Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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2-35:いざ神凪の元へ

「あれ、もしかして連絡……忘れてた!? うわーっ、ごめーん!」

 

 ユカリのいる方面に加勢していたミチル、ふと思い出してしまった。「神凪の殻」にまつわる文書の、おそらく原本と思われるものの捜索に成功したこと、そしてそれを持って行きながら加勢をするということ、その両方を伝え忘れていたのだ。

 加勢してから通信に乗せてそれを伝えたが、結局その登場はサプライズ的な展開になった。

 

「ご用命の書物は、ホシノさんに運んでいただきました。その……それが、一番安全だったものですから……」

 

 ツクヨが言うのとほぼ同時に、方舟の上に飛び乗って、コックピットの目の前に着地した、小さな体がひとつ。

 

「みんな、お待たせ! ご注文の品を持って来たけど、ちょっと大変そうじゃない? それじゃ、おじさんもちょっと、張り切っちゃおうかな〜」

 

 というわけで、気になる収穫の内容については後回し。とはいえ、すぐにどうにかなりそうだ。何せ張り切ったホシノの進む勢いが凄まじい。

 流石に単独でPMCをほぼ制圧できる戦力なだけあり、量産された人型妖魔の大群をあっという間に蹴散らしていき、敵の戦線に穴が開いてしまったかのよう。

 その風穴に、勢いづいた軍勢がなだれ込む。ここにきて、一気に形勢は変わった。

 

 両翼も陰陽軍の主力によってどんどん敵陣に潜り込んで、一気に攻めが進んだ。もしかすると、すぐに分断もできるのではないか、という具合にまでなってきた。

 それに興奮したのか、ニヤが百花繚乱軍に通話を繋げてきた。

 

『百花繚乱の皆さん! 今、私達は歴史を目にしていますよっ! エビス軍の攻勢を防ぎきった例なら、今までもいくらかはありました。それは主に、我々陰陽軍の過去の実績ですけど。ただ、反転攻勢がここまでうまくいったことは、前列がありません!』

“ようやく希望が見えてきたよ。お互いの目指すもののため、エビスを打倒する時が見えてきたんだ”

 

 お互いの、というのは欺瞞である。それは先生も分かっている。空想のサンクトゥムタワーを発見し、異聞帯の王を打倒して掌握、停止させれば、この異聞帯は終わる。陰陽軍の目指す百鬼統一は、訪れない。

 そして──

 

『……無理に黙っている必要はありませんよ。皆さんの行動の真相は、存じ上げておりますからね』

“なんだって? 一体誰が──”

 

 ニヤも、それは分かっていた。

 

『お嬢様、という通り名で呼ぶべきですかね。彼女が教えてくれたのです。正直でいないと、悪いからと』

 

 伝えたら敵対することになるかもしれない、危険な行動だ。だが、これで敵対する相手だったなら、どこかしらのタイミングでいつか敵対していただろう。そしてその場合、異聞帯攻略は絶望的だ。結果はどう転んでも変わらないので、ユカリの行動については不問とすることにした。

 

“それを聞かされて、何か思わなかったの? 私達を駆逐すれば、君達は──”

『生きていける。陰陽軍による統一事業も、やっていける。そうお思いになるのも分かりますが……それ以上に、我々の苦難が何かのせいであるのなら、何かに利用されているのなら。命をなげうってでも、断ち切らねばならないと感じたのですよ』

“いや、ニヤはそう思ったのかもしれないけど……他の人は、納得してる?”

『カホ以下、幹部陣は全員覚悟を決めましたよ。ああ、一般兵にはこのことは言わないでくださいね。どうしても、あの人達は騙さなければならず……というわけで、気にせず進んでください。にゃはは』

 

 思えば、この特有の笑い声をこちら側で聞くのは初めてだったかもしれない。なかなか笑ってはいられなかったのだろう。余裕がない。なんだったら今も、本当は余裕がないのに無理をしているのかもしれない。

 だが、()()()()()()()。心から先生は、そう思った。

 

 この戦いは、決して肯定はしてもらえていない。やるべきことと、異聞の人々は心から応援してはくれていない。だが背中を押す覚悟を聞かせてくれた。そしてその覚悟は、しっかりと形になっていく。

 段階的に、しかし確実に包囲殲滅は進んでいく。妖魔たちは死をもたらすモノでありながら、自らの死を理解できない。ゆえに耳障りな声を上げないのは、兵士のメンタル面にはむしろ都合が良かったか。ペースは緩む気配がない。

 

「これで、遠慮なく敵陣の方に行けるね、先生」

 “キキョウも、皆も本当に頑張ってくれたね。ありがとう。ところでなんだけど、「神凪の殻」っていうのは一体どこにあるんだろうね? ”

「……シュロ。原本は渡されてる? ちょっと読ませてほしいんだけど」

「え、確かになんかちっこい人から暇ができたからっていきなり渡されましたけど……寄越せって言うんですかぁ? って、ああーっ、引っ張らないでくださいぃーっ! ああーっ!」

 

 どんなに抵抗しようが、強制的に奪われるということは避けられない。それにしても、「ちっこい人」というのはホシノのことなのだろうが、シュロが言えることなのか。

 破けるのが嫌だったのか、思いっきり引っ張ったらシュロも抵抗をやめて手放した。この文書は汎キヴォトス史の怪書ほどの厚みはないため、その内容を確認することは容易かった。そしてその中に──あった。

 

 神凪の殻のあり方に関する記述。「黄昏の先にある神凪、それを秘する殻は、黄昏の地に縛り、黄昏の地を縛るもの」というような記述があった。

 

「そんなことだろうとは思っていたけど、やっぱり黄昏の寺院のことだよね。同じ場所にあるかどうかは、確証は持てないけど……元からあんな立地であることが、無意味とも思えないし。一番の目標はそこかな」

「また手前の案内が必要ですかぁ?」

「場所そのものは、一回クズノハ様と会ったからちょっと覚えはあるし、いい。それよりもあんたは本物の怪異に対抗する手段として、その力に期待させて」

 

 シュロは何か抗議したそうにしていたが、それは無視。次の目標を、方舟の司令室は見据えていた。

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