Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
脳内に声が響き渡る。怨念と執念に満ちた、魔王の苦悶の声が。
──認めぬ、認められぬ。我は、全能の王になることができるのだ。
──衝突する必要のない、誰が邪魔になるでもなく、ただただ全てが己を満たすことができる、その在り方を肯定する王に!
全能を名乗ろうとしている割に、人間臭い望みを持つものだ。あるいは、彼なりに人に寄り添った末の結論か。
確かに人というものは、満たしきれない程の欲を持つ。満たそうとしたならば、必ず誰かを踏みにじる覚悟が要る。そんなことをせずとも、いくらでも欲の限りを尽くすことを肯定する、それは幸福かもしれない。だがそれは、文字通り、悪魔的な幸福だ。
「そんなことができるように、仮になったとして。いつ満たされるのかしら? 結局寂しくなってしまう。だから私達は仲間を求めるの」
アルの脳内の靄は、少しずつ晴れていた。大切な仲間の名前も、だんだんと思い出している。思い出すと、恋しくなる。
人は人が恋しくなる。生きるもの全てが互いを恋しく思っているとすら言える。一人で完結するように、出来てはいない。
「そういうことさ。私も仲間に恵まれてここまで来た、新たな仲間との出会いで前に進んだ。そりゃあ自分勝手にはやれなくなるが、それもまた繋がりというもの。それ無しに一人で満たせる世界を作れるなんて、思い上がったなぁ!」
遂にカスミが至近距離まで迫る。単に射撃を当てたとしても、それがゼロ距離だろうと最終的な有効打になるほどの効果はないと思っていた。だからこそ、利用することを思いついたものがある。
“カスミ、それは……”
「ああ、見ての通り、地底探索部が地面を掘る道具だよ。何せこいつの体は物理的に硬そうだ。弾丸で叩くより、こっちの方がもしかしたらいけるんじゃないかって、ね!」
人とは組成が異なるのであろう、その肉体に鋭い掘削機の先端が突き刺さる。振動、回転を畳み掛け、ガリガリと削る。どうも石膏像に近い材質なのだろうか、確かに銃弾よりも効く。
これにルシフェルも焦ったか、集中攻撃を浴びせる。カスミにでも他の誰かにでもなく、掘削機に。そのためこの攻撃も長くは続かなかったのだが、それでももはや致命的。
全身がひび割れ、そこから液体の陶器とでも表現できそうな「何か」が流れ出していく。手足も割れて、もはや動けない。弾はそれが無くとも問題なく撃てるが、そんなことは意味が無いと、自分が一番よく知っている。
──たかが、人の身にある者ごときに、なぜ?
──いや、だがよい。
“どういう意味だ……?”
──ほう、そこの者は……良し、貴様には教えてやるだけの価値がある。教えてやろう。
──我は、このくだらぬ世を作り変えるための白紙の下地を作れれば、それで良い。そこに我が辿り着けなくともな。
──貴様らは予定外だった。だがいかなる予定外があろうとも、関係はない。我が肉体を全て使い、この世界を焼き尽くす。灰の白から、やり直すために!
方舟もシッテムの箱も、全ての力をルシフェルは一点に集めているという観測結果を返す。極限まで高められたエネルギーを爆発させ、言葉の通り全てを焼却する気でいる。
“体内に炉心があるのか? あるとして、肉眼で視認できるものなのか?”
エネルギーが集まっているなら、そこを叩けば全てが崩壊するはず。だが座標を確認できない。すぐ近くにいるカスミにも、アルにも、その位置が分からなかった。
だが、それはルシフェルの前に立っていたからだった。後ろにいた二人──カンナと、ジュンコ。揃って、口にした。
「見えた!」「あれじゃない?」
後ろ側のヒビ、そのひとつを少しだけ斜めの方向から見た時に、ちょうど少し視認できる位置。そこに、とても小さな、しかし太陽のようですらある光が見える。あそこに力が集まっていないなら、一体どこに集まっているのだ。
しかし同時に察知する。時間がない、と。もはやチャージそのものは瞬時に終わり、もう炸裂させるだけなのだ。あと数秒を逃したその瞬間、全ては消し飛ばされる。
この為に、温存してきたと言ってもいい。力のボーダーが極めて高いゲヘナ異聞帯において、常に力不足を感じながらも食らいついてきた。
「いいところで、派手にやっちゃうだけの人になるくらいでいいの」
アルも、こう言っていた。ならばその通りにさせてもらおう。ここまでの舞台を整えてくれたことに、全霊の感謝を持ちながら、
そのために、トリガーを力いっぱい引く。ジュンコの連射も、あえて止めて出力を上げた。極限状況が集中を高めたか、単なる偶然か、それともこれもまた巡り合った奇跡なのか。かつてない精度で、小さな小さな目標にまで弾は向かっていき──命中。共に、弾けた。
──なん……だ、貴様……!
絶叫。ルシフェルの叫びだけではない。近くに聳え立つ、空想のサンクトゥムタワーからも、脳震盪を起こしそうな悍ましい不協和音が響き渡った。
“本当に、あれがサンクトゥムタワーと同じ性質なのか……?”
連邦生徒会は、あんなものを本当に扱っていたのだろうか、サンクトゥムタワーは人に建てられるものなのか、疑問は尽きない。
確かなのは、この叫びが断末魔の叫びであるということ。中央部の輝きは次第に消え失せ、上部からゆっくりと、崩れ落ちながら塵と化していくのが見て取れる。
ルシフェルもまた、暴走したエネルギーが全て自らに襲いかかり、もはや消えかかっていた。
──そう、か。我に全てを委ねていたからには、あれもまた消えゆく定めということか。
──そして、どうやら最初の脱落者ということのようだ。ひとつ競争相手を廃するも、決して楽ではなかっただろう?
──楽しみだ。貴様らがどのような苦難に敗れることとなるのか。勝ちの目は、万に一つもない故に……期待は膨らむものよ……
これは単なる負け惜しみだっただろうか。それとも警告、忠告であっただろうか。いずれにせよ、最後の最後に至るまで、敵意を全てに向け続け、災難を願い続けた。それが敵対者の概念を