Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
それから2日後の朝。ミチルとイズナ、ホシノとツクヨはそれぞれ別々になっており、空にいた。決して生身で空中に飛ばされているわけではなく、ヘリコプターに乗っている。
キヴォトスにおいては、撃墜の危険性が高いからか、こういった飛行するタイプの乗り物は通常の乗用としては敬遠される。だが、かなり真剣な軍事目的なら話が別だ。
「ツクヨちゃん、パラシュートの準備はいい?」
「は、はい! ですが、開かなかったらどうしましょうか……」
「それはまあ、私に掴まってればいいんじゃない? 大丈夫大丈夫、左手こんなだけど紐くらいは引けるって〜」
「うう……緊張してきました! ミチル殿はどうですか?」
「……なんでこんなことに……なんでこんなことに……」
ミチルの疑問の答えは、先生が考えた作戦であった。
“百花繚乱が主体になって、忍軍を主に利用した隠密部隊を造るんだ。相当な額が要るけど、新興勢力だからって惜しみはしない。情報収集と破壊のための工作をやってもらって、後日一気に攻める。簡単な流れはこうだよ”
エビスが動くよりも前に、一瞬にして、少なくとも勢力均衡を取り戻すことが不可能になる大打撃を与えることができてしまえば勝ちだ。敵軍のモチベーションが低いことは前提として、どれだけ低いのか、何か秘密を握っていないか、エビスとの関わり方はどういったものなのか──大量に情報を回収しつつ、徹底的に追いつめる。
「こ……れ、は、これは。まだ概要しかお聞きできていませんので、そのすべては語れませんが、思ったより徹底しようとしておりますねぇ?」
ニヤのリアクションも尤もであるが、そこまでしないと何をされるか分からないのが
話し合った結果、陰陽軍が情報や一部資金を提供することで、人員確保やルート構築という面で力を借りることができた。しかし、基本的には百花繚乱軍でやる。これは、実態の見えない伝説を目指すという荒唐無稽な目的に対して、いかに本気であるか試す機会として、望んだものであった。
そしてその翌日には、ルートと作戦の案が陰陽軍から渡されており、出撃することになる4人も交えての作戦会議をした。つまり「なんでこんなことに」などと言われる道理は無いのだが、言いたくなるのは誰もが理解するだろう。何せ、高度が高すぎる。
数千mはあろうかという高さから、目標の基地から程よく離れた人の気の無い場所に降下しろというのは、そこまで念入りな訓練をする暇もなかったというのもあり、一人や二人はガタガタ震えていてもおかしくないのだ。逆にここは、ミチル以外の度胸が凄いのだろう。
『皆、位置には着いたみたいだね。これから、潜入作戦を開始する。今回の作戦の基本は隠密行動。人に遭遇する可能性が低い場所に降下して、可能な限り人に気付かれずに情報を集めて。戦闘はなるべく回避するように』
キキョウの簡単な説明から、そのままほとんど間を置かずカウントダウンが10から始まる。各地の忍軍から雇った者達が、いそいそと準備を整えていき、ゼロの宣言と共に飛び降りた。
かなり多くのヘリコプターを飛ばしたが、高度のせいもあっただろうか、それとも多すぎて追いきれなかったか。地上では、かなり厳格な警戒態勢にはなっていなかった。
地上に降りて、かなり迷いなくツクヨを導いていったホシノだったが、すぐに気付いたことを報告した。
「早速だけど状況報告いいかな、百花繚乱の参謀ちゃん」
『まだ目標の基地は遠いけど、何か分かった?』
「いや〜、ちょっとこっそり見てるだけでよく分かるんだよね。明らかにやる気がないっていうかさ、本当に
遠くから見ただけだが、彼女の目は正確にその表情を読み取っていた。あまりにも見張りに出ている生徒の顔つきがボーっとしている。もはや見張りっぽいことをしているだけ。こちらを認識していそうな気さえもしてくる。
ここまで人員が機能していないとは、いきなり想定外なものである。
『な……るほど、ね? いや、驚いたっていうか、うん……でも、気を付けて? さすがに堂々としすぎると、あっちも重い腰を上げるから……たぶん』
「うん。いや〜、これいきなり怪しくなってきたねぇ。本当にこの魑魅ってところが、大勢力の中身なわけ?」
一方でミチルとイズナもまた、同じ報告を先生にしていた。妙に慣れた手つきでイズナが動画も送っていたために、その怠慢警備っぷりがよく分かった。
“うん、これはいくらなんでも怠けすぎだね。これが辺境警備に限った話だったら、むしろ逆に安心するんだけど。これが魑魅の本質だったら、相当この世界の歪みは深刻だ”
「うん。こんなのが陰陽軍とセットで語られてたのがちょっと信じらんない」
“でしょ? だから不自然な状況が作られている原因を知る鍵が、どこかにあるんじゃないかと思うんだ。ただ破壊工作をさせるだけじゃないのは、そこがメインだからだね”
まあ、こんなに疑いが強まるとは全く思わなかったけど──と、先生は付け加えた。
逆に警戒心が高まっていくくらいだ。難なく目的地に接近できているはずなのに、目の前に見えている異常のせいで、変に視界外からの襲撃を警戒してしまう。むしろこれが狙いなのだろうか、とすら思ってしまうが、それなら普通に近付けてはいる以上、逆効果もいいところであった。
そして、ある程度のところまで来ると、見回りに妖魔が混ざり始めた。人の姿を真似るものも、そうでないものも、見回りをプログラムされている。そのため極めて単純思考であるが、それでも生身の人間よりもよほどやる気があるように思えた。
方舟に用意された司令室で、キキョウと先生は同じことを考えていた。
「妖魔に依存しきってるって感じ。長年のツケなのか、それともあの兵器達だけが空回ってるのか……」
“うーん……やっぱり元々まとまりもない、強くない組織だったんじゃ?”
「なんか、そんな気はするよね」
その真相は、この先にあるだろう。