Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
ニヤによる作戦は、陰陽・百花繚乱の両軍に同時に伝達された。陰陽は戦線を横方向に延長させ、その両端に力を入れて突破をすることで、百花繚乱軍と合流する。そうすることで、包囲網が完成するというわけである。
包囲が成立してさえしまえば、かなり勝算は高いと見ている。逆に言えば、そこまで辛抱できるかが鍵となる。
『ニヤ様のお考えでは、数日以内……全てが調子よくいけば明日にも合流というのも考えられる、とのことです』
「そっちも大変なのは承知で言うけれど、なるべく早くね。こっち側はちょっと消耗戦気味だから、あんまりかかると危ない」
『お伝えしておきます。それでは私はこれで』
「分かってはいたけど、長期戦になるな……多少退くくらいはいい、大事なのは戦える状態でいることだ! 皆、無事でいることを最優先にしてくれ!」
「妖魔を倒すのはもちろんのこと、人がおりましたら、命は助けこちらに引き渡すことはお忘れなく。このエビス軍という存在と向き合う機会を逃してはなりませんもの!」
百花繚乱軍の者達それぞれが、長い持久戦のための心の準備を整えている。もはや心以外で準備できるものはない。
ここまでの戦況を見ると、安全策にしっかり出られているということなのか、戦線離脱者や犠牲者はあまり出ていない。ただその代わりに、少しずつ後退している。レンゲはそれを別にあまり気にしなくていいと励ましてはいるが、それにも限度はある。ゆっくりと、できる限りそれを遠ざけるように耐える。
一夜を、戦いながら明かす。妖魔にも意外なことに疲れたように振る舞う者がいるようだ。どうにか交代で警戒に当たれば気付けば朝だ。
そしてその朝、レンゲの隊の側から声が上がる。
「いた、こいつ妖魔じゃない! 捕まえて『お姉様』の元に引き渡そう!」
それからレンゲの元にその数少ない人間が連れてこられるまでに、1時間もかからなかった。
「……ビックリした。どんなロボットみたいなのが来るのかと思ったら、すごく怯えてるじゃん」
「もう……いや……グスッ」
レンゲの想像では、人間であったとしても、無心に命じられるままに虐殺ができるような、殺戮マシーンのような者を想像していた。しかし予想外にも、人間らしくこちらに怯え、涙まで見せていた。演技だったりしないかと警戒はしていたが、その疑いもすぐに晴れることになる。
「じゃあ聞こうか。何が嫌なんだ? アタシ達は抵抗さえされなければ悪いようにはするつもりはない。だから百花繚乱の領内に連れて行かれることを嫌がる必要は──」
「もう、友達を撃ちたくない。戦う意味も、分からない」
「友達を? アタシ達は友達同士じゃないよ?」
どうも内容が見えてこないな、とため息をつこうとしたところ、その捕虜は急にパニックを起こした。
「お前たちじゃない! 一緒に育ってきた幼馴染みも、訓練の日々を歩んできた仲間も、みんなみんな、最後に殺し合わなきゃいけないんだ! お前たちだって、いつか、そうなるんだ……人は
「落ち着いて! そんな風にさせないために、アタシ達は戦うんだ。だから、落ち着いて……よく考えてくれ」
「そんなの……夢物語だよ。きっといつかは、人は憎み合って滅びる。この土地では、それをちょっと早くするだけ……だって、教わってきたのに。だけど、どうしようもなく、嫌なの。ただの日常をやっているだけ、なのにどうして?」
エビスの領内では、極端に減らした子供に極端な教育が施されてきたらしいことは伝わった。極端すぎて、もはやその言葉は理解しがたい論理で繋げられているが。
とりあえず、伝わったのは、彼女にとって殺戮とは日常であるということ、少なくとも敵軍やその領域においてはそれに抵抗がないこと。しかし心の内には、もうやめにしたいという思いがあることだった。
“アリウスの子達の生活の悲惨さを目の当たりにしたことはあるけど……正直、あっちが可愛く思えてきそうだな”
モニタリングしていた先生が呟く。身内同士でなら支え合うことができていただけ、あちらの方が余程マシに思える。自分達以外にその殺意を向けることに対してはもはや一切の抵抗がないというのも、酷い歪みを抱えていることを感じさせる。
ユカリの方にも、同じような捕虜が連れ込まれてきた。その思いの発露の仕方は大きく変わっていたが、言っていることは大して変わらない。
「やっぱり皆、嫌になってるのかしら。よく見ておきなさい。あたし達みたいに、あなた達もいつかはなるんだから。今人の手で起こせば、何か
「……なんてこと。少しエビス軍というものを、身共は誤解していたのかもしれません。が、だからこそ、全てを赦すことはできません。この因果のすべては切らなければなりませんもの。この因果が、この地に、ひいては世界に行き止まりをもたらすのですから」
陰陽軍の宣言より、4日。いよいよこれ以上戦線を後退させるのも難しいくらいになってきて、遂に消耗戦に入り始める。
そんな状況で、吉報が入ってきた。
『司令部に報告致します! 陰陽軍、わが軍の右翼端に到達しました!』
『左翼端、陰陽軍の到着を確認! すごい数……もうすぐ、前進いけます!』
ほぼ同時にこの報せが入り込んできて、これ自体は大変喜ばしかったのだが、それでもまだ不安が残る状態だった。
中央部の限界が近い。ユカリとレンゲの近くに精鋭が置かれており、それぞれ右側、左側に寄っているので、敵の攻撃の激しさに比べて守りが手薄なのだ。方舟の援護射撃の影響を受けやすいものの、無闇にこれは撃てない。
時間に追われる状況か、と思った矢先、人をかいくぐって素早く動く影が見える。
「妖魔が群れる、人を貫こうと手を挙げる。けれど心配御無用、この傘一つでいなしてみせましょう!」
傘を回転させて銃弾も、異形の手も弾き飛ばしながら進むその影が何者なのか、先生の目にはすぐに分かる。
“イズナ!? 来てたの!?”
「お待たせしました! 主殿のため、皆のため、力になってみせましょう! ニンニン!」