Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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1章エピローグ:夢の湯

「いきなり熱源の方まで走らされたから、一体何かと思えば……なるほど。見せたくなるわけだな」

 

 ヒノムの内にあった熱源が、どのようなものであったのかを見るのは、マコトにとっても初めてだった。あの魔王を封じていたものとは思えない、地底の幻想風景。だがカスミの夢とは、この景色自体ではないというのは、今となってはもはや言うまでもないことだ。

 

「見せたかった、というのもあるがね。やはり体感してもらわなければ、心残りしかないというものさ。さあ降りるぞ、ついでに服なんぞ脱ぎ捨てて全身で浸かれーっ!」

 

 メインはその下にある、温泉だった。このゲヘナで唯一の温泉であり、唯一の温もり。

 最初に訪れた際には足しか浸かっていなかったので、全身浴はカスミからしても初となる。ほぼ飛び込みくらいの勢いで入ったところ、あまりの気持ちよさに周りに呼び掛けるのも忘れそうになった。

 

「──はっ! ああ、君達も入ったらどうだい! いいぞぉこれは! ほら、議長さんも遠慮しない!」

「なっ、心の準備がまだできていないぞ!? それにここで服を脱げなどと……」

「いいからいいからー! 入ってみればわかるって!」

 

 メグに押されて、入り口から滑り落ちる。どうにか壁を蹴って、陸地になっているところで着地をする。

 まだ素直に入ろうと思えないマコトだったが、なんとも言えないカスミの顔を見て、バツが悪くなったか。渋々ながら、その身体を温泉に浸けることに。

 

「なんだ、これは……とても温かくて、優しくて……知らない。私は、こんなものが世界にあったなんてことは……」

「知らなかったの? それって絶対人生損してるって」

 

 いつの間にか隣でぬくぬくしているメグに少し引きつつも、マコトは本題を切り出した。

 

 

「お前はこれのために、あそこまでのことをしたのか? 世界を敵にする、滅ぼすことになるかもしれないと、知っていながら」

「どこまで知っていたかな……元々は、何も知らなかったかもしれない。けれど、知ってしまっても、やりたかったんだ。この世界は、温もりを失った。そのまま続けていくのは、きっと地獄のような滅びより辛いことだと思ったから、皆に思い出してほしかったんだ」

 

 この世界は、致命的に間違えた。あの魔王が、「追放された敵対者」であることに自ら反したために。そして()()()()()()()()()()()()()ために。

 人の生きる世界としての在り方に、完全に違反してしまった。終わらせるのが正しかった──そのように、客観的に言えばなる。とはいえ、である。

 

「それを実際にやるのは、恐ろしいことだ。苦しみを断つために消えるのは、相当に勇気が要ることだ。個人ですらそうだ、自らそこに踏み切れるのなら、続けることの恐怖にも勝てる。まして世界レベルともなれば……」

「その勇気というのは、皮肉かい?」

「まさか。純粋に敬意を表しているとも。ここまで、幸せそうな人の姿を見るとな。初めてだよ、こんなことは」

 

 二人はメグの方を見る。いつの間にか、温泉が気持ちよくて寝てしまっている。とても幸せそうな寝顔だ。きっと、いい夢を見ていることだろう。

 そして、おそらくは、その夢は覚めることなく──

 

「そうか、メグは幸せそうに見えるんだな。私にもだよ。うん、やっぱり──この景色が、一番見たかったんだろうなぁ」

「人というのは……嬉しくなっても、泣くものなのか。知らなかったな、嬉しいなんて、今まで縁がない感情だった」

「そうだとも。初めてメグに会った日にも、泣いたものさ。初めて私のことを笑わないでいてくれたのが、嬉しかったんだ」

「……何かが、違っていれば。私も、お前の仲間とはいかずとも、同類くらいにはなれただろうか」

 

 

「……ひとつ、聞いてもいいかい?」

「なんだ?」

「私の、夢。どうだった?」

 

「……そうだな。ありがとう。悪くなかった」

 

 

 刹那、光が辺りを包む。それが消えていくと、ヒノム火山の内に空洞など無くなっていた。元の火山だ。

 元の街並み、元の暖かさ、元の人々。元あるべき場所に、元あるべき()()()()()。何が先程まで起きていたか、何も知ることはない。

 

 ゲヘナの市街の一角。とある温泉好きの少女が、一筋の涙を流していた。

 

 

 

Lostbelt No.1        異聞深度:B

 

噴雹紅蓮地獄 コキュートス

湧き上がる湯水の如く

 

空想切除

-Mythology Denial-




世界が滅びる?
私も巻き込まれる?
それが何だ!

虚しいままに長々とズルズルと生き続けるよりも、
成し遂げたという確かな思いと共に短い命を終える方が、
素晴らしいに決まってるじゃないか!


──これは、ただの夢想に過ぎぬもの。
温かさを見つけた少女の、決してありえぬ未来。
それでも君は思い描く。
氷に閉ざされた大地の人々を、温もりで繋げて生きていく彼女の姿を。
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