Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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2-24:妖魔氾濫

 まず、状況を落ち着いて整理しておく。整理しないことには、最低限の対処もできたものではない。

 大型の妖魔──否、複数の妖魔が不完全融合したと見られる、巨大な塊のようなものがいくつも発生している。それらは「人を殺傷するための兵器」という与えられた役目を十全に全うすべく、ただひたすらに攻撃を行っている。

 その狙いは人間にだけ向いているが、そこに敵味方の区別はない。元より、これは容易に制御できるものではなかったのだろう。

 

「おしまいだ、おしまいだぁーっ!」

 

「ねえ、しっかり! 目を開けてよ、お願いだから……」

 

 パニックになって声を上げているのは、大半が皮肉なことに妖魔を利用してきた魑魅軍側だった。友を失った悲しみを叫ぶ間もなく、自らも同じ道を辿っていく。当然ながら、百花繚乱軍も無事では済まない。暴走が始まってからまだ僅かに数分だが、既に何人か重傷・致命傷を受けた兵士がいる。

 

 レンゲ側から先に報告が来たのを受けて、即座にユカリ側の状況を司令室が確認する。

 

“ユカリ、緊急事態! レンゲの報告では、妖魔の大暴走がおきてるそうだけど、そっちは!?”

「こちらでも、そのように見えております! 既にあちらもこちらも、血を流している状況ですが、怯んではいられません。身共は今、この恐ろしい怪物達から、どちらの命も守るために戦うと決めたのです!」

“……それでこそエリート。信じるよ”

 

 こうなっては、人間側にだって敵も味方もないのだ。救うべき人命があるなら無条件に救うべきである。あれこれといがみ合っている暇があるならば、この脅威を倒し尽くすために手を取り合う。

 そのためには、役割が大事だ。

 

“ツクヨ、聞こえてる?”

「は、はい!」

“よし。魑魅軍は今、相当なパニックに陥っているはず。これは好機って意味じゃない。戦意を持つどころじゃない人が大勢いる。そういう人を保護してほしいんだ。名目上は捕虜だけど、悪いようにはしないし、したくもないって感じでね”

 

 ツクヨをリーダーに据えて、何人か向かえそうな人物を探し出して救助班を作る。先生が担当するユカリが率いる側では、すぐに形成できた。レンゲ側も少し遅れをとったが、致命的ではない。

 戦いの前線の向こう側にも、負傷者はいる。魑魅軍全体の戦意は元々高くなかったが、この状況となれば、その元凶だとして敵意をこちらに向けてきてもおかしくない。危険な任務だが、それでも人命は何物にも代え難い。

 

 ツクヨはこういう時に、爆発力を見せてくれる。妖魔の激しい攻撃をかいくぐり、その体の大きさにもかかわらず驚異的な気配の消し方で、確実に負傷者の元に辿り着く。

 

「何よ……情けのつもり? だったらもう、早く楽にして」

「それが命を奪ってほしいという意味なら、お断りです。楽に休んで、生きていられる場所に連れて行きます」

 

「出たな忍軍の犬め! やっぱりお前らが噛んでやがったのか、いつからだ、もう何も信じないぞ、殺してやる殺してやる殺してや」

「……ごめんなさい。殺しませんから、殺さないでください。もう……そんな思いをしなくていいようにしますから」

 

 どこか人が変わったように、愚直に人を救おうとしている。リーダーにするのは正解だった。この姿を見て、仲間達もあらゆる手を尽くして人命を助けようと全力になっている。

 第一攻略目標地点の妖魔の鎮圧が半分ほど進んだ段階で、数十人から百数人ほどの規模での救助が進んだが、その中で奇怪な振る舞いをしている人物がひとり。ツクヨを見るなり、こんなことを叫びだした。

 

「ん、んんん? あああ〜っ! 手前さんはあの忍者共の一味の! やっと知った顔、だからと言って容赦は無用! まともに取り合わないで兵士扱いする奴らの代わりに洗いざらい話してもらいますからねぇ!?」

「え、ええええっ!? なんですか、この人〜!?」

 

 面識の無いはずの、妙ちくりんな話し方と態度をしている妙ちくりんな少女を前に、覚悟が決まり始めていたツクヨも崩されてしまった。ただ、やはり助け舟とは来るもので。

 

“なんですかこの人、と言われたら教えてあげよう。その人は私達と同じ側から来た、()()()()()()()()()朽木修羅先生だ”

「やっぱり手前様が絡んでるんですかぁ!? それにおちょくってるんですかそれはぁ!? 手前の名前は箭吹シュロ、風流を好む怪談家! あんなことやこんなことがありましたけど、手前のその在り方は一貫させてもらいますからねぇ!」

 

 百鬼夜行を一時は混乱に陥れたものの、その本質は年相応の妄想気質な(ほぼ自称)怪談家は、異聞帯でその存在を保っていた。

 

 

 一方レンゲ、最初の基地をどうにかして制圧することができ、次の基地に向かっていた。道は平坦で、かなり見通しは良く、そのため遠くに広がっている光景がハッキリと見えた。

 巨大な化け物が、民間人の住む場所にまで近付こうとしている。数も多い。どうやら初動を手こずりすぎてしまったようだ。

 

「大きすぎて距離感が分かんなくなるな。どれくらい先だっけ?」

『目的地はあと15kmほど。巨大妖魔までの距離は推定で10kmくらいかな。目標のサイズは民家の軽く倍はあるし……ほんと、わけわかんない』

 

 お前がそれを言っちゃおしまいだろ、とレンゲがため息をついたのは、キキョウと同時だった。途方もないがやるしかないというのが、なんとも嫌になってくる。

 見えているものよりも少し小さい程度の妖魔を、4体ほど既に倒したが、ここから先はもっと多いだろう。ジリ貧にならなければいいのだが。

 

「そうだなぁ……忍軍の人達さ、心当たりない? なんでこんなことが起きたのかって」

 

 妖魔に関する資料も、潜入調査でいくつか見つかっているはずだ。それを自分で拾い上げた忍び達の記憶を頼れば、何か力になるのでは──そう考えて、通信で聞いてみた。

 それに答えたのは、イズナだった。

 

「そういえば、妖魔を生産する技術や工場についての資料があったと思います。今、見られますか?」

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