Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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2-11:真に強きもの

 任務地は、百花繚乱軍の領域の辺境。辺境とは言っても、領域となる土地自体がそこまで大きくないため、中央ともそこまで大きくは離れた場所ではないところに位置していた。

 依頼を受領し、移動をした頃にはまだ想定目標となる敵軍勢は動きを見せていない頃だった。なので、人々と触れ合う機会も多少ながらあった。武器装備も特殊な忍具以外は調達できた。その上で、感じられたことがあった。

 

「なんか、すごく人が活き活きしてたよね。あんなの見たことないかも」

 

 ミチルが言う通りで、かなり人々が明るかった。最初に訪れた街も、陰陽軍の基地のあった場所も、忍軍の里も、どこか慎ましやか、物静か──あるいは、何かを恐れるような雰囲気が漂っていた。いや、この地の人々にも、それが無いとは言えないのだが、それでも明らかに違うところがある。

 

「すごく、希望を持って生きてるって感じです! 弾薬を買っていく人に向けて、あんなに素直に、頑張ってねって言ってくれるなんて思いませんでした!」

「なんかそういうのも変な感じだけどね〜。でも雇われだって知っててあの反応は、ちょっと感動したかも。おじさん最近涙もろいんだよ〜」

 

 泣けるかはさておき、嬉しい気遣いを心の底からできるのは、心の余裕の証のひとつである。そういったことの表れがあるというのは、どちらかというと汎キヴォトス史に近い。というよりむしろ、そこに持っていこうとしているようにすら思える。

 何かしらの抵抗力の表れだとするのなら、やはりそういうことであろうか。先生の中で、さらに確信に近付いていくものがあった。

 

“……そろそろ観光気分ではいられないかな。指定のキャンプ地で待機しよう。どれだけ夜眠れるかも分からない”

「うへ、先生マジメだなぁ。じゃあ夜の見張りは任せてね。そのぶん日があるうちは寝てるから、忍者の皆よろしく〜」

 

 

 キャンプ地。先生と生徒のテントは流石に別々。ただそれが逆に、独りで考えたり、方舟との連絡の時間にできる。

 この時においては、ウタハと繋ぐ時間を用意できた。

 

“前は忙しい時に繋いじゃってごめん。そっちの分析の方は進んでる?”

『進んでいるよ。ただ、それによって新事実らしいものは明らかにはなってないかな。いや、この場においては()()()()()()()()()()()()()()かもしれないけど……』

 

 ということは、化学的分析は決定的な汎キヴォトス史との差異を示唆しなかったということであろう。明らかに既存の物理法則に反する現象が起きている、ということもないようだ。

 

“収穫ナシ……では、なさそうだね。何か考察の種はあった感じかな?”

『まあ、何でも考察の種にはなるさ。まず、察しているだろうけど、自然環境や地質、そういったものは私達のよく知るキヴォトスの温帯地域とほとんど変わらない、ごくありふれたものだ』

“そうだろうねえ。極寒地帯と比べると本当に過ごしやすさが全然違うし、変なものを吸っている気もしないよ”

 

 むしろ自然環境という面で言えば、汎キヴォトス史より良好まである。大気汚染や水質汚染に関しては元々キヴォトス全体の意識はそれなりに高いわけであるが、それでもこの異聞帯には劣る。

 これに関しては、汚染原因になりうるものとの縁が、多少ではあるが少ないのだろう。微妙な差異のレベルだが、注目には値するか。

 

『戦闘データについては、ある程度は興味深い結果が出ているかな。身体能力に関しては、忍軍は訓練されているって感じで高いんだけど、他の生徒達はほとんど私達と基本が変わらない生き物だ。多少アベレージが高そうと思われるくらい』

“ゲヘナみたいに、生物としてちょっとレベルの違いを感じるほどじゃないってところかな”

『そういうこと。ただ、携行可能な兵器が独自の進化を遂げてるね。おそらくは、キヴォトス基準でも殺傷力を十分に持てるように作ってる。妖魔を倒す、あるいは人を殺す。先生が聞いた話も含めて考えると、200年間の()()()()()というわけさ』

 

 嫌な響きだ。逆に汎キヴォトス史が薄氷の上で、それでもどうにか回っていたのは、長い間殺意が飛び交わなかったのが要因のひとつでもある。

 そして、問答無用で人を黙らせるその力が、いつしかこの異聞帯で「強さ」を意味するようになっていった。

 

“でもやっぱり、そういう強さを身につける方向に文明が進んでいくっていうのは良くないと、私は思うんだ。これは、こっち側の価値観の押しつけなのかもしれないけれど、そう思う”

『私だってそうさ。そして、その価値観を作る歴史が勝てるんだって、証明しよう。皆で』

 

 きっとウタハは将来、いいリーダーになれる。そんなことを先生は思っていた──それには、趣味志向が少しばかり惜しいところがあるが。エンジニア部の部長としての姿もなかなか頼りがいがあるが、方舟の技術者代表となってからは、たまに先生顔負けなことを言ってくる。

 通信を切って、また先生は思った。自分もまだまだ未熟かな、と。

 

 

 その夜。どれだけ寝られるかも分からない、という心配はすぐに当たることになる。

 とりあえず早めに寝て、最低限の体力は確保していた。それに、銃声で十分に目は覚めた。音の距離感からしても、見張っていたホシノが先制攻撃を仕掛けたのは明らかだった。

 

“皆、すぐに戦闘開始! ホシノ、状況を!”

「不用心にコソコソ、あいつら百花繚乱領に侵入してた! 誤射だったらごめんだけど、たぶんターゲットだよ!」

 

 ライトで照らしてみると、友軍などではなくしっかり今回のターゲットだと確信できた。何しろ、歩いていた人影のうちいくつかが、姿形だけ擬態していた妖魔だったのだ。

 妖魔もカウントする数値で20人ほどの規模、少人数で夜の闇に紛れて突入して市街地を奇襲する気だったのだろうか。最低限の初撃としては有効だ。そして、精鋭に依頼してそれを妨害させるという対処が、有効になるくらいには小規模。

 

「なんだ、忍軍にジャマさせんのかよ! 人手不足半端ねーなおい!」

“どうだろうね。本当の強さを、教えられることになると思うよ?”




サブタイトルを忘れて投稿してしまうという、かつてない失態を犯してしまいました。
温かく見守ってくださると幸いです。
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