Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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2-28:決戦最初の夜

 宣戦布告が行われ、既にエビス軍は動きつつあった。百花繚乱が魑魅を倒す作戦の最中、同時並行的にはなるが簡易的な要塞を築いていた。古い要塞の跡があり、それを流用したからか、簡易設備の割にはうまく機能しているようだ。

 そしてそれが、早速役に立つ時期が来ているという。状況が動いてから少しも待たない宣戦布告からの、即日の攻勢への対応を迫られている。

 

 その切羽詰まった様子が、夜になって百花繚乱軍にも伝わってきた。要塞には布告が届いてから大量の兵員を向かわせており、戦力の2割弱はここに集中した。徹底的な防衛戦のための戦力投入。防衛戦というのは後方からの援軍を逐次送ることも可能であったりなどという理由で優位性を持つことができるものだ。しかしこの夜から、既にかなり拮抗した苦しい戦いを強いられ始めているとのことだ。

 

『百花繚乱軍を中心とした連合の皆さんが、やはり一番の頼りなのですが……お願いできますか?』

「挟撃しろって話? だとしたらうちが突入戦をやらなきゃいけないけど、この前の作戦でけっこうな犠牲が出てるし、そもそもいけそうなルートがまだ見つからないし」

 

 カホは音声通信の向こうで何度も何度も頭を下げているだろうことは、容易に想像できた。それでもキキョウは現実的な考えが重要だと、あえて冷たく接することを心がける。

 

『そのルートのために、使える方──は、負傷しているのでしたね。失礼、忘れてください』

「いや、思ったより酷い怪我じゃないみたい。数日以内に、その作戦に入ることはできるかもしれないけど、期待はしすぎないで。すごく勝算は低いから」

 

 その勝算の低い賭けに何度も勝ってきたような、そんな変な大人が考えた作戦でなかったら断っていた。ただ、その上でキキョウは心の中で問う。

 

(先生は、本当に()()()()()使()()()をするような考えをするの?)

 

 ミチル達のチームを敵地のど真ん中に先に行かせて、突入口に使えそうな場所とルートを探索させる。それなりに単純明快であるが、それゆえにリスクリターンが極端な、そして人使いが雑な作戦。

 これこそが、先生の覚悟のひとつの表れであった。

 

 決戦のための準備は、急ピッチで進められていた。多方面で動いているが、主にふたつ、それに付随するひとつがメイン。方舟のコピー設計図から取り入れられるアイデアの検討とそれに伴う改造、忍軍向けの武器開発、その忍軍の者達の健康チェック。

 猶予は数日であるが、それなりに順調だ。とはいえ、ちゃんと試運転をする時間はなく、そのぶんのリスクはどうしても背負うことになる。方舟の内部は異聞帯の住人を弾いてしまう性質が障害となってしまっているようだ。

 

 ミチルとホシノの体の状態が、現状一番の懸念材料といったところ。ホシノの方は、左腕をある程度動かしても問題はないくらいになったようだ。

 

“一応、まだ治りきってなくて脆いらしいから酷使はできないみたいだけど……完治前に出るしかないかな?”

「思ったより良くなるまでかかっちゃったねー。でももう盾を手に持って使うこと自体は問題ないと思うよ」

 

 と、ホシノ自身は言っているが、盾については持ちながら使うと負担がかかるので、置いて壁として使うことをセナから勧められた。そういった使い方も不慣れではないのだが、得意なやり方でもない。

 ミチルは軽傷とは言ったものの、それは筋肉や骨、神経に強い損傷がある部位がないというだけで、満遍なく傷めているため、満足に動けない状態だった。こちらの方が深刻かもしれない。

 

 怪我人の様子を診たら、作業中の方舟の中で状況の確認とミーティング。すっかり百花繚乱の軸になっている先生は、多方面のことを把握していなければならないので大変だ。

 

「格納できるタイプの砲台に神秘の力に由来するエネルギーの入った砲弾を射出する機構、その細かい構造についての案がしっかりまとまってる。エンジニア部にも負けない才媛でもいるのかな、あっちには」

“どうだろうね。ウタハとは違って専門家目線じゃないから的外れかもしれないけど、少々運用コストを度外視してるように思うかな”

 

 コストがかかるものは大抵、耐久性があるものだ。しかしここで提案されている兵装には、それに真っ向から反するような性質が備わっていた。

 高級品だろうが、平気で使い捨てる精神。資源の無駄遣いなど何一つ気にしていないかのよう。

 

「思えば、エビス軍の変なところってそういうところでもあるよね。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()かのようだ。あの軍勢の実態が知りたいよ」

 

 ウタハが苦笑いと同時に疑問を浮かべているところに、ユウカもやって来た。その隣には、不服そうな顔をした現地協力者が。

 

「お話中でしたか? すみません、私もこの子の扱いをどうしようかというのを、今のうちに整理したくて」

「あーっ! また手前のことをちっちゃな子供扱いしてぇ!」

 

“まあ、なんというか。要するに怪談の力がどれだけ有効であるか、ということだよね”

「そもそも、怪書の類がこの、異聞帯とかいうところにあるのかどうかが分かっていない段階ですよぉ? 人畜無害の役立たずということでもう解放してくださいってばぁ!」

「人畜無害とか信じるわけないでしょ、前科のことはもう聞いてんのよ! 先生、本当にどうしましょう」

 

 怪書の類は、確かにない。妖魔は怪異を作り変えて生まれ、人の害になるために動くものは陳腐化した。故にその恐怖を伝えてそこに言霊的な力を持たせるには基盤が足りない。

 だが、故にこそ思えるわけである。

 

“妖魔が陳腐、けれど脅威であるのなら、その大元になるものへの恐れは、根っこで大きくなっているんじゃないかな?”

「……それだ。それだよ先生。妖魔はエビスとも無関係とは思えない、探ってみるといいんじゃないかな」

 

 結論として、怪書としての有効性を示すかもしれない「妖魔の大元に関する記述」を探すことを忍び達に追加で依頼することにした。そして、本隊の作戦にシュロも同行する。

 ただし、方舟の中で、ぐるぐる巻きの拘束状態で。

 

 少々慌ただしい一夜が明けた。夜が明けるまでに戦線が大きく動くことはなかった。いつそれが崩れるかという緊張感に包まれながらも、束の間の静寂でまた各自がいそいそと準備に移っていった。

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