Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
妖魔というものも、なかなか精巧な擬態をするものである。何せ、その内にある──神秘や恐怖にも、どこか似た──呪いのような力がある以上は、必要とはしないはずの武器の扱いを覚えている。人と同じやり方をする為に。
問題は、その必要性がどこにあるのかという点だった。だがこの場では有効である。人は殺したくないが妖魔は滅ぼしたい、そんな存在にぶつけるシチュエーションで、混乱を誘える。
誘えるはずだったのだが。
“妖魔と人を分断しよう。イズナ、ツクヨ、誘導! ホシノは対人が強いはずだからね、化け物退治は任せたよ、ミチル!”
『妖魔の反応数、14です! その全てが人型、中には外見がかなり人そのものな個体もいます! マーキングしますね!』
レーザーポインターに接続して、アロナは妖魔を指し示す。煙幕弾も積極的に使っているため、その道筋はよく見え、見逃す心配はあまりない。
手加減するべき方としないでいい方を分けると、格段に戦いやすくなるということを先生は即座に考えついていた。それにしても、生身の人間が少ない。
「あんたケガ人じゃないか! それならどうってことない、全身その腕と同グェッ」
「腕が何だって? この通り利き腕は動いてるんだけどな〜」
早速ひとりダウンさせるホシノ。一方で、忍者達ははというと。
「この敵……目くらましが、全然効きませんよ!?」
「うーん、やっぱ目でモノを見てるんじゃないみたい。じゃあ別のものをくらませるしかない! ってことかな……しょうがない、ツクヨあれ出して」
とりあえず数を減らすために、視界を奪って何体か不意討ちしようとするが、失敗。炸裂音の中でも行動できる以上近くに使うのは聴覚でもなく、そもそも五感であるかどうかも怪しい。
そういうケースにおいて、使えるものがひとつ。
「では、こちらを……えいっ」
ツクヨが投げたのは、特殊なガスを噴出する穴の空いた缶。彼女特製の忍具のひとつで、生体エネルギー、あるいは神秘に近い性質をもつ特殊な薬品をここから噴出させている。本来の用途とは違うが、機転をきかせた形だ。
もしやと思いやった形になるが、これが思わぬ効果を発揮する。
「32k-y!?-j-!? dA dA !」
人間のなりそこないのような声を上げて、使い慣れていなさそうな銃を乱射する。徹底的に生き物を害する目的で作っているのだろう、生体波動に反応して攻撃するようだ。
実体のない「敵」に囲まれて、パニックを起こしているといったところか。狙い撃ちはされなくなったが、しかし数撃てば当たる状態。
「うへっ!? こっちにも飛んできてるんだけど〜!? 先生は!?」
“こっちは大丈夫、ホシノは……大丈夫そうだね! それにしてもツクヨ、なかなか派手にやってくれたね”
「ご、ごめんなさい! やってしまいました……!」
“謝らなくてもいいよ、むしろチャンスだからね。同士討ちが始まったわけだし!”
訳も分からず撃っているからなのか、その弾丸に込もる殺意はあまりに低い。そのせいか多少の被弾は許容できるくらいの火力に留まっており、しかもあちらは味方同士で当たりまくる。そのせいで、その方向に敵がいると勘違いした妖魔同士が、潰し合う。
「こんなんじゃなんの役にも立たない! 止める? 止めちゃう?」
「もうやってもやんなくても意味ねえっての! それより問題はコイツだよ、ケガ人のクセになんなんだよマジで!」
人間サイドが、片腕折れのホシノに手こずっている。しかしまあ、キヴォトス全体で見てもトップクラスの技量の持ち主、不利なシチュエーションにおいてもできることの多い彼女である。愚かにも舐めてかかった結果だろう。
気付けば動けるのも残りは3人。だんだんと負けたときのことを考え始めていた。
「もう皆置いて逃げようよ! 私死にたくない!」
「ちょちょ、ちょっと待って! 流石にこっちは命はどうこうしないよ〜! 雇い主に言われてるし!」
「……ほんとに?」
「うん。でも雇い主さんには引き渡すけどね」
自然に命の危険という発想になることを憐れみながら、さらにダウンさせていく。これで残りはふたり。そして妖魔の方はというと、ほとんどが同士討ちで処理できてしまったため、もうあとはトドメを刺すだけになっていた。
それに気付いた先生は、あえてこっそりイズナだけに伝わるようにホシノの方に行くことを指示。何をすればいいのかは、彼女も分かっている。
「……ワイヤー? まずい、縛られ……!」
「うんうん、やっぱりこの鉤縄便利ですね! 大丈夫、百花繚乱軍はそんなに悪いようにはしませんよ! ……
「たぶんじゃねーっ!」
といった具合で、とりあえずこの戦闘はほぼ終了。ダウンした者達は百花繚乱軍に回収をするよう伝えつつ、今確認すべきことを聞く。
“とりあえずこれだけ聞いておくかな。仲間はあとどれくらいいる?”
「いない、帰らせた。あたしらが掻き回して、パニックに乗じて本隊の予定だったけど、やってらんねーって。なんでこんなよく分からん警備雇ってんだよ」
どうやらこれで依頼完了ということでいいらしい。この言い方では、翌日以降にまた攻めに来る可能性もある。こういったことには、日常的に悩まされているのだろう。
早く、もっと近くで役立てるようになりたいものだ。現状、一番の希望であるこの組織のために。
“それだけ分かればいい。あとは引き渡し先に任せるよ。とはいえ、来るまで時間がかかるし……ホシノ”
「はいはーい。それじゃ先生は下がっててねー」
「うわーっ! 結局ンガッ」
銃弾を撃ち込む方法に頼るまでもなく気絶させてしまった。片腕を固定しているとは思えない手際である。
もう片方の、縛られた瞬間から声も出ない方も同じやり方で
「今回はありがとうございました。この者達は、私共が預からせていただきますので。それでは今回の任務、お疲れ様でした!」
回収班に皆で一礼した後に、こちらもこちらで帰還の準備に入る。
その様子を遠くから見守る、人影がひとつ。
「まさか、本当に……? 急いで、お伝えしなければなりませんわ……!」