Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
百花繚乱軍からの直接の指名による任務依頼は、見事に成功を収めた。これはきっとあちら側からの評価も大きく上がったことだろう──ということは、想像していた。
だが、少し想像していない範囲のことが実際には起きるものである。
「青羽ミチルさんのお宅は、こちらで間違いないでしょうか?」
忍者屋敷に帰ってきて数時間としないうちに、思わぬ来訪者が来るとは。しかも髪型から一瞬分からなかったが、顔立ちを見れば先生の目には、それが異聞帯のシズコであるということが分かった。
「うん。私がミチルだけど」
「はじめまして、私は百花繚乱軍で人財収集に協力させていただいている、
見た目以外は、よく知る河和シズコにかなり近いことが見て取れる。やはりこの異聞帯は異聞深度がかなり浅いことが住民にも反映されているのだろうか。
お祭りの非存在は、大きな違いだろうが。
“どうしたの、百花繚乱軍の関係者がこんな時間に? だって、普通に考えたらあれが終わってからすぐに、それこそ数時間内にこっちに向かったことになるけど”
「……なかなか鋭い大人の方がいますね。はい、そうなんです。すぐに声をかけた方がいいと、『お嬢様』が」
“お嬢様?”
何やら聞き捨てならない単語が聞こえてきた。詳しく聞いておきたい。
「百花繚乱軍を立ち上げた人達のうちのひとり、ですね。名前が外部に知られるのを防ぎたいので、私達はお嬢様と呼んでいます。コードネーム、っていうんですよね」
“分かった。それで、何か話がしたいんだよね? とりあえず上がってよ”
5対1の面談。あまりに人数差があるので圧を加えているような気がしてきてまうが、シズコはそれでも一切ブレない。大した肝の据わりようだ。
話し始めたのも、あちら側からだった。
「単刀直入に言いますね。百花繚乱軍と、専属契約を結ぶことを前提に、首脳陣との面会の機会を設けたい──お嬢様からの伝言です。『代理』、『お姉様』も、可能な限り早めにお願いしたいと」
随分と大仰なコードネームで呼ばれているものだ。だがその言わんとすることも、なかなかとんでもない。何ステップか飛ばしているのではないか。
なので、形の上ではミチルもまずは本当にそれでいいのかを念入りに確認しておきたいところ。
「いやいや、こっちは出遅れた下っ端だよ? それが急にお呼びがかかるなんて、本当にいいのかな?」
「ええ。むしろお嬢様は、なんとしても来てほしいそうです。私には、どうしてそこまで勧誘したいのかと……失礼、失言でした」
「いやいや全然! むしろそっちもそう思ってるみたいで、逆に安心〜」
失言どうこうは、さて置き。どうやら百花繚乱軍、想像の何倍も求めてきているらしい。その要因になっていそうなのは、どちらかと言うとミチルとツクヨというよりは、先生のようにも少し思えてくる。
これは百花繚乱軍について知ったその日から、少しずつ確信が深まっていくことによるものだ。それはすなわち、この百花繚乱というものが、先生達の知るものと全くもって同一である可能性。それをイズナも感じている。
「あの、いいでしょうか? そのお三方というのは、どうしてそのようにするのかというのを、シズコ殿にお伝えしてくださったのですか?」
「それが、あまり伝えたくないそうなのです。実際に会った上で、本人に事を伝えたいと。申し訳ありません、ですがどうかご理解ください」
これだけを聞いたら、とてつもなく怪しいと思うだろう。話を聞く価値はないと思い、お互いに忘れましょうで終わる。
だが、シチュエーションがシチュエーション、そうはいかない。もはやダメ元に近いマインドになっているシズコを前に、堂々と先生は告げる。
“うん、だから気になった。乗るよ。面談をする場所の住所、できるなら今から教えてくれるかな?”
「え……あ、はい! こちらなのですが、明日以降、できれば3日以内にお越しいただきたいんです」
その住所を伝えられるとすぐに、アロナがその住所の示す場所にマーカーを設置。異聞帯における住所のルールもしっかりシッテムの箱のデータ内にある。
設置すると同時に、こんなことも伝えてくれた。
『百鬼夜行異聞帯の地形などを利用して、汎キヴォトス史との比較を行ったんですが……百花繚乱紛争調停委員会の本部と、ほぼ一致しています。ズレは10mもありません!』
翌日。大がかりな準備を急いで進めて、百花繚乱軍の領域に行くための車に乗り込んだ。今回は、本格的に移住するかもしれない。なので引っ越しすることも視野に、大型車に生活用品・愛用品・武器装備を詰め込んでいった。
家具などは流石に無理だったが、そこは業者に頼るか、あちらで提供されることに期待する。業者はその仕事の危険性から希少かつハイコストなため、後者ができれば望ましい。
もっと言うと、こうして移動している自分達も、依頼を受けて仕事をしていた時からそうだったが、決して安全とは言い切れないことを忘れてはならない。この異聞帯での銃撃戦は、何一つ遊びで済まされない危険なものだ。
「百花繚乱軍は……ものすごくやり方が穏やかで、信頼関係で広がっていったところです。なので、入ってしまえば突然襲われるなんてことは……」
などと言いつつ、緊張で震えるツクヨ。穏健な勢力なのは察せられているが、それでも
結局、万が一は無かった。極めて平穏無事に、目的地に到着した。ここは百花繚乱軍の中心地、新興ながら活気のある街。そしてその中央の高台になっている場所、石段の上に、その建物はある。
その役割が役割なため目立つように建てられているが、その外装は非常に見覚えのあるもの。そしてそこから、急いで飛び出してきた、見覚えのある人物。
「せんせーっ!!! 来てくださったのですねーっ!!」
元気よく石段を降りてきたのは、紛れもなく「百花繚乱のえりーと」──勘解由小路ユカリその人であった。