Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
そこで幾多もの屍を踏み越えて、ひとり立つ者をただ待つ。
全てがひとつになる、その時を。
数日後、先生のレポートが連邦生徒会に提出され、方舟の元にメンバーが集結した。
「ありがとうございます。私達にとって、舟のデータログとこのレポートだけが、異聞帯とは何なのかを知る情報です。異聞帯は、完全に消えてしまいますから」
“そう。消えるんだ。そこで生きてきた人達もろとも。結果としては修正されるような形だけれど”
「それは……確かに、そうかもしれません。なら、なるべく速やかに」
“それは良くない。
リンとは、こんなやり取りをしていた。さっさと空想のサンクトゥムタワーを破壊して、知らない顔をして去ってしまうのも、手ではある。しかし、責任ある大人として、そんな手段は取れないし、子供に取らせるべきではない。
相手を知った上で、見返りを求めない協力者を探し、図々しくもある頼みを通し、生存競争を生き抜く必要がある。そうしなければ、人間を失う。その方向に、生徒を導いてしまう。
このことを、出発した方舟の搭乗員にも伝えた。
「私も普段自警団でやっていることを考えると、確かになって思いました! 不良生徒を捕まえるというのも、ただ悪い奴を倒すだけのことじゃないんだって思うことが増えてたというか……知ってあげないとって。でもこの戦いって、それとはまた違うっていうか……」
レイサも普段から、敵になる者を見つけて、戦うことをしている。だがトリニティという環境において、それは一定ではない。派閥争い、内輪揉めとは縁遠い彼女ですら、それには悩まされるのだ。
そして、その複雑な背景を知るということも。これからの戦いも、きっとそうなのだ。
“うん、これから私達は世界を滅ぼす戦いをする。だから全てが敵になってもおかしくない。でも突然どこかから味方が見つかるかもしれない。そして、その全てを知っておきたいんだ”
突入前から、なかなかにしんみりとした話になったが、重要な心構えとして、共有しておきたかったのだ。
さて、今回の出撃メンバーを決める。まず案内役になれるイズナは確定として、もう一人。
「ゲヘナはなんというか、私程度の戦力ではもはや影響は小さい場所でした」
“いや、カンナは本当に良い役目をやってくれたよ? あれが無かったら大爆発で……”
「そういう話ではありません。我々生徒は戦力になりますが、それ以外の部分も考慮していかねばならないということです。ゲヘナのことを踏まえて」
ある意味では、ゲヘナは「それ以外」がある程度噛み合っていた。現地で出会った生徒で他に必要なことも補完できたというところもあるが。
ただそういった点で見ても、やはり相応しいと思った生徒がいる。
“だそうだけど、ホシノ。どう思う?”
「どうって……えぇ? ほんとに私でいいわけ、先生?」
“うん。百鬼夜行の生徒の誰を味方にするにしても、君の心強さはまず揺るぎない。しっかりやってくれると思ってるよ”
というわけで、イズナとホシノが今回のメンバーである。
「メンバーは決まったね、それじゃあゲートの向こうに行こうか! 環境状態の観測開始!」
百鬼夜行異聞帯の気温、湿度、その他諸々の気象条件は汎キヴォトス史の推定コンディションとほぼ同一であり、異聞深度についても再測定・再定義を適用してもやはりEのまま。特殊な対策は不要だろう。
機械設備も常に寒冷地対策のためにあれこれしなければならなかった、あの環境を知るとかなりありがたい。温帯の気候は最高である。
「この様子でしたら、ゲートの先に今すぐ出ても問題ないでしょう。出ますよ!」
操縦席のコンピュータを操作して、エアトンは次なる異聞帯の景色の中へと方舟を運んだ。風景も、やはりと言うべきか本来の百鬼夜行とさほど変わらない。
“見た目では分からないような、重大な違いがあるってことなのかな? それはそれで、かなり危険そうだ”
「近付いてみれば、何か分かるかもしれませんよ。ゲヘナくらい分かりやすい方が、もしかしたら珍しいかもしれないんですし」
これはイズナの言う通りだ。そういう意味でも、この土地に馴染みのある彼女の同行は欠かせないのである。
ランディングポイントにするための平地は、郊外の街の近くに見つかった。準備期間のうちに試験的に方舟に実装していた、光学迷彩機能を使ってどうにか誤魔化す。風景が単純な場所なので、遠目からならバレないだろう。
拠点の方舟も、必要に応じて移動することも今回は視野に入れていいようだ。
「万が一のことがあれば、この方舟は救急車代わりに呼んでも構いません。私が対応します」
“気遣いありがとう、セナ。必要になったら全力で頼らせてもらうよ。なるべく方舟のことに集中してほしいから、本当に必要なときだけね”
「はい。ですが、いざ使う際には、気負うことなくご利用ください。こちらも全霊を注ぎます」
着陸直後、出発する直前にこんなやり取りがあった。救急車にしてはえらく大きいし、呼ぶ際に色々な人に負担がかかるが、その辺りは合意が取れていることであろう。主に、エアトンとウタハに。
そして先生、イズナ、ホシノの3人は、百鬼夜行異聞帯の大地を踏みしめた。
「ここが百鬼夜行異聞帯……と言っても、おじさんあんまり百鬼夜行のこと分からないんだけどね」
“まあ、縁はないよね。私はそれなりに行く機会があるけど、まだ違和感に気付くところはないかな”
「それは何もないところにいるからですよ、イズナもまだ何も分かんないんですから。さっきも見えましたけど、あっちに街があるので行きましょう! 何か変わったものが見つかるかもしれませんよ、ささ主殿、こちらへ!」
「……うへぇ〜、先生ってばほんとにニンジャを仕えさせてるんだね〜」
色々と誤解を生みそうな言い方である。今回はなかなか、賑やかな旅になりそうだ。
そして実際に、とても賑やかな旅となるのだが──同時に、 明日を夢見てはいられない日々にもなるのである。
咲かずの花々の彩