Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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2-29:忍び達の決戦

 3日が経った。いよいよ陰陽軍を待たせることにも、敵方が動かないでいることに期待するにも限界が感じられるようにもなってくる。だからもはや、待っているわけにはいかなくなった。

 

“ミチル、もう遅くても今日のうちに出ないと間に合わせられない。出られる?”

「どうにか、ね。これくらいで動きが鈍ってちゃ務まらないって!」

“……よし、確認作業をしておいて。余裕を持ってるくらいがちょうどいい”

 

 ミチル、ホシノ、ツクヨ、イズナ。このメンバーを先に敵地に送り込み、安全性の高い侵入ルートの検索、有事の際には戦闘行為を行い、文書データや物的資料を探り、視察とする。総合的に重要な行動を、たったの4人の子供に任せる判断を下したのは、他ならぬ先生だ。

 案外、いつもこれくらい人使いは荒かったかもしれない。特にホシノに関しては、戦うことの才能がとにもかくにも秀でた、それに特化した存在でもある。彼女の存在があるからこそ、この少人数に重荷を背負わせる決断ができたようなもの。それだけにかかる重圧が特に重いようだった。

 

 その夜、忍軍チームはエビス軍領域の境界辺りまで来ていた。ここまでは車による移動を続けていたが、何時間と揺られてここまで来てからが本番。

 雪に覆われた山々が見える景色だが、当然ながらそこを乗り越えるわけではない。突入経路を探す以上、山と山の間が望ましいが、そこは警備が厳重である可能性もある。程よく逸れた道なき道を探していくことが肝心と見えた。

 

「ちょっとした門番くらいなら、先に蹴散らしておいて……いや、ダメダメ。どうせ補充してくるもんね」

 

 などと呟くホシノは、おそらく戦いに飢えているところがある。久しぶりに遺憾なく体を動かせるとあって、テンションが上がっているのだろう。

 とはいえ、無意味な戦闘行為を積極的にすることは、やはり禁止されていた。というより、それをやる意味が特にない。

 

「ここならなんとか車を走らせるくらいはできるんじゃないですか? 余計なもの、どかしていきましょう!」

「なんだか、既に少し切り開かれてるような……古い道の跡、でしょうか?」

 

 当然のように舗装はされていないが、領有権関係がグチャグチャなこの異聞帯において、整備されていない道路など珍しくはないし、多少開けていれば道に見える。そういう意味で、少し山を登るこのルートがかなりちょうどいい。位置情報の記録データを送っておいた。

 先に進んでも、ちゃんと繋がっている。一部大きな石などで路面が悪くなったり、塞がっている場所もあったが、それをどかしたりするのも仕事。

 

 そして上りが終わり、向こう側の景色が見えた。大軍の本拠地になる場所の割には、ずいぶんと閑散としている。いや、建造物はかなり、それこそキヴォトスの一般的な基準よりも発展を感じさせるような──この異聞帯基準だと、異常なレベルで──巨大な建造物もいくつかある。だが、高いところから見渡しても、人が住むのに向いている場所が見当たらない。

 生活まで軍事一色なディストピア社会なのだろうか。

 ここで、ホシノが先生の元に通信を入れた。

 

「先生、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今大丈夫かな?」

“何か見つかった?”

「いや、ただの確認なんだけどさ。確か先生って、エビス分校ってところに行ったことはあるんだよね? 汎キヴォトス史だとどんなところなの?」

 

 どうしていきなりそんなことを聞くのか、と考えながらも思い浮かべてみると、どうして今まで気付かなかったのかとばかりに違和感が出てきた。

 

“汎キヴォトス史だと、辺境の統合されきらなかった分校って立ち位置かな。分校とは言っても、形だけ存在していて、生徒なんて全然いなかったんだけど。北ののどかな地域だね。食べ物がすごくおいしい。うん、確かにあの時も敵の根城ではあったけど、軍事拠点というのとは真逆だ。単に歴史が違うだけとも、言い難い何かを感じる”

「うーん、話と目の前の景色がぜんっぜん合わないねー」

 

 いよいよ歴史の歪んだ部分が見えるところまでやって来たというところで、イズナの目が捉えたものがあった。

 

「あの、何か飛び立っていませんか? 空が暗いし小さく見えるから、見間違いかもしれないですけど」

「……いや、飛んでるね。うん、忍びの目は誤魔化せないよ! 形だって分かるよ、あれは方舟と一緒の形をしてる!」

 

 ミチルの見抜いた事実は、つまり方舟のコピーを量産して実用する段階にすでに至っていたことを意味する。それにしても、どのタイミングでこの方舟を解析などしたのだろうか。方舟を百花繚乱軍の元に向かわせたタイミングだとしたら、あまりに展開が速すぎるし、異聞帯に入ったタイミングだとしたら、どうやってデータを得たのか。

 方舟は百花繚乱軍領域に移動するより以前でも、どうにか安全を保ったままでいることができていた。何か怪しいものが接近した記録もない。

 

「あ、あれですね。でも飛んでいってる方向がバラバラなような……陰陽軍の方に行っているようには見えませんし……」

「ちょっとツクヨ、そんなこと……あるね。おかしいな」

 

 ミチルはこう言うが、実のところ何もおかしくはなかった。エビス軍は、今や自分達以外を全て排除することを試みている。そのための最も効率的な攻撃手段として、利用される。

 

 陰陽軍と、百花繚乱軍の本部宛に映像付きのメッセージが送られてきた。空から小さな勢力、あるいはそういったものに頓着のないような集落の上までやって来て、空爆をする方舟のコピー達が、映像にはあった。

 テキスト部分には、このようなことがあった。

 

 

 もはやこれらは不要である。故にその命と、魂と、内に宿る神秘の力を、我らの神凪のため捧げさせる。

 それは貴殿らも同様である。屍の先の新たなる戦乱の自体を確かに迎えるべく、礎になることを我らは求める。そうでなければ意味はない。そうでなければ未来はない。これほど小さな我々には。

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