Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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回想:明星ヒマリの平行世界観測

 異聞帯の出現より、何週間か前のこと。特異現象捜査部の部室を、ウタハは訪れていた。

 そこにいたのは、部長のヒマリ。いつもよりもかなり車椅子のリクライニングをきかせて、完全にお休みモード。

 

「やあ。この前は大変だったね、まさか平行世界との接触がこの事件の原因だったなんて」

「いきなりそれですか。まあその通りです。それはそれとして、この超天才でありながら薄幸病弱なミレニアムの誇る宝玉たる私が、この脆い身体に無理をさせたのですよ? もう少しゆっくりさせていただきたいのですが?」

 

 この日はアトラ・ハシースの方舟なる不可解なオブジェクトに向かって、カーマンラインまでの道のりの4分の3にもなる高度への旅をした、それから数日という頃だった。ヒマリ自身は身体を大きく動かしたわけではないが、かなり負荷がかかるシチュエーションはあったし、頭はフル回転させ続けた。そのため、最低限必要なだけの人付き合いをしていた。

 

「思ったより回復が遅いものだね。ただこちらも空いている日がない。だから、今後の開発に応用できるような知識が、今すぐ欲しいんだ。平行世界に触れたことで、何が起きているのか。我らが全知さんの見解を頼むよ」

 

 大きなため息をつきながら、背もたれを起き上がらせるヒマリ。体調にお構いなしのウタハに呆れたからではない。単純に怠くて、呼吸を整えたくなっただけだ。

 

「ちょっとよそよそしいですね。確かに私はその称号を有しますし、それを誇ってもいますが、それで呼ばれるのはあまり……」

「じゃあなんだい。超絶天才スーパー美少女ヒマリちゃんとでも呼ぶかい?」

「……そういったものは、()()()()使()()()()ですよ。いいです、全知で。それで、平行世界ですね。ええ、オーパーツをいくつも利用しながらになりますが、それなりの自由度で観測に到れるようになれました」

 

 体調を崩しているのではなかったのか。思った以上に、知識を蓄えていた。いやむしろ、興味を引かれすぎて没頭した結果、更に無理したのが今といったところか。

 それを意識してみると、目元にクマがあるかもしれないと思えてくる。相当に体力を使ったのだろうし、あまり寝てもいなさそうだ。

 

「ほうほう。それで?」

「平行世界論は量子力学とも結びつけられるという説が、存在していたことはご存知ですよね? 多世界解釈、見てみるまで確定させることができないというもの。今回のやり方では、それがほぼ実証できたことになります」

「そこまで!? いやはや、ひとたび接続を経験してしまったことを契機にしているとはいえ、これほどとは……あ、というと、アレかい? 世界観測は実在性を確定させる、というのも?」

 

 量子力学は、観測により世界状態を確定させる。量子の振る舞いは観測するまで不確定であり、それらが観測されることにより、その結果が決まるし、その観測をコントロールすることもできる。これを応用すれば、世界レベルで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──そんな、壮大な議論は既に検討されていた。

 

「もちろん、何かしらの前提が大きく異なる事実をこちら側の世界まで引っ張ってくることはできません。しかし、それでも観測した世界は存在が証明され、保障されます」

「これはとてつもないことになったね!? そうなると何でもアリになってこないかい?」

「ところがです。観測実験をいくらかシミュレート含め実行してきたのですが、何でもアリと言うには少し力不足な感があるなと」

「というと?」

「少なくともキヴォトスからは、ヘイローを有する生徒達による学園都市キヴォトスの存在、そのための前提のある世界しか確認できません。こればかりは、どのような手を尽くしても」

 

 ウタハにとってはかなり驚きだった。もしもキヴォトスがなかったら、のレベルのIFも挟めないものなのか、と。

 

「前提、というのは?」

「一言で説明するのは難しいです。何せこのキヴォトスは薄氷の上にある地とも言えますから。その絶妙なバランスを、観測できるどの世界も保っている。これって、かなりおかしなことだと思うのですよ」

 

 キヴォトスだけではない。文明が、星がうまくいっている、それだけでも相当にたくさんの条件が必要なはずで、この世界は出来すぎているはずなのだ。そのような事実があるにもかかわらず、そのようなハチャメチャな可能性は観測することが不可能であるということが分かったのだ。

 

「観測方法や機器側の限界とかじゃないのかい? それに観測が存在を確定させるのなら、観測しない方が……いや、待てよ。そういうことか?」

「気付きましたか。観測できないということは、存在証明ができないということです。つまり、()()()()()()()()()()()()()()、ということです」

「随分とまた、思い切ったね。つまりこう言いたいんだね、人が簡単に、あるいは現実的に思いつくようなもしもの世界ですら、存在しない可能性があると」

 

 あるものが見えないのではなく、元から無かった。思考のアプローチとしては、確かにしておくべき種類のものだが、疑いたくもなるもの。

 

「そうですね。あるいは、そのように世界が向く性質があるか。私としては、両方な気がします。滅びたプレナパテスと、平行世界のシロコさんのいた世界は、この世界に繋いだ事実、繋ごうとする行為が存在証明となった。これが何かのヒントになるのか、あるいはただの観測と同じ意味であるのか、それはまだわかりませんが」

「そのように向く性質、か。奇跡ばかりが溢れるこの世界を見ていると、信じたくもなってくるね。だけれど、それでどうこうできないものもある。それに類するものについては、見たような気がする……なんて、モモイが言ってたような覚えもある」

 

「謎は尽きませんが、ひとつ考えがあります。すなわち、何かしらの条件──おそらくは、将来性とかそういったものが、満たされなくなったという結果は、あるいはそういった結果が目に見えているものは、弾かれるのではないか、と」

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