Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
翌朝。
ミチルもとりあえず納得はしたようで、百花繚乱軍がこの内乱に終わりをもたらそうとしていることに偽りはないということは理解したようだ。契約は正式に締結され、百花繚乱軍の仲間として迎え入れられることとなった。
それに伴い、方舟も移動してきた。思えば、D.U.のガレージ以外でちゃんとした場所を確保してもらった上での着陸は初めてだった。
「すっげー……こんなのに乗って、ちょっと前までゲヘナを救ってて、これからも色んなとこを救うんだもんな。流石は師匠だな!」
“これを作ったのは、今から降りてくる人だけどね”
レンゲと先生の目の前の昇降口が開く。その中から降りてきたのは、白石ウタハ。すっかり先生のサポーター的なポジションを確立させた、キヴォトス屈指の技術者である。
「やあ先生、待ったかな?」
“全然。むしろスムーズなくらいさ。昼食の時間にさえ間に合っていればいいくらいの気持ちだったし、だいぶ時間が余ってるよ”
「そっか。それじゃあ場所を教えてほしいな。そこで正午に合流しよう」
「あれ、貴方はミチルさんの……それに、代理まで。えっと、3名様でいいんですよね」
「うん、席空いてる?」
「は、はい! こちらへ!」
こちらの世界のシズコがやっている喫茶店。百夜堂と比べるといくらか落ち着いた印象で、シズコも妙なキャラクター性を出していたりはしないが、これはこれで。
そしてこのメンバーで集まるというのは、ただのお食事会などではない。責任ある立場の者が出揃う、意見交換会、主要人物同士の会談である。
その議題というのは、この異聞帯の本質についてのことであった。
「昨日、先生と話したんだけど……現状分かっている異聞帯の意味する内容から考えても、ここはそれらしくなさすぎると思う。その辺りについて、細かいデータを持ってる人の意見も聞きたいの」
「なるほど、確かに理論的な分析といえば私か、後輩のユウカだろうとも。そして確かに、一理ある」
ウタハが取り出したのは、タブレット端末。それも、複数個連結可能なように改造されている。なんでも、いくら端末が高性能化して小型化されたとしても、物理的な表示範囲と人間の分解能の関係による限界があるらしい。
そこに映し出されたのは、夥しい量のデータ分析による数値の数々。ここまで連結された画面に所狭しと並ばれると、キキョウはもちろん、先生も少し困惑する。
「ちょっと、どこ見ればいいのこれ!?」
「ああ、ごめんごめん。実のところ、これを一気に俯瞰して見られるのはユウカと、あと私達をアシストしてくれているエアトンさんという技術者くらいさ。私でも、何箇所かに注目して考えるくらいのものだよ。例えば……ここ」
“汎キヴォトス史残存数値……これ、高いの? ”
ウタハの指が指す先には、「80?」というどこか曖昧な表記がされていた。
「80自体は高いよ。ただ問題はクエスチョンマークだよね。これには異聞深度と同じようなランク表記があってね、そっちを見るとA--」
「マイナスがふたつ……なるほど、そういうこと」
そう、と頷くウタハ。何かしらの条件が揃うか、視点や指標基準の使い方を変えることにより、この数値はかなり低く評価されるという。
シッテムの箱の演算能力を一部借りた、特殊なAIによる演算が導き出したものであるが、根拠もなくこんな評価はするまい。
「ここは異聞深度が低く、汎キヴォトス史の残したものの影響が強い。だからこそ異聞帯らしくない。ただそれを覆すきっかけが存在しうるなら……そこに本質がある」
“だとしたら、内戦内乱が続いていること自体は問題ではない……? 乱世であることはあくまで結果だということになる”
考えてみれば、ゲヘナでも同じことが言えたわけだ。氷雪に閉ざされた極寒世界であることはあくまで結果であり、その原因は魔王──ルシフェルだった。
そして今回もまた、原因を叩くために──
「本当に、それって結果?」
“……え?”
「終わらないものが続いている。それは結果じゃなくて、
それは、考えていなかった可能性。いや、考えることを拒否していた可能性であろうか。
だが、そうでなければ異聞ではない。その行き着く先が、日常を取り戻せるようなものであったとしたら、正常な歴史を侵略するものとして展開する意味がない。
“少し……気になったんだ、今そう言われて。人っていうのは、争いをやめないものだ。汎キヴォトス史であっても、同じ自治区の仲間が小競り合いになることもある。それが内乱になることもね”
「その尺度で考えると、やはりこれは異常ということかい? 必然起こることの範疇を、明らかに逸脱していると」
“さすがウタハ、その通りだよ。これは
まさか、と普通なら言いそうになるが、その可能性は確かにキキョウも考えていた。実体が分からなかった存在。実際に邂逅した日にも、結局何を考えているのかも分からなかった。生きている世界がまるで違う。考えることも、できることも。
何かちょっとしたことで、その性質は容易に逆転しうるはずだ。そしてそれは当人からすれば、ちょっとしたことでもなかったりする。
「この世界のクズノハ様に、会いに行かないと。百花繚乱をなんで作らなかったんだって、それだけでも聞きたい」
“じゃあ、これからはそのために動こう。可能な限り味方を増やして、エビスを抜けるために”
これから目指すところが決まり、話がまとまった……といったところで、ウタハが待ったをかける。
「ちょっと待ってほしい。今思い出したんだ、皆の役に立ちそうな話を。いや、今すぐ役立つことじゃないと思うけれどね、この機会だから話しておきたい。ミレニアムが誇る『全知』の持つ、平行世界論に関する知見──聞きたくないかい?」