Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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2-33:「神凪の殻」と挟撃と

 怪なるものの主、妖の女王、まさに全ての鬼を統べる者たるべし。その殻は鬼たちの刃として、矢として、炎として、魂を喰らうための力とならん。

 其は神凪、神の血より声を聞き届ける者。あるべき姿を、取り戻すべくして取り戻した歪みなり。その残す怪は、黄昏を閉ざし、その有り様を確かとす。神凪の、来るべき日までの安寧を乱すことなかれ。

 

 このような書きだしで始まる謎の文書は、汎キヴォトス史にあった「怪書」ともまた、文体的には異なる。しかし、それは確実に同じ性質を持っている──百鬼夜行に起きた事件を知る者は、皆それを直感していた。そしてシュロは、確信していた。

 

「これ……使えますねぇ! データ化された電子文書ではおそらくはなんの力も持たないはずですけど、原本をどこかで拾えばあとは手前にお任せを!」

“いや、完全に任せっきりにはしないよ? 君は一応は捕虜にして監視対象なんだから”

 

 つまり、ミチルチームのこれからの目標は「神凪の殻」の文書の原本、もしくはそれに類するものと思われるものの回収となる。紙に手書きされたものであれば、それなりに効力はあるだろうか。検証が難しいのが悩みどころだ。

 

『えーっと、それっぽい情報あったっけ?』

『ありますよ! ただ、やはり敵の中枢部に近いところに行くことになるかと。というわけでホシノ殿、ここからもよろしくお願いします!』

『うへ〜!? おじさんを酷使しすぎだよ〜!』

 

 というわけで、今後の情報提供にも期待しつつ、通信を切る。そして先生は大きくため息をついた。

 本当なら、こんなことはやらせたくない──とは思うものの、避けていては敗れる。キキョウも心配になっていたが、かける言葉が見当たらないでいた。

 

 しばらくの、睡眠をとれるほどの休息の後に進軍。目指すは、陰陽軍領域前に展開されている戦線。位置は分かっているが、どれくらい離れた位置から敵が構えているのか分からないので、大回りする。

 

「こちら、配置は概ね完了致しましたわ。いつでも参れます」

「ここから南西方向に展開していくんだったよな。いつでも指示どうぞ、『代理』サマ」

 

 現場からの報告を聞き、ゆっくりと息を整えるキキョウ。

 

「目標、陰陽軍本陣。そこを襲撃するエビスの軍勢を鎮圧して、重要な友軍との合流を目指す。それでは、作戦開始!」

 

 かなりの横幅で展開した部隊は、しかしエビス側には遠く及ばなかった。厚みでも、近い陣形にもかかわらず及ばなかった。だが、向こう側で陰陽軍と膠着状態にある上で、背後をとった。なのである程度は奇襲として成立していたと言える。

 しかし、それは最初のうちだけの話。やはりと言うべきか、ほとんどが妖魔で構成されている軍団はこちら側に牙を剥いてきた。

 

“頼む、耐えてくれ……! あちら側が手薄になったなら、陰陽軍が押してくるはずだ!”

「……先生、息が荒くなってるよね?」

“そ、そうかな……?”

「なってる。あんたは少人数戦の指揮は一流だけど、軍団戦は不慣れなんだし、()()()()()()()()()だし。ここは任せて」

 

 この決戦は、先生にとっては心の負担が重い。何せ、ここまでの大群を相手にさせると、かなりの人死にが出る。魑魅の件があった日も相当に摩耗していたが、それに重ねてしまう形になっている。

 

 ようやく、エビス軍がこの異聞帯の情勢を支配していた存在たる所以を見せてきたと言えるだろう。エビスの人型妖魔は銃火器と人外性を利用した戦法で、こちらを苦しめてくる。はっきり言って、一般的な生徒兵士には手に負えない。

 白兵しかいないような小さな隊を殲滅するなら絆の力などという理屈ではないものでどうにかできたものの、今この場では敵方も戦車や装甲車を多用してくる。それらの車両すらも妖魔と一部同化して異常な挙動で本来以上のスペックを発揮してしまっている。

 

「なにこれ、地獄? 質と量のバランスでの不利をまずどうにかしないと……方舟の砲撃でも撃ち込んだ方がいい?」

「やるとしたら、人をあまり巻き込まないところを狙いたいけれど……悩ましいわね」

 

 一応それでもユウカは照準を操作する。一応先生がシッテムの箱を繋いで、妖魔しかいないポイントは把握している。しかし簡単にはいかない。人がほとんどいないということは、味方が近くに居ないポイントということ。長期的な影響は出せるかもしれないが、今差し迫っている状況がそれまでもつかどうか。

 それでも一か八か、撃ってみる。何せ街を焼払おうと使わされた空中艦と装備はほぼ同じ。強力な空爆をすれば、動揺は狙えるかもしれない。動揺するような精神が、妖魔にあるかどうかは不安だが。

 

 やはり地上に直に撃ち込むには火力過剰(オーバーパワー)といったところ。かなりの規模の爆発が起き、相当量の妖魔が殲滅できた。それでも見える限りでまだ何万と残っていると見える。そして現場の様子からすると、案の定怯む様子がない。

 挟み撃ちとはいえ、やはり殴り合いを挑むのは厳しかったのだろうかと思った、その瞬間に通信が入る。

 

「入電……陰陽軍から!? すぐにでも繋いで!」

 

『良かった、繋がりましたね! 私です、陰陽軍のカホです!』

“ニヤじゃないんだ。そんなに慌ててどうしたの?”

『いえ、あの爆発で友軍の到着を確信して、居ても立ってもいられず……ニヤ様もそうです。より前線に近い場所にと、向かって行かれました』

 

 異聞帯でも、ある意味ニヤは変わらないのかもしれない。肝心な時に行動は起こせるし、そうなれば策士だ。むしろ汎キヴォトス史より真面目なので、頼りがいがある。

 

「もしかして……まずい状況?」

『いいえ。半刻ほど前から、敵軍の攻勢が緩くなってきていまして。それであの爆発、皆様がやってくださったのでしょう? あれはわが軍の者達にとって、希望の光だったのです』

 

 要するに、と言うカホの声からは、向こう側で口角を上げている様子が目に見えるかのようなものが感じられた。同時に方舟の面々からも緊張の緩みが顔に表れていくのが見える。

 

『我々陰陽軍は間もなく、本格的な反転攻勢に入り──百花繚乱軍の皆様と、合流をすることになるでしょう』

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