Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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1-29:光掲げる者

 誰が見ても、その少年こそが諸悪の根源だということは理解することができた。そういう外見だからではない。見たことによって、()()()()()()()()()()()()というのが適切かもしれない。

 その存在は、語りかける。声を発することなく、音声の情報を、その場にいる者の脳に直接。

 

──聞くがよい、神に仇なし、故に永遠の滅びの地の王となりし我の言葉を。

──我が名はルシフェル(Lucifer)。神の敵、全ての敵、果の罪人。敵対者(サタン)の概念の主なり。

──悪魔達よ、貴公らは我と共にある同胞であった。然れども、今や人の身に堕し、人として貴公らを生かす、その方舟の理に縋る愚昧である。

──我は許さぬ。神を、その箱庭を、そこにある全てを。

──故にあまねく全ては滅ぶべし。世界とは、かくあるべきものにあらず。

──消えよ、堕ちよ。その血の華を散らし、方舟を沈めよ、堕ちた者達。

 

 その意味するところについて、考える時間は与えられなかった。なぜなら、無数の光線を放って攻撃を開始してきたからである。

 

 今まで機械的な反撃で使ってきた弾とは、比べ物にならない破壊力で蹂躙していく。万魔殿の戦車隊は一瞬で壊滅、歩兵も同じく、そして地底探索部も一気にやられていく。

 避けようとした者には、先読みで軌道を曲げていった。仲間を庇う者がいても、容赦なく一気に撃ち抜いた。たまたま逃れた者もいるが、逆に直撃して命に関わる怪我を負った者もいた。

 不幸中の幸いと言うべきか、汎キヴォトス史側の生徒は皆これを逃れることに成功し、カスミとメグもどうにか切り抜けていた。すぐさま、先生の元に合流する。

 

“残った顔ぶれが頼もしいのは、まだ救いだね。ただ、あれにどう対処するかだ”

「頼もしいと言ってくれているところ悪いけれど、私はもう戦えないし……弾もないし、体力も気力ももう、ね」

 

 ヒナの発言にセナはやはりため息をつき、診せてください、と言おうとした次の瞬間。

 

「いやだあああああっっ!!!」

 

 戦車隊の主力、先程までメグとアルが奮闘していた場所から叫び声が聞こえる。

 

「すみませんヒナ、先生、皆さん、行ってきます」

“ちょっと……!?”

 

 どうしても、行かなければいけない気がした。セナは全力で走りだしていた。

 

 

「そんなはずない、イブキ! 返事をしてください、イブキ!」

 

 イロハの叫びは、力無く横たわるイブキには届かない。腹部から出血し、強い衝撃も加わったようだ。このままでは危ない。

 そんな中、セナが颯爽と駆けつけてきた。

 

「なるほど、これは……ですが、まだなんとか間に合います。安全なところ、そうですね。私達の方舟の近くまで運びましょう」

「え……? なんで?」

 

 イロハには、不可解で仕方がなかった。どうして敵側の者が、助けに来ているのか。

 

「それは、()()()()()()()()()。これでも私は汎キヴォトス史におけるゲヘナで、救急医学部を率いる身ですから。とはいえ一人では心許ない、方舟のスタッフにも連絡を──」

「そうじゃなくて! 私達は……敵、なんですよ? あなた達が勝ったら……治したって、消え去るんですよ? なのに、そんなことをやる意味なんて──!」

「それがなんだと言うのです!」

 

 声を荒らげられることに慣れていないのか、萎縮するイロハ。だがすぐに理解した。この人はきっと、とても優しい人だ。

 目が潤む。言葉が出ない。

 

「先程まで敵同士だった相手でも、手持ちの器材が少なくて打てる手が少なかったとしても、治った後にどうなるとしても。傷病者を見て、放置することは、医療を行うものとして決してあってはならないのですよ!」

「──!」

「まだ戦闘が続いて危険ですが、可能な限り怪我人を運んできてください。絶対に、死体は増やしません」

()()()()!」

 

 気付けば、その名前を呼んでいた。知らないはずなのに。この世界には元々いなかった、けれどココロの片隅にはその記憶のかけらがある、その名前を。

 

「どうして、私の名前を……? ああ、そういうことですか、イロハさん」

「どうか、どうかイブキを、皆をよろしくお願いします……!」

 

 セナ自身も運ぶ。イロハも呼びかける。ぞろぞろと、陰になる位置に集まってくる。先程の光線も方舟はどういうわけか狙っていなかったことだ。ここが一番安全だろう。

 方舟のスタッフにも何人か心得がある者がいたため、防寒装備を整えて降りてきた。とはいえ、数人で治療をするには限界はある。だが、やるだけやる。

 

「それでは、救急救命活動を開始します」

 

 

“こっちも人手が一人でも欲しいところだけど……セナの意志は、無下にすることはできないね”

「ああ、私はむしろやる気が出たね。思ったよりたくさんのものを背負っているって感覚が、ハッキリしてきたよ」

 

 それを負担とは思わない辺り、やはりカスミは頼もしい。一方、不安そうにしているのがジュンコ。

 

「すぐにセナさんの方に、行かされちゃうんだろうなぁ……」

「あら、怖い? それじゃあ美食研究会の暴食家さんにアウトローからアドバイスよ。ちょっとでも役に立とう、なんてゆるい考えはよしなさい。いいところで、派手にやっちゃうだけの人になるくらいでいいの」

 

「どうあれこの異聞帯は滅びる。魔王による破滅か、私達による消滅か、そういう違いでしかない。であるならば戦いの動機はひとつ。あれを決して野放しにしてはならない──そうでしょう、先生」

“参ったな。私の言いたいことをだいたい先に言われてしまったというか……もうカンナが先生やるかい?”

「まさか、そんなことができるはずもない。頼らせてください」

 

 皆で同じものを見る。この氷雪地獄の支配者、異聞帯の王、この世全ての敵が。

 

──愚かなり。人の身に堕ちて、わざわざ歯向かおうなどとは。

──では全て消えるがよい。その生命で、思い知れ。このルシフェルを相手するとは、どういうことなのかを。

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