共を連れている。()()()()()()()()()()()のが、汎キヴォトス史のやり方か?」

 

 どちらかの味方になれば、どちらかの敵になる。片方しか選べない。生徒全ての味方、決して見捨てないという精神のあり方、先生としての論理に、矛盾がどうしても生じる。やり直しの機会を与えることなく、切り捨てることを強いられるがゆえに。

 

「適当な都合とは心外な。私は自ら望んでこの道を選んだし、皆も自ら選んでついて来たんだぞ?」

「私が問うているのは、異聞帯の生徒が納得しているかどうかではない。この一人の大人が、自らの行いにどのような意味をつけ、どのように正しくあろうとしているのか、だ」

 

 何と答えたとしても、これから異聞帯と汎キヴォトス史の代表同士が戦い合うことになるのは変わらない。構図も、立場も、何もかも。

 それでもマコトは知りたいのだ。その戦いに、確たる決意があるものなのかどうかを。

 

 「先生」として、誰もが納得の行く答えを出すのは難しいかもしれない。彼の誓った在り方は、しかしある生徒にとってどうしても不倶戴天の敵になるシチュエーションを想定していなかった。

 だがそれ以前に、先生である以前に、ひとりの大人であり、人間だ。子供の手本になる者、という意味での大人である以前に、己に責任を持つ個人だ。

 だから今から、子供の前であまり言うべきでないことを言う。それを自ら肯定する。人間として、当然の考えだと。

 

“確かに、私はずいぶん勝手なことをしているね。皆のためにと言いながら、今やここに生きる生徒の敵だ。そのひとりに協力するよう納得させもした”

「それをなあなあにする訳ではないだろう? 貴様はそれをどう肯定する?」

“勝手、だけれど”

 

「それでも私達の世界を続けることを望んだ! それがきっと正しいのだと信じることを決めた! それが君達を間違いと切り捨てることだったとしても、自分が生き延びるべきだと信じることにした!」

 

 何かを食い殺したかのように、顔を歪めながら、なお堂々と宣言する。立場、見え方、それらによってどうしても抑えていた部分をさらけ出す。

 その場の誰もが目を丸くし、そして沈黙は高笑いによって断たれた。

 

「キキ……キキキキッ! よく言った、それが聞きたかったぞ、シャーレの先生! 自らの確たる望みを持ちながら、守る者のため押し殺しもする、まさに導き手の鑑!」

“本当にそうかな。至らないことがたくさんあるから、だと思うけど”

「そんなことはどうでもいい。お前はこの世界に終わりをもたらした。それができたのはなぜなのか、自信を持って言える答えがあるのなら、堂々と償わせることに、迷いはなくなるのだからな!」

 

 戦車の砲身がゾロゾロと動き始める。戦車から降りて戦う歩兵達も銃を構える。それに応じて先生を守るようにメグ、ヒナ、アルが前に出てくる。

 戦いの始まりを告げる音は、そのすぐ側にいた舟から聞こえてきた。

 

 火薬の炸裂音とは異なるタイプの破裂音が鳴り響く。空を切り裂く光弾は、黒い巨人の胴にぶつかり、爆発する。その飛び方に、見覚えがあった。

 レールガン。巨大レールガンだ。天童アリスの「光の剣」のノウハウを活かし、それを巨大化したものとみられる、まさに魔王殺しのための兵器。

 

「────!」

 

 効いているようだ。だが明確にこちらに反応もした。

 

「攻撃開始ーッ!」

 

 マコトの号令と共に、一斉射撃が始まる。

 戦車隊は、最初に遭遇した頃にはコテンパンにやられたものだ。カスミに殿を任せ、どうにか山の怒りに任せて逃げた。

 今は違う。大勢の仲間を引き連れていくことができるまでになった。執行部隊をも蹴散らしたのだ、負ける相手ではない。

 

“皆、最終目標はあの巨人だ。だけれど、そのためにやるべきことはしっかりと、怠らないように!”

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