Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
誰が見ても、その少年こそが諸悪の根源だということは理解することができた。そういう外見だからではない。見たことによって、
その存在は、語りかける。声を発することなく、音声の情報を、その場にいる者の脳に直接。
──聞くがよい、神に仇なし、故に永遠の滅びの地の王となりし我の言葉を。
──我が名は
──悪魔達よ、貴公らは我と共にある同胞であった。然れども、今や人の身に堕し、人として貴公らを生かす、その方舟の理に縋る愚昧である。
──我は許さぬ。神を、その箱庭を、そこにある全てを。
──故にあまねく全ては滅ぶべし。世界とは、かくあるべきものにあらず。
──消えよ、堕ちよ。その血の華を散らし、方舟を沈めよ、堕ちた者達。
その意味するところについて、考える時間は与えられなかった。なぜなら、無数の光線を放って攻撃を開始してきたからである。
今まで機械的な反撃で使ってきた弾とは、比べ物にならない破壊力で蹂躙していく。万魔殿の戦車隊は一瞬で壊滅、歩兵も同じく、そして地底探索部も一気にやられていく。
避けようとした者には、先読みで軌道を曲げていった。仲間を庇う者がいても、容赦なく一気に撃ち抜いた。たまたま逃れた者もいるが、逆に直撃して命に関わる怪我を負った者もいた。
不幸中の幸いと言うべきか、汎キヴォトス史側の生徒は皆これを逃れることに成功し、カスミとメグもどうにか切り抜けていた。すぐさま、先生の元に合流する。
“残った顔ぶれが頼もしいのは、まだ救いだね。ただ、あれにどう対処するかだ”
「頼もしいと言ってくれているところ悪いけれど、私はもう戦えないし……弾もないし、体力も気力ももう、ね」
ヒナの発言にセナはやはりため息をつき、診せてください、と言おうとした次の瞬間。
「いやだあああああっっ!!!」
戦車隊の主力、先程までメグとアルが奮闘していた場所から叫び声が聞こえる。
「すみませんヒナ、先生、皆さん、行ってきます」
“ちょっと……!?”
どうしても、行かなければいけない気がした。セナは全力で走りだしていた。
「そんなはずない、イブキ! 返事をしてください、イブキ!」
イロハの叫びは、力無く横たわるイブキには届かない。腹部から出血し、強い衝撃も加わったようだ。このままでは危ない。
そんな中、セナが颯爽と駆けつけてきた。
「なるほど、これは……ですが、まだなんとか間に合います。安全なところ、そうですね。私達の方舟の近くまで運びましょう」
「え……? なんで?」
イロハには、不可解で仕方がなかった。どうして敵側の者が、助けに来ているのか。
「それは、
「そうじゃなくて! 私達は……敵、なんですよ? あなた達が勝ったら……治したって、消え去るんですよ? なのに、そんなことをやる意味なんて──!」
「それがなんだと言うのです!」
声を荒らげられることに慣れていないのか、萎縮するイロハ。だがすぐに理解した。この人はきっと、とても優しい人だ。
目が潤む。言葉が出ない。
「先程まで敵同士だった相手でも、手持ちの器材が少なくて打てる手が少なかったとしても、治った後にどうなるとしても。傷病者を見て、放置することは、医療を行うものとして決してあってはならないのですよ!」
「──!」
「まだ戦闘が続いて危険ですが、可能な限り怪我人を運んできてください。絶対に、死体は増やしません」
「
気付けば、その名前を呼んでいた。知らないはずなのに。この世界には元々いなかった、けれどココロの片隅にはその記憶のかけらがある、その名前を。
「どうして、私の名前を……? ああ、そういうことですか、イロハさん」
「どうか、どうかイブキを、皆をよろしくお願いします……!」
セナ自身も運ぶ。イロハも呼びかける。ぞろぞろと、陰になる位置に集まってくる。先程の光線も方舟はどういうわけか狙っていなかったことだ。ここが一番安全だろう。
方舟のスタッフにも何人か心得がある者がいたため、防寒装備を整えて降りてきた。とはいえ、数人で治療をするには限界はある。だが、やるだけやる。
「それでは、救急救命活動を開始します」
“こっちも人手が一人でも欲しいところだけど……セナの意志は、無下にすることはできないね”
「ああ、私はむしろやる気が出たね。思ったよりたくさんのものを背負っているって感覚が、ハッキリしてきたよ」
それを負担とは思わない辺り、やはりカスミは頼もしい。一方、不安そうにしているのがジュンコ。
「すぐにセナさんの方に、行かされちゃうんだろうなぁ……」
「あら、怖い? それじゃあ美食研究会の暴食家さんにアウトローからアドバイスよ。ちょっとでも役に立とう、なんてゆるい考えはよしなさい。いいところで、派手にやっちゃうだけの人になるくらいでいいの」
「どうあれこの異聞帯は滅びる。魔王による破滅か、私達による消滅か、そういう違いでしかない。であるならば戦いの動機はひとつ。あれを決して野放しにしてはならない──そうでしょう、先生」
“参ったな。私の言いたいことをだいたい先に言われてしまったというか……もうカンナが先生やるかい?”
「まさか、そんなことができるはずもない。頼らせてください」
皆で同じものを見る。この氷雪地獄の支配者、異聞帯の王、この世全ての敵が。
──愚かなり。人の身に堕ちて、わざわざ歯向かおうなどとは。
──では全て消えるがよい。その生命で、思い知れ。このルシフェルを相手するとは、どういうことなのかを。