Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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2-38:誰ぞ、彼の道を阻むものは

 先生が「先生」として、まずやるべきだと思ったこと。それは、この最後の戦いまでの道を切り開いたシュロを、全力で褒めることだった。

 

“よくやったね、シュロ! 相変わらず見た目はアレだったけど、凄く良かったよあれは! えらいぞ!”

「ちょっ、撫でんなぁ! そんな子供扱いされたって、ぜぇんぜん嬉しくなんて……嬉しくなんて……むむぅ」

 

「おいおいおいおい、完全に懐柔されてるじゃんかよ。やっぱこいつ、おチビさんじゃん」

「以前に色々と酷い目に遭わされた相手とは思えませんわ。きゅーと、ですの!」

「私はまだ撫でてもらってないのに……なんて卑しい、反吐が出る……」

 

 三者三様の反応を見せつつ、百花繚乱の一行は山登りを開始した。一応そこまで険しくない登山道は知っているが、それでも相変わらず寒いし過酷。それでもプロの忍びをやるための訓練を受けたミチルとツクヨはやはり違うということなのか、先に進んで安全チェックをしてくれた。

 身体能力自慢のホシノは、砂漠育ちゆえか雪山は不慣れな様子だった。乾燥地帯も冬は朝晩がかなり冷えると言うが、雪がずっと残るということはほぼ無い。そういうわけで、安全確認はミチル達に分があるわけである。

 

「確か、目的地ってこっち方面だよね? もうこっからまっすぐ向かっちゃっても安全っぽいよ!」

 

 そうミチルが指し示す先には、かなりなだらかな凸凹地形。山の中にこんな場所があったのか、となるようなところである。何回か道中で転落する可能性がある地形があったので、余計に安心感があった。

 追手もそうそう追いつけないくらいになってきた。そろそろ何か見えてこないか──そう思った矢先。

 

──望むのは滅びではない──

 

“……誰か、今何か言った?”

 

 皆が首を横に振る。

 

「ちょうど、身共も同じことを言おうかと思っていたところですの。ですが確かに、皆様の声ではありませんでした。ただ……聞いたことはあるような気がしますわ」

 

 ユカリもこんなことを言っているくらいで、皆困惑している。更にしばらくして、また聞こえてきた。

 

──望むのは停滞ではない──

──嫌うのは不定ではない──

 

「うん。聞こえる。百花繚乱だから、百鬼夜行の血だからとかじゃないみたいだね」

 

 そもそも、先生にも聞こえているので、ホシノに聞こえない道理はない。疑問を覚えながら進むと、より鮮明に頭の中に響いてくるようになってくる。

 

──我らは一つとなり、永劫に一つとして栄える──

──それが大いなる者たちに抗する術──

──お主らは素。我は器。我は殻。我は黄昏──

──空洞の、昏き殻なり。

 

 直後、空が銀河のような光の斑点がまばらに存在する風景になる。そして同時に、神社のような建物が現れた。

 それは、こちらに来いと手招きするような、それでいて威圧するような空気を放っている。それに促されるままに入ると、その奥には黒い硝子細工のようなものが安置されていた。

 

“祀られてる? 御神体のつもりなのかな?”

「真っ黒だから確信が持てなかったけど……これ、クズノハ様に似てるな……?」

 

 レンゲに言われて、キキョウも急いで駆け寄り凝視する。確かに、この形はクズノハによく似ている。確実に関係はあるし、おそらくはここにいる。だが、この黒いものがクズノハそのものであるとは、だれも考えていなかった。

 

「たぶんこれが、神凪の殻っていうやつだね。どう処理するかの特別な記述は無かったし、どうせ対処するから……今から、破壊を試みる。そういうことで、いい?」

“まあ、破壊はしたいよね。いま他に何ができるでもないし、とりあえず銃撃を試してみて”

 

 と指示しながらも、若干不安がある。まず、神凪の殻であるのなら、怪異の類であるはずで、よってただの銃撃で壊せそうにないということ。その上で、何か良くないことが起きる可能性があること。このふたつが主なところだ。

 そしてその上で、今のところこれをやるしかない。シュロの怪談は、こんな狭いところで起動はできない。

 

 しかし。

 選択肢はただ一つしか無かったにもかかわらず、その選択肢は大きな間違い(ミステイク)だった。

 

「うわっ、なんだこの黒いの……!? まずい、後ろまで!」

“キキョウ、レンゲ! くそっ、やられた! そういうトラップくらいは想定しておくべきだったか……?”

 

 想定していても、これは回避不可能だっただろう。誰にも責はない。

 レンゲとキキョウは黒い影の触手のようなものにより作られた球体の膜で囲まれた。おそらくはこれにより空間レベルでの分断を行っている。ただ囲んだだけなら即座に抵抗して何かしらのリアクションが伝わってくるはずだが、そういったものは皆無。

 

「このっ! 先輩を返しなさいっ!」

 

 ユカリの銃撃は、やはり通らない。怪異としての本質が、覚醒してしまっている。そしてそれに対する反撃は、あまりにも過剰だった。

 球体からぬるりと飛び出すのは、スナイパーライフルとそれを持つ触手、それが10と少し。その妙に古めかしい造りのライフルは、先生とユカリには覚えがあるもの。

 

“あれは……「百蓮」!”

 

 汎キヴォトス史においては、クズノハが造り百花繚乱に代々受け継がれた、怪異殺しの銃。この異聞帯では、神凪の殻なる怪異が量産し、使い捨てる兵器。ウタハがこれを見たら憤慨して気絶しそうだ。

 

「なるほど、道理で手前のたいがーがあの見た目で攻撃手段が触手なんてものだったわけですねぇ。基本的にはあれを生む物語から生まれたものですから──」

「おチビちゃん、納得してる場合じゃないよ。あれは、()()()()()からさ!」

 

 シュロの前でホシノが盾を構えるのと、ほぼ同時だった。スナイパーライフルとしてはありえない間隔で連射される。各々が対処する手段を有していたが、それでも想像以上の弾幕の濃さには驚かざるを得なかった。

 そんな中、先生はシッテムの箱のアロナから、これまた信じがたい言葉が発せられるのを耳にした。

 

『あの球体……内側が、完全に観測不可能です! もちろん、キキョウさんとレンゲさんの存在も! 干渉もできません!』

“何も……できない、ってこと? ”

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