Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
潜入任務の翌日。忍び衆は現地での味方の誘導のために残ってもらうことにしていたが、いよいよ合流して魑魅軍を叩く作戦を決行する時が来た。
ミチル達はもちろん、他の忍軍の手からも数々の情報から、現地人の戦意のなさ、実質的に取り仕切るエビス軍の存在、エビスの規格外ぶりが分かってきた。ここまで行動を起こすのを早くして、忍軍に一旦帰る暇も与えない選択をしたのも、さっさと魑魅は壊滅させて、均衡の構図だけは変える必要があると思ったからだ。決戦に持ち込まねば、いつまでもひらりと躱されるだけだ。
百花繚乱軍の本部の前には、大軍勢が整列している。百花繚乱軍はもちろん、陰陽軍と共に出した声明に応じた協力的な者達、そしてその陰陽軍からも派遣されてきた者達もいた。
その前に用意された舞台には、今回の作戦の前線指揮を行うレンゲが立つ。
「まず、皆。こんな最近出てきたばっかりの、皆からしたら変なことしか言ってないように思えてもきそうな、そんなアタシ達に協力すると言ってくれたことを、嬉しく思う。百花繚乱軍についてる人だって、元は別のところについてた人しかいない。元仲間の顔だって見えるかもしれない。仲間になってくれと言われても、無視したってよかったんだ。けれど良いと言ってくれたし、その元仲間も、今は一緒に戦ってくれる」
百花繚乱軍を建てると言ってから、一筋縄ではいかなかった。普通だったら数か月、それどころか数年はかかりそうなことを、僅かな期間で成し遂げたのは、その意思に縋りたいという思いが、この異聞帯に広がっていたということの証になるだろうか。
少し間を置いて、レンゲは声を張る。
「アタシ達は、この地の歴史を動かすために立ち上がった! このいつまでも変わらず乱れ続ける世の中を作っているのはなんだ! アタシは信じてる、この戦いは、確かな平和をこの手に引き寄せるための、何よりも大事な戦いになる! 勝つのは、争いの歴史の終わりを望む方だ!」
それから間もなく、大量の戦車と装甲車が百花繚乱軍領域を発った。それを見届けると、すぐにキキョウは方舟の方に駆けていった。
中に入ると、昨日の作戦にも使った司令室は引き続き利用できる状態。
“おはよう、キキョウ。皆はもう出発しちゃったかな”
「立派なレンゲの演説を聞いてから、ね。それで、手筈通りに、この部屋を早速使わせてもらうよ。先生と一緒の共同司令官の仕事……ふふっ。今日もよろしく」
多少露骨なくらいに誘惑するような笑みを浮かべるキキョウだったが、そんなことに構いもせずに先生は話題を振ってくる。
“それにしても、割とイメージ通りじゃないよね、今のキキョウって”
「……どういう意味、それ」
“だって、けっこう現場主義な方だと思うんだけどな。というか、現場でじゃんじゃん活躍してたし”
「一応、参謀役だからこういうものだと思うけれど。それに、総司令官は簡単に命懸けの戦いにあまり出るべきじゃないし」
少し不貞腐れながらも、席に着くのであった。
レンゲとユカリはそれぞれ、別の方面を目指して軍勢を率いている。どちらにも共通するのは、指定された場所で忍軍の者と合流し、説明を受けた後に爆破された基地を一気に襲撃した上で、なるべく傷をつけることなく、魑魅勢を捕らえては百花繚乱や陰陽の領域に移送するといつ流れ。
「あの合図、アタシ達の味方だな。キキョウ、忍軍と合流できた。今から説明を受ける」
『了解。危険なことはせず、確実に作戦を実行して』
忍軍の者は既に十数人はここに集まっていたが、集まっていない者も多い。その一部は、ユカリの方に行っている。ここにいる忍びの代表として、ミチルが説明を担当する。
「あ、『お姉様』じゃん。じゃあ、何をやったのか教える時間だね。大丈夫?」
「その呼び方、歳上から言われると変だなぁ……うん、よろしく」
「まあ簡単に言っちゃうと、どこも爆弾を大量に仕掛けたんだけどね。このボタンを押すと、この近くから順々に時間差で爆破されるようになってるの。だから急ぎすぎずに、しっかりと基地を押さえていって。移動ルートはこっちが先に行くからついて来て」
そう言われるままに、戦車が前に出て、歩兵がその後に続きながら、その案内に従って移動する。十数分移動したところで、止められた。
「ここから突入か。できるだけ同じタイミングで作戦を開始したいし、ユカリと話す。……ユカリ、準備はできてるか?」
『もちろんです! いつでも構いません、号令を出してくださいまし!』
「了解、号令は出さないけど、そっちで始めておいて。……あっちも準備できたみたいだ、あとはそっちのタイミングで!」
指示を受けて、ミチルは起爆スイッチを入力する。直後、少し遠くから爆発音が響くと、すぐさま大きな煙が上がるのが見える。
突入命令がレンゲの口から出ると共に、総員一斉に敵陣に突っ込んでいった。
最初に爆破された基地に到着したが、やはりパニック状態に陥っているようだ。何も気付いていなかったのか、その混乱はかなりの大きさであるようだ──と、言いたいところであったが、ここでイズナが嫌な予感を感じ取ってしまった。
「なんだかこの人達……変です。わけがわからなくて慌ててるんじゃなくて、むしろ
何が違うのか、とそれを聞いたある者は何も構うことなく進んでいったが、さらにそれを見ていた者がいた。彼女の目には、何から逃げているのかがハッキリと見えていた。
「止まって──!」
「何を言って……ひゃっ!」
目の前の地面に、植物の根とも獣の爪ともつかぬ巨大なものが突き刺さる。それがどこから来たのかと見上げると、無機物のような生き物のような、見たことのないものが体中についた目でどこかを見ている。
「まずいぞキキョウ。いや、これは想定しておくべきだったし、していても避けられないことだったから、結局やるしかなかったんだけどな」
『レンゲ、一言で説明して。大変なこと、起きてるんでしょう?』
「お前も多分予想はしていただろうけどな……妖魔の大暴走が始まった」