Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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2-40:神凪のクズノハ

「クズノハ……様、なんだよね、あんたは」

 

 一歩前に出るキキョウ。あの大預言者と確かに同じ姿なのだが、百花繚乱の一員として、心の部分がそれを否定している。

 だからできることなら、否定で返してほしいと思っていた。

 

「クズノハ……か。久しく名で呼ばれることは無く、最早それに意味は無く、故に鮮明には思い出せぬ。だが微かに、そうであったような記憶はある。だが……妾は、()()()()。妾は、神凪じゃ」

 

 神凪。様々な意味合いがあるが、その中に神の依代というものがある。であるとするならば、これはまさにその意味合いに相応しく、神たるために個人を捨てている。クズノハであることを捨てた、そんなもしもの過去を経た今。それが目の前にいる者だった。

 

“単刀直入に聞こうか。あなたがやったことだね? この地の内戦をここまで泥沼にしたのは”

「然り。それがこの百鬼の在る地の未来である故に」

 

 何を言っているか分からない、といった顔が九つ。未来を徹底的に絶つための計画を、ここまで見せられてきたからだ。

 これだから困る、と言わんばかりのしれっとした顔でその者は勝手に語り始めた。

 

「この地に宿る神秘は、元より脆弱であった。あまりに小さく、神に遠く、故に歪み、ねじくれていた。この方舟の地──キヴォトスにおいては、人に神聖が、神秘が宿る。じゃがここは違う。何せ、あり方はどちらかと言えば怪異に近い。土壌が元より、神と怪を強く区別しない」

 

 神秘には、様々な形がある。キヴォトスにおいては、その多くは旧時代に神と呼ばれたものの因子。あるいは、それに使わされた者の要素。百鬼夜行においては基本的に前者であるが、あまりにも分散し、多様すぎた。その定義も他の地に比べて、厳格でない。

 それは文字通りの意味での神の視点を使った考え方では、弱さだった。歪みだった。

 もちろん、今やここは神秘の地である以上に学園都市。弱くて歪んでいるだけでは必ずしも危機的な状態にはなり得ず、そうであるなりの在り方──「百鬼夜行連合学院」という形そのものも、これでありうる──があったわけである。

 

「歪み、ねじくれていた? 理由になっておりますの、それは?」

「うん? であれば食われぬような強さが必要になってしまうではないか。更に理由を求めるのかえ?」

 

 ()()()()()()()。キヴォトスに根差した存在でありながら、その視点は神秘そのものからの視点であり、俯瞰的だ。どちらかといえば、その視点は生徒よりも外の人間、あるいはかの司祭たちに近いもの。

 弱い神秘は食われる、そういう観点から、「最適な」方法をその者は見出したのである。

 

「その手段が、人の数を減らすこと……なんか、経験からして理解できちゃうって気持ちになるのが悔しいね〜。平均値ってやっぱり上がっちゃうんだよ」

 

 アビドス生の身体能力や神秘の度合いの平均値が高いのは、それを有する者があまりに少ないからではないか、という仮説。少しホシノは、先生とシロコを交えて話したことがあった。

 同じ説を考える者はやはりいるようだ。

 

「理解が早い者も、おるようだの。されど、妾が単に手を下しては意味がない。外の者に潰されて終わりというものよ。故に、このように回りくどくせねばならぬ。ままならぬものよな」

“回りくどく……自ら殺し合わせるようにすると”

「人であることを選んだ以上、其方(そち)らは争いをやめることは土台不可能なのであろう? それを使うこととした。どうやらこの地の者は殺すことに強い抵抗があったがゆえ、どうにも進まなかったからの。ひとつ、手を打ったわ」

 

 汎キヴォトス史でも解釈にもよるが、怪異の根源はクズノハである、としても間違いではない。そしてそれは、この異聞帯の神凪も同じこと。故に怪異を好きなように応用する手段を作ることができた。それを利用して、生み出したもの。

 

「もう分かりましたよ! 妖魔を開発して、人々に使わせた。雨露霜雪の戦いを起こした犯人は、あなたですねっ!?」

「ちょちょちょ、何言ってるのイズナぁ!? 雨露霜雪の戦いにエビス軍は関わって──」

「エビス軍として、ではない。それに妾も、きっかけを与えたに過ぎぬ。だが与えたら、あれほどまですぐに誘えるとはの。少し、気味が悪かったぞ」

 

 ミチルもこれには絶句。最初から現在に至るまで、その歴史の一番の根本になる部分から、全て掌の上だったのではないか、とすら思える。エビスを介して魑魅に技術を伝え、それが広まっていったというのがどうも真相らしい。

 なにか極めて、屈辱的なものを感じられてくる。だがそれで激昂はしない。それは忍びの基礎中の基礎──耐え忍ぶことに反する。

 

「次第に数を減らしていき、果てにはただの独りとなる。それでも妾がまだ残っておるが故に、完成はせん。最後に残るのが誰かを決める戦いの末に、ただひとつの統合神性として新生を果たす……それがこの地の神秘が残るための道、神秘統合の儀なのである」

 

“なるほど、だいたい言いたいことは理解したよ。でも残念だったね、私達はその計画に元からいなかった異物、理の中にはないよ”

「過信じゃな。嘘偽りなく我が計画を話すことの意味するところが、まだ分からぬか。まあ良かろう」

 

 神凪とは、神の依代。古来より、幾度となく繰り返されてきた言葉がある。「神は嘘を口にしない」と。

 これは、「神は正直である」という意味ではない。神の言葉は肝心なところは避ける、という意味であったり、あるいは神の言った言葉が後から本当になるという意味であったりする。

 もしこの完全に神凪としての存在となったクズノハが、神としても完成されているのであれば、ここで全てを語ったのならば。それはすなわち、汎キヴォトス史側の敗北を意味するに等しい。

 

 故にこれから始まるのは、クズノハにはそのような、この世に生きるものが持ってはならないような力はない、ということの証明である。

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