Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
敵は主に南方から来ているようだった。様々な通りをランダムに通っているため、他の方から来ることも無いことはないという感じではあったが、それでも南下しながら処理していけば、後ろから来るということはなかった。
“これほど規則的だと、やっぱり誰かが送り込んでいそうだね。それも、ほど近い所から”
「そういえば、本屋さんも言っていましたよね、
「うへぇ〜! 勝手に納得してる〜! お願いだから後で元の百鬼夜行のこともしっかり教えて〜!」
とにかく、推定魑魅一座が構えているであろう街の南を目指しながら進む。自分達以外に戦い慣れをしていると思われる人物は見当たらず、どうやらこの異聞帯、治安維持組織はまるで末端には行き届いていないらしい。
これは確かに今後ずっと店じまいになってもおかしくない事態だった。それどころか、事前にこれを知る手段がありながら一部住民は出歩いていた辺り、そこをもはや気にしない精神が広まっているか、あるいは情報も行き渡りにくいのか。加えて、先生の中にはある違和感があった。
(いくら、魑魅一座とはいえ……こんなに危険な怪異をけしかけるか? ハッキリ言ってそれは考えにくい、そう思いたい。やっぱりこの異聞帯、見た目以上に
怪異の脅威たる所以のほとんどが消滅しているに近いので、たったふたりであったとしても軍勢の処理はかなり容易くできた。そのふたりというのが、優秀な忍者と暁のホルスであるというのもあっただろうが。
そろそろ市街地と言える場所も端の方まで来ようというところで、いよいよ親玉のような大物が見えた。単眼のまるまるとした巨体、まさに怪物の親玉といった雰囲気だ。
“他は粗方倒したし、一番対処すべきはあいつだね”
とはいえ、感覚としてはもはや大型戦車を相手にしているくらいのもので、腕に覚えがある生徒達は対処も慣れたものである。
形は全く違うのに、攻撃手段も戦車がやることと絶妙に似ていたので、余計にやりやすい。人も乗っていないだけに、さらにやりやすい。端的に言えば、特に苦戦する要素が無かった。
「ふぃー、終わり終わり! さてと、本屋さんに戻るついでに、ちょっとサボってる治安維持側の人達に文句言いに行っちゃおうか?」
現地人と荒波を立てるのは程々にね、とホシノに注意する先生だったが、その視界にチラリと映ったのが、一人のお面を被った生徒の姿。即座に理解した。
“そこにいるね、今回の騒動の犯人!”
「なんだなんだなんだぁ!? ここは陰陽の奴らがほぼ放棄してて、折角だから制圧してやろうって腹積もりだったのに……皆やられてるんだけど!? あんたらさては、陰陽軍の隠し玉!?」
こちらに向かって来て、また聞き覚えのないことを言ってくる。陰陽部と何か関連がありそうなワードだが、「軍」という言い方は引っかかるし、何よりこの生徒、放っている
そしてサインを出したのか、仲間も後ろからやって来た。そこまで多くない数だが、数的不利であることには変わりない。
「大丈夫なの? そこまで力を入れる作戦じゃないからって人員全然投入してないのよ?」
「仕方ねえだろ、まあ予想外の形で負けたってなったって、陰陽が無視してもいいって思ったようなトコだぜ?」
「ちょっとあんたらー。しっかりしてよ、最後に頼れるのは自分の力だって、普段から鍛えてきたのを活かさないと」
あちら側もあちら側で、動揺はある様子。しかしその全員に共通するのが、やはり普通でない殺意。
キヴォトスの人間は、なまじ頑丈であるが故に、生半な暴力で死ぬことはなく、その反動のようなものか、殺意は滅多に抱かない感情である。何かの感情を誤魔化すかのように、反射的に使う感情ではあるが、純粋なものとの縁はほとんど無い。
敵方は5人ほど集まったところで、上空に威嚇射撃を行ってから、こちら側に撃ち始めた。
「やば……っ!」
肌で危険を察知したホシノは、即座に盾を展開して防御する。神秘の力を利用する特別製のシールドであったとしても、一発一発が大砲のように異様に重い。
イズナもまた、サブマシンガンと忍具をフル活用して、必死に目くらましや回避を行う。初手でかなり萎縮させられることをされてしまい、攻勢に出にくい。
「棒立ちすぎだろって思ってたのに! こいつら相当な手練だぞ!」
「それにしてはビビりすぎじゃない? こういう弱腰なのは待てばいつかは隙を晒す。そうしたらそうだね、脳天でも喉笛でもブチ抜いて。貫通力高い弾に換装、今のうちに」
リーダーと思しき少女が、この上なく物騒なことを言っている。これはまずい。何がまずいかというと、本当に命の危険があるというのはもちろんのこと、この手の者は大抵完全に動けなくなるまでしないと執念で殺しにくるのである。
加減が難しい。更に悪いことも起きた。
「もしかして私、ナメられてる? 普段ならなめられても気にならないけどさ〜……なんか、嫌なんだよね。今に限っては」
ホシノにスイッチが入った。こうなるとかなりこのおじさん、加減をしない。加減をする技量はちゃんとある、そもそも技量に関しては右に出る者がない。だがそれを意識的にしなくなってくる。
「ホシノ殿、落ち着いてください! なんというか、すごく怖いですよ!?」
“かなり気合いを入れないと、何をされるか分からない相手なのは確かだ。だけど……相手の出している空気に、あまり影響されないようにね”
「分かってる。とりあえず、お帰りいただくのが最優先、それでいいよね?」
有無を言わせない調子で言うものなので、静かに頷くしかない。このやり取りを見ている相手側も、少し凍っているくらいだ。
これまでに無いような、緊張感のある戦い。その要因は、なかなか見ないような感情を向けてくる敵だけでもなかった。