Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
身が張り裂けんばかりの極寒の地、紅蓮地獄の底の果てにて、その氷の蓋を破る時を待つ。
1-1:ゲートの向こう側
コスモの方舟が起動して、少し動くと、気づけば周囲の景色は地下ガレージから異空間になっていた。
「うへぇ!? 何これ怖い!」
異様な光景にうろたえるホシノのことを、ウタハは全く気にする様子もなく、いつものエンジニア部の発明のように解説し始めた。
「高次元の空間に移動したね。ここで座標を移動することで、壁を無視して異聞帯に到達できるわけだ。けれど、異空間では三次元の住民である我々はうまく移動できない。そこで役立つのが、先生の持っている端末」
“私はこれをサンクトゥムタワーと接続してる。そして、別のサンクトゥムタワーの信号もキャッチしてたんだ”
これが意味するところは、両者の間に繋がりが生まれたということ。繋がりの証明があるなら、それを辿ることができるはずだ。そして、その行き先は──目的地。
ワイヤーが繋がっているから、そこを行けばもう一方の端に行ける。ロープウェイのごとく。逆に言えばそうしない限り、この本格的な陸海空対応の艦も危険なのだ。
「こうやって『ゲート』を開くことによって、世界の壁を越えるんだ。いやあ、『全知』ほど並行世界論には明るくはないけれど、案外いけるものだね」
『この空間内はまだ通信が繋がりますね。ただ、異聞帯と通信が繋がらないのは最初から確認できていたこと。ゲートを通じて最低限の情報を一方的に送るのが関の山かと』
逆になぜ異空間なら、こうしてリンからの通信を受け取れるのか、というのは分からない。というのも、これは若干ウタハからしても想定外だったからだ。
「むしろ逆にいけるものなんだね。さて、今繋がっているゲートはひとつだけ。行き先は……ゲヘナだと予想されているね」
ゲヘナ。キヴォトス屈指の無法地帯、治安という概念自体を適用するのが馬鹿馬鹿しくなる、本来の歴史でも魔境な三大自治区の一角だ。しかし、この前提は何も役に立たない。なぜなら、黒服の言葉を信じるなら、歴史が全く異なる。
むしろあまりに平和になった世界、とかであれば楽だろうな、などと冗談のようなことを先生は考えていたところ、少し空気を読まない発言が。
「ちょっといいですか……? 揺れすごくないですか?」
「まあ上下左右もよく分からない空間だからね。もしかしてレイサさん、酔ったね?」
「はい、トリニティのスーパースターがこんなんじゃあ、いい笑い者ですね……うぷ」
空気を読まなくて助かったかもしれない。ちゃんとこういうことは言ってくれねば。速攻で医務室のセナの元に送られることになったレイサであった。
“……皆も酔ったら言ってね。それはそれとして、サンクトゥムタワーから、空想のサンクトゥム側の存在の「ズレ」を観測して、ランク化したものが出たよ。本来のキヴォトスをどれだけ否定するかの目安、「異聞深度」……今回は、Bランクだって”
仮のデータ程度のものとはいえ、これには一定の根拠、理由というものが存在する。違うキヴォトスをシミュレートするサンクトゥムタワーは、それだけ「本物」と違うはずなのだ。
そしてそれだけ、キヴォトスを強く否定する。
と、した上で。当然の疑問が出てくる。
「あ、主殿……いえ、先生。つかぬことをお聞きしても……?」
“何だいイズナ”
「つまるところ、Bランクというのは、どれだけのものなのでしょうか」
──分からない。ひとつも事例を見ていない以上、何も言えない。ただ分かっているのが、E〜Aランクに、例外のEXランクがあるということだけ。つまり察することができるのは。
“Aの次なくらいだから、相当高い部類ではあるね。本当に常識が通じないくらいの場所を覚悟した方がいいかもね”
なるほどー、と分かるような分からないようなという様子を見せるイズナ。常識が通じない世界というのは、当然常識の枠で想像しても考えつかないものなので、当然の反応か。
あれこれ予想してもしょうがない。予想外に動揺しながらやっていこうではないか。
異空の海で揺られること、30分ほど。
「よし、そろそろゲートの出口まで来たみたいだ。向こうの環境もある程度観測できる……!? これは……!」
ウタハが思わず絶句したのを目にし、ユウカがそれを覗き込み……同じく、絶句する。その横で、エアトンは部下たちに指示を出していた。
「整備士一同、
「本当に、これが火山の膝下の巨大自治区……ゲヘナの環境だというのか!?」
レッドウィンターでもなかなか見ないどころか、氷原地帯でもかなり寒い環境に匹敵する気温が観測されている。少なくとも、ビーチ、温泉、農園で知られるゲヘナの姿は、そこには存在しないようだった。
そして満を持してゲートの向こう側、ゲヘナ異聞帯に辿り着く。その景色は、ほぼ白一色。雪山、雪原、氷の木々。そして、特徴的な活火山は、氷に覆われていた。
湧き上がる湯水の如く