Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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序:コスモの方舟、発進せよ

“皆、集まってくれてありがとう。これから、キヴォトスを「異聞帯」の脅威から救うための、シャーレとしての活動について説明するよ。まずはウタハ、お願い”

 

 巨大な「舟」の搭乗口が開く。ウタハの先導で艦内を移動しながらの、この舟についての解説ツアーが始まった。

 

「この舟は、先生の持っている『シッテムの箱』という端末を利用して、サンクトゥムタワーと接続し、多次元宇宙での座標移動を……」

「あの、すみません、もーちょっと分かりやすくお願いできませんかね……?」

 

 早速レイサが理解を諦めた顔。ホシノも似たような状態になっていた。イズナに至ってはもはや最初から聞いていないまであるかもしれない。

 

「要するに、キヴォトス大危機の日に大量に使われたオーパーツ達のようなことを、擬似的に、それっぽく再現したんだ。十分なレベルは実現できたよ」

「なるほど! これで通れない壁の向こうに、びゅーっというわけですね!」

“まあ、イズナくらいの理解でも十分ではある、かな”

 

 特に戦闘要員については、こういった難しいことを下手に理解していると、気を遣いすぎる──つまりは、ノイズが増えることになりかねない。イズナの言うような、「びゅーっ」くらいが丁度いい。

 とはいえ、技術者側からは、とてもそうはいかない。現地のエンジニアからも、連邦生徒会のオペレーターからも。

 

「けれど、流石にそれを実現するために必要なメンテナンスの労力は尋常じゃない。けれど、それを請け負ってくれる企業があってね。これから紹介するよ」

 

 コックピットには、会議室が併設されていた。作戦を立てて、それを即座に行動に反映できるというわけである。そして、操縦席に、一人の獣人の男が。

 一行に気付いて立ち上がった犬男は、丁寧に一礼してから名乗り始めた。

 

「どうも皆さん、初めまして。私は、エアトンと申します。しがない技術屋をやっております。今回は社を挙げて、この艦のメンテナンスをはじめ、技術的な事柄について白石女史共々、協力させていただきます」

“心強いことです。よろしくお願いします”

 

 それから寝室、医務室、食堂など、生活スペースを回りつつ、各自の持ち場も確認していった。その途中でエアトンの部下とも何度かすれ違った。

 外から見たら巨大でも、ここまで設備が詰め込まれていると多少狭く感じる。だが文句を言ってはいられまい。

 

「以上が、この『舟』の説明だよ。あったら、自由に質問してほしい」

「では、私から。医務室の設備は、増やせそうなら増やしても?」

「ああ、セナさんが望むようにしていい。ただし、当然資源に限りはある。異聞帯で現地調達というケースもありうるかな」

 

 D.U.が狭いわけではないが、孤立状態である以上、その辺りは深刻だ。正直予定以上に「舟」の建造資材の調達もギリギリだった。

 キヴォトスを取り戻すというのもあるが、人々の生活のために、どうにか一刻も早く異聞帯を攻略する必要がある。尤も、存亡の危機が目前に迫ってくると、生活だとかはどうでもよくなるかもしれないが。

 

「私からもいいですか!」

「君は、レイサさんだったね。いいけど、狭い船内だ。声は抑えてね」

「はい! それで、この舟、ですか? なんて名前なんでしょうか?」

 

 数秒の沈黙、からの唸り声。さては考えていなかったな、と白い目がミレニアムの天才技術者の方に向けられる。これは仕方ないのだ。ロマンを愛する傾向がエンジニア部にはある以上、ネーミングには悩むものなのだ。

「雷ちゃん」のような親しみやすさ重視のネーミングとは違う、カッコよさ重視のもの。設計思想に取り入れた、オーパーツのエッセンスを加えて……閃いた。

 

「そうだね、『コスモの方舟』なんてのは」

「おお……!」

 

 レイサには見事刺さったらしい。他の面々も納得したようだ。というわけで、正式に「コスモの方舟」という名前に決定。

 テンションが上がったところで、発言の機会を逸し続けていたユウカが思い切って、しかし申し訳なさそうに挙手する。

 

「うん? どうしたんだいユウカ、何か言いたそうにして」

「いや、これ絶対に言ったほうがいいと思うんだけれど……ウタハ先輩、一応聞きますよ。自爆スイッチっていうのは」

「あるよ?」

「あるぅーっ!?」

 

 当たり前だろうと言わんばかり。隙あらば自爆スイッチの精神か、と怒ろうとするユウカだったが、このスイッチ自体には合理的な理由がある。ただし、難しい理屈というよりは、シンプルな思考放棄的な合理性。

 キヴォトスを上書きする侵略行為への抵抗、見方を変えれば戦争。故にこそ、本当に必要な場面になったら自爆も辞さない覚悟がいる。

 

「──ってことだから。大丈夫、真剣に作った最終手段としてのスイッチだ、安全装置は多重でかけてるよ」

「じゃあいつものアレは真剣じゃないと」

「はははっ、怒られは後で聞くよ」

 

 横で聞いていたエアトンが、ボソッと一言。

 

「ミレニアムの天才とは、ああいうものなのですか? 些か不安になってきましたが」

“……お互い、頑張りましょう。責任ある大人として”

「……ごもっともで」

 

『こちら連邦生徒会の由良木モモカだよ〜。発信準備完了、異常なしであることを確認。あとはそっちの判断で出発してね』

 

 ウタハが通信に対して静かに頷くと、視線は一斉に先生の元へ集まった。総司令官演説、というと少し大袈裟かもしれないが、それくらいに空気は引き締まり、張り詰めている。

 

“皆、一緒に乗ってくれてありがとう。カンナなんか、こっちでの仕事もあるだろうに”

「じっとしていられないのが、私ですから。大丈夫です、ヴァルキューレにも、そうでなくとも、留守を任せられる仲間は大勢います」

 

 公安局の皆。それだけじゃない、他の部署の生徒達も。そして、あの子ウサギ達も。

 頼んだら、引き受けてくれた。応援してくれた。付いてきたり、代わりに行くというのも、一部の生徒にとってはアリだったが、言わなかった。カンナ局長は、「そういう人」なんだ、と。

 

“ホシノとユウカだって、たまたま当番の日にこんなことになって、他の皆なんかもっと酷い偶然だったわけだ。そんな中で力になると、そう決めてくれたことに感謝してる。だから全力で私も応えるつもりだよ。そして、キヴォトスを取り戻すんだ”

 

 たまたま資材を調達しに来たから。招待されたから。不良を追って来たから。買い物していたから。たまたまだ。

 それでも十分だったのだ。共に、世界を救う方舟に乗る理由は、それだけで良かったのだ。

 それを受け止めて、キヴォトスの外から来た一人の大人が、キヴォトスのために宣言する。

 

“それでは──コスモの方舟、発進せよ!”

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