Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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1-32:湧き上がる湯水の如く(上)

 激しい弾幕が張られるのは、一切変わることはなかった。どこからでも弾が射出される、数千人規模の狙撃手が狙撃銃を連射し続けているかのような飛距離、鋭さ。

 だがちゃんと有効射程に入った射撃がこちらもできる。勝負になっている。

 

“アロナ、ルシフェルの状態を”

『はい。ここまで特にメグさんには頑張って頂いたのですが、それでもまだとてつもない強敵です。攻撃は効いてはいるのですが……』

“そうかい、ならいつものことだね。まともに勝負になりさえすれば、戦力差くらいはひっくり返す。慣れたものだよ”

 

 思えばキヴォトスでもそんな戦いの連続だった。「崇高」、「恐怖」、「預言者」──特に苦労したのはこの辺りになるが、その他にも挙げきれないほどにある。

 格そのものは、ルシフェルも変わらないどころか、上回っているくらいですらある。何せゲヘナの全ての根源に通じるもの。しかも、今回はひとつ大きな制限がかかっていた。

 

 大人のカード。どうしようもないくらいの状況をすら逆転に導く、奇跡への道を開けるカード。しかし、異聞帯の出現によりほとんどの生徒との繋がりが失われ、そのせいでほとんど機能しなくなった。

 

『カード、ですか? 確かに、性能が現状1割ほども発揮できないようです。ですが、今までの奇跡はずっと先生自身が呼び込んできたんだと思いますよ!』

“そう言ってもらえると、勇気がわいてくるね。奇跡か……そうだ、取り戻そう。私達の、数多の奇跡が待つ場所を”

 

 

 一方。アルの内には、ほんの少し不安が生じていた。地上に降りた敵は、かなり動き回るようになっている。その上、遠くに構えていたところから自分はあまり動けていないでいた。

 自分は力になれているのか、そもそも当たっているのか。ここからは、接近しなければ。

 

「あの公安局長、すごい注意を引きつけてるわね。よくやるわ……今のうちっ!」

 

 視線が完全に向いていない状況を作ってもらい、安全に接近できる、と思っていたのだが。

 ぐるりとルシフェルの首が回転したかと思えば、急接近してくる。いつから見ていたのだ、と言いたくなる。それ以上に、まずいことになった。魔弾が実弾より強力とはいえ、直殴りの方が強烈であることを肌で感じ取ってしまった。

 

「ウワーッ! イヤーッ!」

 

 恐怖に叫び回っているが、決してヤケクソなどではない。ちゃんと避けて、ちゃんと反撃している。そしてちゃんと遠距離で当てるよりも効いている。

 おまけにカスミにとっても好都合な誘導だった。というより、彼女が近くでやろうとしていたことをアルがやってくれた。

 

「なんとも都合がいい、ナイスだ陸八魔アル!」

「ちょっと、こんな時に本名呼びしないで! ちょっと面白いから!」

「なぜかこの呼び方がしっくり来る。どうしてだろうね?」

 

 これに関しては、誰も知らない。汎キヴォトスにない事実に基づいている。汎キヴォトス史におけるカスミ、すなわち鬼怒川カスミはもう少しアルに対してはフレンドリーだった──呼び方だけに限っては。

 だがそれは問題ではない。主戦力が一気に接近できたのだ。更にここから、方舟からの連絡が入る。

 

『先生、サブで用意していた砲台がちょうどよく火力支援に使えそうなんだ。すぐにでも撃てるけど、許可はもらえるかな?』

“よし、力を借りるよ。撃つときには巻き込まれないように皆を誘導するから、私が指示したタイミングで発射して”

 

 撃ち込めるかぎりの火力を叩き込む。当然ながら、それに伴ってかなりやり返されているのだが、やはりふたりは怯まない。

 

──貴様らもか。何がそこまで、貴様らを突き動かしている? 

──理解できぬ、しかし全ては無意味である。我は知っている、踏みにじられることを是とするのは無意味である。

 

「知っている? 違うね。()()()()()()()()()()()ということが、存在レベルで決まっているだけさ」

 

 不敵に笑ってみせるカスミ。学び、育ち、変わることができるのは、人の能力だ。神のような存在というものは、存在そのものがあり方を規定する。価値観を規定する。ならば、その他を学べないのではないか? 

 神秘が人の器に宿ったことは、必ずしも堕ちることを意味していないのではないか? 

 

 そう、これは証明だ。人は強いということ、純粋な神秘の存在であるのではなく、人の身に宿ることに新たな意味が生じうるということの。

 最初の異聞帯を締めくくるための決戦には、ここから胸を張っていけるようにするという、大きな意義があるのだ。

 

──おのれ、おのれおのれおのれ! 

──しつこい、それ程に我が憎いか、我を殺したいのか、我を否定したいのか! 

 

“憎いわけじゃない。殺したい……のかもしれないけれど、それは一般的な殺意とは違う。そして、君を否定したいわけでもない”

 

 ルシフェルは人の敵、全ての敵。そういう概念そのものと言ってもいい。概念そのものを憎むことはそれこそ無意味だし、一般的な殺意は抱くことはないし、否定はそもそもできない。

 ただ。

 

“ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その責任として倒されてもらうことを望んでいる”

 

 そうあることを強いられたのではない。彼は自らを選んだのだ。「人の上に立つ存在」が、そうしたのだ。

 この時点で、先生の責任論にある程度触れる。正しきものに仇なすことを選んだ悪の責務、それはやられ役。

 

 もし、自分がそのような立場になったなら、先生はそうする。「自分」がそうした事例を、知っている。敵役は出過ぎた真似をしないもの。

 この異聞帯の成立過程自体が、そこをルシフェルが誤ったことによるものだったのだ。裏切り者として敗れ罪人として封じられた悪魔の王、その役割を破り、でしゃばった。

 故にその誤りを元に戻す。元あるべき、正しい持ち場にある世界に正す。それが、過ったものを捨てることとなろうとも。

 

 方舟からの砲弾が、魔王の腹部に当たる。あと少しで風穴が開いていたであろう凹みを生じて、なお健在。人の粋より上にいる存在は、この辺りにおいてはやはり格が違う。

 だがその胴のに乗った顔は、明らかに心乱れていることを端的に物語っていた。

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