Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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2-19:黄昏の預言者

 これからキキョウが話すことは、ほとんどハッタリに近い。そもそも、これは汎キヴォトス史から持ってきた伝説であり、異聞帯でそれが成立するに値する存在がいた証拠もない。

 だが、その中身は存在する上で、歪んでいなければ仮説が成り立たないからと、勝手に想像で埋めたものである。しかしそれでも、ある程度の根拠はあり、全くの嘘ではないと、ここに断っておく。

 

「黄昏の大預言者……百花繚乱軍を創設した私とユカリ、それと今ここにいないレンゲといった、限られた者にしか伝わっていない、伝説になりきれなかった物語があって。数百年前に、そのたったひとりさえ動けば、今頃平和だったはずだと言われるような人の話……やっぱり陰陽軍の偉い人も知らないんだね」

「たったひとりで、止めうる? 数百年前に? なら、そのうち代わりが出てこようものですがねぇ」

 

 ニヤの指摘も尤もだ。何しろそれが引っかかって、「ただ止めなかっただけ」路線で異聞帯成立の原因を考えることは間違っているのではないか、という疑いが生じたのだから。そして当然、それを解消するための筋書きも用意している。

 

「まだ、『そういう人がいた』って話しかしてないでしょ。その当人は、その気になれば止められたし、止めようと考えたこともあった。けれど、最終的な結論は違ったの。むしろ、争いを煽り続けることにした。結局どういう理由なのかは、分からないままだったけれど、そういうことを選んだ」

「待ってください。だとしても、その大預言者の死後、どれほど経っているというのですか? 雨露霜雪の戦いよりも、ずっと前だと──」

「生きてるの。カホさんが想像できるような存在じゃないよ」

 

 あまりに堂々と断言するものなので、カホは特大のため息をついた。これ以上聞く価値が本当にあるのか疑わしいとばかりに。

 実際に汎キヴォトス史でも信じられないことである。だが少なくともあちらでは、生きているという表現が正しいかはさておき、存在し続けて意思表示が可能な状態を保っていたのだ。本当にそうだったので、これを受け入れてもらうしかない。

 

「今、エビス軍が占領していて、外部のありとあらゆる全ての人々が入ることを拒絶されている、大きな雪山──その最奥に、人を超えた何かとなって、存在し続けていると伝わっているの。私達が目指しているのは、この伝説の真偽を確かめて、もしも本当なら、放棄された仕事をやらせること」

「まさか、それが同盟の真意であると? だとしたら確かめたらどうするのですか。全くのデタラメであったのなら?」

()()()()()()()()。敵になっても、うちを吸収合併しても、なんだったら私達を処刑してもいいよ」

 

 あまりに覚悟が決まりきった発言に、カホも怯んで言葉が続かない。助けを求めるようにニヤを見ると、彼女は心の底から楽しそうに笑っていた。

 

「普通であれば、そのようなことのために命を張れはしませんよねぇ。ですが、その大預言者の存在こそが本気でこの負の歴史を断つ鍵だと、そう考えているのでしょう」

「ニヤ様……?」

 

 負の歴史を断つ、という言い回しは、意図せずして皮肉なことを表現している。まさに文字通り歴史を断ち、無に帰して他の歴史に戻そうとしているとは思うまい。

 

「それに、大きく辻褄の合わないことを言っているわけではありません。そのようなことが起こるほど、北方に謎が多すぎるというのもありますがね。調査のために忍軍からスカウトした子を何度かあちらに遣わしていますが、雪山にはエビス軍の上層部しか入りません。入れません。それくらいしか、分からないのですよ。むぅ……そこの方、確か連邦生徒会から遣わされた『先生』であるという方に、意見を聞くとしますかねぇ」

 

 出番が回ってきた。発言に責任を持つ、その手番が。いつものようなものともまた違う、緊張感が襲いかかる。震えを抑え込みながら、先生は口を動かした。

 

“一応、掴んではいる。この伝説に、ある程度一致するような内容は。百花繚乱軍に注目したのも、そういった理由なんだ。事の真偽を確かめるようにということだけど……ここで君達が認知していることよりも、多くの情報を私は持っていた。しかも、内容は大きく矛盾しない”

 

 多少苦しいストーリーであるが、どうにか形にはなったか。これに、納得してもらえるかどうかだ。

 

「おおっと、これは無視しがたい内容が来ましたよ? しかも外部から来た者でありながら、この覚悟にも納得してらっしゃる様子。であれば……この場は、信じましょう。ひとまずは同盟を結び、打倒エビス、その奥地を調査といったところですね」

 

 

 同盟は成立した。百花繚乱軍と陰陽軍は共に、この百鬼の地にて触れることを避けられてきたエビス軍を打倒するべく、これより本格的な行動を開始する。

 そのためには、魑魅軍とそちら寄りの諸勢力が邪魔になる。エビスはあらゆる手を尽くして、直接攻撃を受けないようにするはず。そのために利用してくるはずだからだ。

 だが当然ながら、魑魅軍を落とそうとしたところでエビス軍が立ちはだかる可能性もある。陰陽と魑魅のバランスを、エビスが「理想」と考えている限りは。

 

“逆に言えば、()()()()()()()()()()()()と感じさせればいい。あれが動く前に、見捨てざるを得ない状態にするんだ。新たな秩序を模索しているエビスに、叩きつける。そこに君達は要らない、ってね”

 

 強気なことを言うのが妙に似合うことに、自分のことながら笑いがこみ上げてきそうになる先生。それを見ていたニヤは、思いっきり笑っていた。

 

「おお! 気合が入ってらっしゃるようで何より! その様子ですと、さては……かなり考えがあると、そう思ってよろしいのですか?」

“考えがあるというか、やれることがあるというか。情報を集めて、ついでに一気に崩すための方法というのを、ちょっと考えてきたんだ”

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