Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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断章(Ⅱ)

 この世界が、「異聞帯」というものになったということを、ある男が伝えに来た。黒いローブの、誰もが見た瞬間に脅威を感じるようにデザインされた衣装の男だったが、その者はそのような感情にはならなかった。

 何せ、人というものに興味がない。群体としてようやく対等であり、個体に興味を割く必要性をもはや感じていない。その事実も理解した上で、いや理解したからこそ、男は語った。

 

「これが王の決定というわけか。全く愚かしい、異聞として弱いのも納得だな。未来の無さで言えばゲヘナかレッドウィンターが一番だと思っていたが、ここも相当だろう」

 

 目の前に現れるなり、侮辱ですらあるかもしれない言葉の嵐。だが、それを聞いたとしても、ただの取るに足らない「意見」として、全ての部分を受け止めた。そして、発言する側もそう受け取られること、自分の言葉で信念を曲げることはないだろうことを前提としている。

 構うことなく、語り続ける。

 

「異聞帯である以上、未来はいずれにせよ無い。だが未来が無くなった後が延々と続くか、これから無くなることが決まっているかが分かれている。ここは後者だ。それも、あまりに度し難い理由でそうなった。私としてはこのような異聞を使いたくなかったが、百鬼夜行には使いようのあるものが無いな。むしろだからこそ、この異聞帯のルートが開かれたとも言えるが」

 

 少し、精神が反応する。言い当てられたような気持ちになる。

 百鬼夜行はキヴォトスにおいて、必ずしも強力ではない。それは異聞帯として概念を侵食する兵器に転じても同様であった。異聞深度は、汎キヴォトス史に対する否定の強さでもある。形の上で弱く、その上でパワーも弱い歴史が形成されていた。

 

「汎キヴォトス史を見れば、お前の理想も完全な見当違いだと分かるが、それでも続けていくのだろうな。そしてそれを過ったこととも思わないだろう。それがお前にとっての崇高の目指すべき形であるのなら、勝手にするがいい」

 

 過ちてこれを改めざる、これを過ちという。世界はある程度まで過ちを正せるように出来ている。汎キヴォトス史に現れた「先生」は、その作用を執行する役を持つ者であったというところか。

 だが、その存在が無くても、正せないことはない。だが正せないことも、時としてある。

 

「ただ、この理自体も強くはあるのだろう。奴らにとって強大な敵として、立ち塞がることができる程度には。そして、ややもすれば打ち倒すことができる程度には。その上で警告しよう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。別格の過ちも、圧倒的な正しさも、究極的な断絶も、既に用意があるのだから」

 

「まだ話すかの? 疾く終わらせよ」

 

 実に、実に久しぶりの発声であった。いくら話をされても、早く終わらせてほしいなどとは普段は考えないにも関わらず、気付けば勝手にこのようなことを言っていた。

 

「苛立ちという感情が残っていたか? まあいい。もうすぐ終わらせる。……しかし、お前の計画というのは下の下としか言えんな。本当ならば脇役にも敵役にもなりそこねた舞台装置、それ以下の存在になっていてもおかしくない。だがなまじお前は元から力を有していた。力を得て支配する側ではなく、むしろ与えて完成させる側だ。その点では、計画した時点でもはや時間はかかるが()()()()()()()()()()、全くよく出来た計画だ。だがそこに、余計な論理が入り込むだろう。その時にどのような反応が起こるか、それだけは楽しみにさせてもらおうか」

 

 それ以来、男は姿を見せていない。この異聞帯に対して興味がないのか、それともそれだけの役割でしかないということなのだろうか。

 だがその言葉は、もはや人の言葉など何の影響を及ぼすことがない、その者に確かな影響を与えていた。だが、自らが命じたことは、誰にも止められない。

 それに、影響というのは、愚行であるからやめようなどというものではない。むしろ、自らの計画こそが百鬼の進むべき道だと、確実に示そうとしていた。

 

 少し時が過ぎた。状況が変わっていた。使いの者は戻そうとするのであろうが、その必要性は感じていない。むしろ計画のための好機であり、故に命じることにした。

 

「お主らの手にかかるべき、小さき命どもを吸う備えをせよ。お主らは素材、未来を担うべき大神の器である」

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