Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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1-34:またいつか、どこかで

 魔王は滅びた。それに伴い、その存在証明を含めた全ての演算を委ねていた空想のサンクトゥムタワーも崩壊する。

 この瞬間、汎キヴォトス史とゲヘナ異聞帯の戦いに決着がついた。敗北を悔やむ声も、勝利に沸き立つ声も、上がりかけてすぐに止まる。この異聞帯は、これで消滅する──その事実を知っているために、どんな顔をすればいいのか、全く分からない。

 

「終わった、か」

「ああ、終わったよ」

 

 カスミはマコトの元に歩み寄ったが、これだけ言って詰まってしまった。本当にこれで良かったのかとか、なぜ勝てたのかとか、そういったことを話し合っても、野暮に思えた。

 そこにやって来るのは、汎キヴォトス史の導き手、シャーレの先生。彼が言い渡すべき言葉とは、別れの言葉だった。

 

“見ての通り、空想のサンクトゥムタワーは消滅したよ。私達も、帰らなきゃいけない。お別れだ”

「そうか、なら行け。私は元から敵だった身、名残惜しく思うようなところはないぞ」

「まあ、そう言ってやるなよ。そうならなかった可能性だってあったんだろう?」

 

 そうならなかった可能性はあった。その可能性に、元々いたのだ。

 だから名残惜しい。この世界でも絆を結ぶことは、流石に叶わなかったのだ。

 

“知っての通り……ゲヘナは近いうちに、汎キヴォトス史に戻る。だから、この世界は、住人諸共消える”

「だからもう会えない、なんて言おうとしているのかい? そんなことは絶対にないさ。二度と会えない人なんて、何があったってそんなものはない」

“そうか……君は、そう考えるんだね。私もまだまだだなあ、生徒にこんな大事なことを教わるとはね”

 

 世の中には絶対などというものはない。もちろん、いて当たり前くらいの人と突然会えなくなるということもある。だが、同じように二度と会えないはずの人と何かの偶然で会うこともあるかもしれない。

 だから、別れの挨拶は、こうでなければならない。

 

「そうさ。だからあえてこう言おう。()()()、と!」

“うん。またいつか、どこかで”

 

 

 先生、セナ、カンナはコスモの方舟に乗船していく。ゲヘナで合流した生徒達もいたが、全員留まることを選択した。

 

「異聞帯が無くなったら、元のゲヘナだもの。そう、あのゲヘナ。私は絶対必要だと思うから」

 

 ヒナは元に戻った後の世界を守るために、世界を取り戻すための戦いからは身を引く事にした。きっと元に戻ったら荒れることだろう。いつものように。いや、自治区間の行き来が満足にできない状態とあっては、より一層荒れに荒れることは間違いない。

 そのためにも、やはり連れて行くことはできなかった。

 

「まあ、私はほぼ異聞帯の存在みたいなものだし、ついていけるわけが無いのだけれど。私がいなくちゃ、ムツキもカヨコもハルカも、やっていけないんだから」

 

 アルは、だんだんと本来の「陸八魔アル」の部分を取り戻してきていた。社員の名前も、ようやく声に出して言えるようになった。異聞帯が消滅するにつれ、存在そのものからも異聞帯要素が抜けていくのだろう。

 記憶が鮮明になってきて、より一層、再会が待ち遠しくてならなかったのだ。もちろん、彼女が不在では社員も混乱する。今回においては、アルの言葉は完全に正しい。

 

「私も早く皆と食べ歩きしたいし。美食研究会の仲間もお腹いっぱいの食事もなくてすっっごいストレスだったもん! 思いっきり満喫させて!」

 

 ジュンコは欲望に忠実だった。無理もない、日常の食糧もちまちまと狩猟をしてようやくというもの。栄養価は高くとも、食文化の楽しみを失っていたのがこの世界なのだ。

 その鬱憤を晴らしたいという望みを、無理に抑えさせてまでここから先の戦いに付き合えと言うほど、先生も鬼ではない。

 

“じゃあ、皆ともしばらくのお別れかな。皆、ゲヘナのことは任せたよ。君達なら大丈夫”

 

 

「お帰り先生、本当に大変だったね。私もついて行かなかったのが申し訳なかったくらいだ」

“なんだいウタハ、君がここにいなかったらできなかったこともたくさんあるのに。ユウカに、エアトンさんだって、本当に色々助かった”

 

 言及されたユウカとエアトンに関しては、異空間航行を行うためのセットアップで忙しいようだった。イズナとホシノは上から戻ってきたようだが、同伴していた二人と比べるとやはりピンピンしている。何やら忍術や盾で巨人形態の魔王の攻撃をいなしたりしていたとのことで、それでこの元気さなのだから、ここから頼りがいがある。

 

「うぅ……気まずいです。乗り物酔いで倒れてたあげく、なんにも役に立ってない……!」

“大丈夫だよレイサ、次がある。次があるってこと自体は、なんにも大丈夫じゃないけどね!”

「イヤな冗談やめてくださいよー、あははは! ……冗談ですよね?」

 

 こちらも元気で何よりだ。今後の宇沢レイサの活躍から目が離せない。

 

 いよいよ、コスモの方舟が航行に入る。これを以てゲヘナ異聞帯からは離脱し、D.U.のガレージに帰還することになる。

 窓の外を見ると、カスミとメグ、そして地底探索部の部員達が手を振っている。あちらから見えるかは分からないが、方舟の乗員もできる限り振り返した。

 

 

 大きな艦が浮いたかと思えば、一瞬にして消えた。別れの瞬間がいざ来てしまえば、本当に一瞬だった。

 

「部長、これからどうしよっか」

 

 メグの目は、遠くを見ているようだった。これから残りの時間で、何をするのかを考えて、頭がいっぱいなのだろうか。だがそれでもカスミは変わらなかった。

 

「そんなのは決まっているさ。ついて来てくれ、さっきも言った通りだが、君と一緒じゃなきゃ意味がないんだ」

 

 振り向いたのは、マコトの方向。彼女もそれに気付いたようで、その場から離れようとしている足を止める。

 

「何だ? 何だろうと今となってはどうでもいいが……それより、奴はお前の夢を叶えていかなかったぞ?」

「何を言ってるんだい、必要な事を彼はやってくらたさ。あとは、()()()()()()()()()()()()()ために──君達に、ついて来てもらうよ」

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