Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
「いたたたっ! 手前を引っ張らないでください! ミレニアムとかいうところの偉方はそんなに暴力的なんですかぁ!?」
「うるっさい! せっかく力になれそうなものを手に入れたんだから、行きなさい! ほら、お迎え来てる!」
半泣きでじたばたするシュロを、容赦なく連れ出していくユウカ。主に神凪の殻に対抗するために必要な人材であるため、いいタイミングで現場に向かわせようということになっていたが、予定より早まった。
「あの壁を破ったら安全を確保しながらって話だったでしょぉ!? えぇ!? 何急に予定変更してくれちゃってんですかあの先生はぁ!?」
「しょうがないでしょ、早いところ終わらせたいのに思ったよりも進まないんだから! ほら、先生に期待されるくらいのことできるんでしょ? ほら、乗る!」
「ああんもう! 分かった、分かりましたよぉ! こうなったらとびきりのやつを決めてやりますよぉ!」
最前線の様子を見ながら、忍具を駆使して敵をなぎ払うイズナ。しかし、状況は思わしくない。いっそ強力な忍術のひとつでも使えば、ちょっとは前に進めるだろうか──そんなことを考えた瞬間。
胸騒ぎがする。何かを本能の部分で感じている。それが良いものなのか悪いことなのかも不確か。あえて言語化するなら。
「なんだか、変なことが起きそうな予感……!」
後ろを向く。何もいない。気のせいだったかと前を向き、傘を構え、弾を弾き返すが、その中に明らかに違う種類の音が、後ろから聞こえてきた。
何かと思えば、びっくり仰天。小学生が描いたような見た目の、翼の生えた、かろうじてネコ科だと理解できる存在がいた。
神凪の殻に関する文書には、あまり多くないながらも空白がある。みっちりと文字を詰め込めば、数行ほどは書けそうなくらいのもの。そこにシュロは必死に書いた。小さいし汚いしで、本人以外にはとても読めない字で。だが追い詰められてガリガリと書き進めたその怪文書は、しかしあの日よりもだいぶまとまった、才能の片鱗を見せるものだった。
「最高の
異世界の、生まれ変わったみょうきクロカゲのような、いや、それ以上に究極な獣! おそれおののけ、ひれふせ、これが異聞帯の怪談なり。
怪談と戦うための最強の怪談は、陸も空も何もかもを支配する……その怪物を、皆はこう呼んだ!
「究極有翼たいがー……ああ、書くって楽しい! もっと書きたかったですよぉ! それにしても、ほんとに使えるなんてねぇ。これ持って帰りたいです」
良からぬことを口走るシュロだが、おそらくは異聞帯が消滅した後の世界でも監視下に置かれることは間違いないので、悪巧みとしての利用はできないだろう。そもそも、それなりに反省していることではあろうが。
ともかく、この怪異のような謎クリーチャーは、最前線で戦うイズナを助けた。シュロの生み出すものは、どうも忍者に寄っていきたいらしい。
見た目に反して、翼が変形して影の触手のようになると、目の前の敵を一瞬で、しかし丁寧に仕留めていけるような性能を発揮するという、侮れない強さを見せる。そしてイズナ自身の動きも良くなっている。いつぞやのライオンの件といい、見た目がどうでも能力はガチ、それがシュロの怪談だった。
しかも、起きた現象はそれだけではない。
「え、急に敵の人型妖魔が弱体化してる? ちょっとそれ……え、本当に? ガチ?」
“キキョウ? 君「ガチ」とか言うような子だっけ? それはそれとして……突破してからの防衛にちょっと不安があったけど、これはどうにかなりそうな気がしてきたね”
「うん。もしかしたら、神凪の殻に異常が起きてるのかも」
妖魔は、怪異を兵器に転用したものだという。怪異は黄昏と密接に関わり、その本物としてこの異聞帯で存在しているものはほぼ見られない。シュロがその記述を利用できたことから、逆説的に神凪の殻は正真正銘の怪異であるが、それ以外はもはや確認されていない。
ゆえに、妖魔の大元はそこにある。それが今、かき乱されてしまった。
「もうちょっとしか書けないなんて……よおし、こうなったら徹底的に役に立ってやりますよぉ!」
と、シュロの「リレー小説」は〆られた。そしてそれは実現する。
珍妙な咆哮と共に、触手が要塞の壁に伸びる。それと共に、同じ場所を方舟の主砲が撃ち抜いた。生徒が持ち運べる一般的な武装を遥かに上回る威力の攻撃がふたつ重なったのだから、その破壊力は通常以上の想定を更に上回る。視界が晴れたその瞬間には、巨大な穴が開いていた。
しかもその破片がほとんど向こう側に飛んだときている。道が開けたようになっており、全速力で進めば間に合いはするだろうか。
“よし、全力で前進だ! ユカリ、レンゲ、それと忍軍の皆に、念のためシュロも! このメンバーで、神凪の殻、ひいてはその裏に隠れてる存在に立ち向かう!”
単体の巨大な敵に相対する場合は、少数精鋭を指揮することに集中した方がうまくいく、というのが基本戦略である。この防衛の厚さと広さからして、大軍を常時展開する限界の環境がこの領域であり、最終ラインと見える。
進む中で、ニヤから通信が入ってきた。
『やりましたね。あとは皆さんが向こう側で成し遂げることを祈るばかりです』
“本当なら、君のことももっと頼りたいくらいだけどね”
『それは無理な話ですねぇ。私はあくまでこの陰陽軍のために戦う身。どうしてもここで戦う大勢の兵士達に必要とされていますので。なので精一杯のこととして、せめて祈らせてくださいね』
雪山の麓に向かう。大軍が追ってくるのが見える。だがそれを押し留めるために、その身を挺して戦う人の姿も見える。
顔ぶれは揃った。あとはその先に潜む、異聞帯の王を討つのみ。