Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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2-22:悪魔の契約書

 一方で、ホシノチーム。こちらは潜入してからあまり時間が経たないうちに、ひとつ妙な部屋を見つけた。曰く、「貴賓室」。その名前に合った、かなり他と比べて重厚な扉がある部屋だったが、それにしてはおかしいことに気付く。

 

「あの、この貴賓室ってところ……誰をお迎えするための部屋なのか、というのもそうなんですけれど、偉い人を入れる部屋、なんですよね……?」

「うん。でもおかしいねぇ。どう考えてもVIPさんを入れる部屋の広さじゃないよ。狭すぎ」

 

 どこからどう見ても、ちょっとした倉庫くらいの大きさが限界である。軍の基地である以上かなり広く、そもそもいくつもある会議室をはじめとしていくらでも広い部屋はある。そんな中、こんな狭いところに「貴賓」を()()()()()()などあるわけがないのである。

 つまり、これはただそういう名前を使っているだけで、本当は別の意味合いがある部屋なのではないか、と疑うことができる。

 

 扉をこじ開けようとしたが、その見た目の重厚さの通りに、変形はする気配がなく、極めて強固。そもそも本来は物理的に破るよりは、鍵を破った方がいい……といったところだ。

 

「うへ〜、ピッキングとかやったことないんだけどなぁ〜! ゲリラ戦も防衛戦も銀行強盗も経験してるけど、やる機会無かったんだよね〜」

「す、すごい、経歴ですね……」

「でしょ? おじさんこれでもかな〜り苦労してるんだからね〜……あれ、どうしたのモジモジして?」

「い、いえ! ただ、私は少々、忍びとして心得がありまして……」

 

 このピッキングツールも、当然ながら屋内潜入だからと装備として受け取ったものである。複雑な鍵だが、いいツールと忍軍の組み合わせは抜群であり、気付けば最初から開いていたかのごとく解錠されてしまった。

 

 部屋の中身を見て、その実態が名前とは全く合わないものであるということは、完全に確信できた。装飾こそ力が入っているものの、置いてある机や椅子がシンプルすぎる。そういう趣のものだろう、などとは絶対に言えない、拭い去れない安っぽさもセットだ。

 

「そいじゃ、探ろっか。どうする? まずどこを探るとか、案は」

「まあ、まずは引き出しからかと……」

 

 机をはじめとして、いくらかの引き出しがこの部屋にはある。机の鍵付き引き出しを開けた瞬間に、それは目に入った。

 

「なにこれ……タブレット端末だよね? 普通に起動出来るのかな」

「うーん、ロックされてますね……当たり前ですけど」

「ちょっと司令室の方に相談しよっか。──あー、もしもし〜? ホシノだけど、端末のロック解除ってできる?」

 

 司令室にいる方舟技術班に連絡をしたので、ウタハ、ユウカ、エアトン辺りが出るはずだが、別にこの3名はハッキングの専門家ではない。ヴェリタスが全員ミレニアムにいたのはなかなか痛かった。

 

『はい、こちら方舟の早瀬ユウカ。ホシノさん達は今……うわ、あからさまに変な部屋に入ってるじゃない』

「そうなんだよ〜! それで、タブレット端末があったんだけど、ロックを破る手段あるよね?」

『あるけど……複雑すぎるロックは解けないし、私の手作業になることは理解してちょうだい。こっち側で一般的な端子規格で、方舟から干渉するための接続機器は作ったから、それを差し込んだらこっちでやるわ』

 

 このあたりの機械技術の発展が異聞帯特有なのでイチから作らなければいけなかったが、なんとか出撃チーム全てに提供することができている。ここではツクヨが持っていたので、差し込んでみる。

 それから間もなくして、ロックが解除された。どうやら、ロックそのものは単純だったらしい。最重要クラスの機密を得ることは期待できないが、中身を見てみると、データ化された契約書類らしきものがいくつか入っていた。

 

「うわ、すごいゴチャゴチャ書いてある。面倒だなぁ」

『こういうのは、だいたい要点があるの。日付は……これは昨日で良さそう。エビス軍との、兵器提供や戦力援助の契約ね。うわぁ凄い、契約解除周りや免責事項とか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

 ユウカも思わず早口になってからのドン引きをかます、そんな契約書がここにはあった。魑魅とエビスが直接こういったやりとりをする関係だった、ということ自体はもはや些末。この契約書には、ただただ読みづらくするためだけに盛り込まれた事項がやたらと多いのである。

 そのくせ、エビス側が勝手な都合で契約を切れる旨がこっそりと書かれているなど、非常に臭ってくる。

 

「つまり……エビス軍は、魑魅軍を騙そうとしているんでしょうか?」

『騙すよりも、もっとタチが悪いことをしてるんじゃない? つまりは()()()()()()()()、道具扱いってところかしら』

 

 さらにデータを漁ると、設計図のデータが見つかった。ミチルチームも発見していたものと同一のもので、電子データであるこちらがどうやら原本であるらしい。ここで同じく、方舟のコピー計画についてユウカとホシノは思い至り、その意味するところを考えてみる。

 

「結構大事そうなことが分かったような気がしたんだけど、それにしてはやっぱり保管の仕方が不用心だよね? 考えたくないけど、そこまで余裕無いのかなあ」

『いいえ、そこは貴賓室……それはおそらく、エビスからの客人向けの部屋のはず。保管方法についても指示を受けてると思う。つまり、エビス軍的にはこのくらいはうっかりバレても問題ない情報ってこと』

 

 とはいえ、「バレてもいい」「バレたくない」の基準にも、色々ある。バレたら不利になる情報というのもあるだろうが、それ以外の理由も考えうる。数ある機密の中で、バレたら一発アウトの情報はおそらくここにはない。

 とはいえ、契約書と設計図から、こちら側の上を行く行動を、ひとつ巨大な盾を置いて、その陰で進行させていることが掴めてきた。

 

 その他細かな文書記録が各地の基地で発見されたようだが、その多くが魑魅とエビスの間の癒着、あるいは一方的な道具的な扱いを示していた。

 この関係を維持することができなくなったとき、「秩序」は一気に崩壊することだろう。

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