Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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1-4:氷の世界で生き延びるには

「遥か昔のことだ。ゲヘナの地面が、急に恐ろしく冷たい凍土になって、冷気を吐き出し始めたらしい」

「地面が原因、なのですか」

「そう聞いているけど、歴史の話だからなあ。本当のところは分からないし、そもそも凍ってない地面の想像がつかなくてね」

 

 そんな状態では、おそらく多くの命が失われたことだろう。住人がほとんどいない様子であるのも頷ける。そして、そうなれば学園はどうなっているのか。

 

“ゲヘナ学園は、どうなってるの?”

「学園……という名前と、生徒の自治という名を借りた支配はある。その仕組みがないと、皆居場所が無いのさ。ちょうど今、向かってる方向にある」

 

 流石はセナ、ゲヘナの地元民。読みは正しかったようだ。自治区も決して狭くはなく、歩きで踏破するのは相当な期間を要するはずのところ、当面の目的地が近かったのもありがたい。

 ただ、この言い方では、「学園」の機能はほぼ完全に喪失しているだろう。尤も、元からゲヘナは学園単位で学級崩壊していると言っても過言ではなかったが。

 

「食料事情はどうなんだ? どう考えても、作物は育たないが」

「さくもつ……ああ、作物。確かにそういうのは昔話で聞いたことしかないが、野獣やら海獣はいるから、それをね」

 

 キヴォトス人は、狩猟のための射撃に基本的には慣れていない。これは厳しい世界だ。その上で、もしゲヘナの素の気風というものが変わらないのだとしたら。

 3人の心を、ぼんやりとだが、嫌な予感が支配し始めていた。

 だがそんなことは全く知る由もないカスミは、質問を投げかけたカンナをイジりだす。

 

「それにしても質問するときの顔、怖いんだが」

「あ、これはその……失敬。質問しながら圧をかけるのが、どうも癖になっていて」

“公安局っていうのも大変だねえ”

 

 と、温度差によってモヤモヤを誤魔化していられたのだが。

 

「おい、そこのいいもん持ってそうなの」

「なんかくれよォ、今日明日の腹の足しになりそうなのをよォ」

 

 案の定人口が大幅に落ち込んだ異聞帯だろうと存在していた、不良生徒による襲撃。その日その日の食べ物にも困る生徒で溢れているのか、それともそのフリをしているのか。どちらにせよ、この異聞帯で生き抜くことの困難を象徴していそうな二人組がやって来た。

 

「ああ、よりによってゲヘナの強盗に遭うなんて災難だよまったく! 私ならともかく外の人に対応なんて……」

「何、キヴォトスではこの程度日常だ。私はそれを検挙する仕事をしているのだから、できないことはない」

 

 ヴァルキューレ制式拳銃を構えるカンナ。強盗の生徒も片方は拳銃使いであるが、構えの姿勢がまるで違う。

 

“カンナ”

「分かっています、先生。状況に応じて、指示を」

 

 そこまで発したところで、カンナは敵を一瞬で見失う。チラリと先生の方を見た隙に。

 直後、銃声と共に鈍痛。

 

「がっ……!?」

 

 後ろから撃たれた。ハンドガンの一発はこんなに痛いものだっただろうか、と狂犬の頭は混乱状態に陥る。

 おかしい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。現場仕事よりも書類仕事の方が多い立場になったが、それでも公安局長、能力自体はあるはず。だが、圧倒されている。

 

「だから言ったんだ、やっぱり予想は当たった! 構えを見て察していたさ、行儀が良すぎるって!」

 

 カスミの指摘は当たっている。構えがまるで違う、とは述べたが、その構え自体はカンナの方がちゃんとしていた。訓練された、とても効率の良い動きが期待できる良い構え。

 ただ、敵方が自分自身の力を引き出すのに特化した、謂わば「極まった自己流」であっただけのこと。しかし、道端で出遭う強盗が極まっているというのは考えづらい。名がある生徒だったりしないか。

 

“もう一人、サブマシンガンもいる。弾道を見極めて、確実な回避を……!”

「申し訳ありません、先生。言いたくないのですが、今回ばかりは言わせてください。無理な物は無理です!」

「よく言った! 私が出る!」

 

 カスミも武器を取り出して前に出てきた。「鬼怒川カスミ」が持っていた武器はハンドガンだが、「奥座敷カスミ」はショットガン使いらしい。

 そしてその実力の程はというと、とてつもないものだった。敵方の戦術も、その手は食わないとばかりに同じやり方で返すくらい、単独での実力では圧倒していた。

 だが。1対2の戦闘は、個々に実力差が無いとしたら、チームとして戦力に4倍の差が単純計算で出る、とも言われている。もはやカンナは戦闘に参加できておらず、若干ながら不利であることは否めなかった。

 

“環境要因って、ここまで人を強くするものなのか……?”

『回答。強くなることの必要性が本来のキヴォトスよりも強い可能性が高いです。また、数が減るほどキヴォトスの生徒は強くなる可能性が示唆されています』

“そうなの? もしかしてプラナも──”

『経験したことです。「こちら側」のシロコさんの事例が、好例となります』

 

 崩壊した世界線のキヴォトス。()()()()()()()()()()()()()()、シロコが全てを滅ぼした世界。「色彩」の影響もさることながら、他に誰もいなくなった世界の住人であることが、あの規格外の存在を与えている──と、少なくともプラナは解釈しているらしい。

 ゲヘナ異聞帯は見たところ、そして話を聞いて察せる限りからしても、相当に人口が減っている。少ないのではなく、()()()()()。それならば、相応に環境要因すら上回る強化があっても不思議ではないか。

 

 などと、分析している場合ではない。カスミが予想外に強かろうと、このままでは負けるかもしれない。こちらの戦力は不足している。今からホシノ辺りを呼べれば解決だろうが、あいにく方舟からは相当に離れてしまった。

 どうしようかと、先生も頭を抱えていたところ。

 

「「ぐあっ!」」

 

 完全に視界外から撃たれた強盗の二人。そしてその銃声は、マシンガンと呼ぶにしてもあまりに重く、間隔も短い。その音は、よく知っているカスミが聞いたなら、おそらく泣いて逃げ出す音。

 近付いてくる影がある。走っているようでも、低空を滑っているようでもある、横に広い翼、フサフサとした毛並み、そして小さな体躯に見合わぬ気迫。実に最良のタイミングで、最良の人物が現れた。

 

“ヒナ……ヒナだよね!?”

「ええ……って、先生!?」

 

 カスミのように、別人のような様子でもない。間違いなく、正真正銘よく知っている、風紀委員長の空崎ヒナがそこにいた。

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