Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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2-41:多世界解釈万華鏡機構

 神凪となったクズノハの計画。なるほど、よく出来た計画である。何がよく出来ているかというと、大きすぎる規模の蠱毒の対象に、自身も含んでいることだ。

 これにより、ただあの者を打倒するだけでは、計画が頓挫するということもないのである。勝手に人々がいがみ合い、潰し合い、誘導されるままに数を減らし続ければ、いつかは目的に達する。

 つまり、因果そのものを、歴史ごと切除できる者でなければ止められない。もはや、この詰みきった世界は切除することが救いとなりうる。ここで負けるわけにはいかない。

 

 と、息巻くだけで勝てるのならばどれほどいいことか。実際には、異聞帯の王とは何たるかを見せつけるような、圧倒的な能力の差を見せられる形になった。

 

「百蓮が……いや、これ何百丁あるんだよ!? しかもなんか合体して大砲になったりとかどんだけやりたい放題して……!」

 

 スナイパーライフルの特性をかなぐり捨てるような銃のドームを形成したり、質量を無視した変形合体をしたり。怪異の根源の力から生まれる怪異殺しの得物を生み出す能力が、想像を絶する高さに達している。

 存在そのものが希薄になりつつある汎キヴォトス史のクズノハでは、こうはいくまい。

 

 前に立って一斉射撃を盾で受けるホシノ。神秘の防壁も展開されるが、「キヴォトス最高の神秘」と称される彼女と比較してすら、比較にならない神秘の力が銃弾の雨に含まれているために、徐々に押される。

 イズナも加わろうとするが、忍具による防御に必要な動きがとても追いつかない。

 

「其方らでは妾には勝てぬ。そのように、出来ている。漸く体でも感じられるようになったのではないかの?」

 

『先生、どうやら彼女の言う通りみたいです。この異聞帯の支配者としてのあり方を確立し、その全てを掌握する神凪……言うなれば、絶対性。それが、以前相手したルシフェルと比較しても格段に強いからか、崩す手がみんな封じられてしまいます!』

 

 言い換えれば、概念的なステージの違い。やはりあれは、正真正銘の神だったのだろうか。防御でも攻撃でも、圧倒的優位になれるように出来ている。

 

「こんなんじゃあ手前は完全に役立たずじゃないですかぁ! 蚊帳の外でいいですから命は助けてくださいよぉ〜っ!」

 

 シュロはこの通り、完全に役立てなくなった。そもそも神凪の殻が砕けたことで、怪書も効力を失っている。

 また、ホシノも早々に受けきれなくなってきた。ここに来てまだ、ほぼ治っているとはいえまだ完治はしていない左腕のことが響いてくる。せめて多少弾を撃ち込んでやろうとキキョウとユカリが攻撃をするも、まるで手応えなし。ミチルとツクヨの忍具による搦め手も、レンゲの突撃も全てが無意味。

 

 僅かな戦いで理解せざるを得なかった。この存在には、まともな戦いで勝つことはできないと。

 

“せめて、絶対的な存在であるという前提を崩さないと……アロナ、何かできることは?”

『……わかりません。けど、プラナちゃんが何か、思いついたみたいで。今、試そうとしています』

 

 何か、吉報が来ることを期待して待つ。待つ間に誰かがやられてもいけない。生きた心地がしない時間が、2分ほど。だが先生には数時間のようにすら思えた。

 シッテムの箱から、先生の耳に入る落ち着いた声。プラナの報告に、望みを託す。

 

『ゲヘナの空想のサンクトゥムタワーが消滅する際に回収できたデータが僅かにあるので、解析を行いました。得られた情報は、イザヤという名称、異聞帯の王とのリンクの仕組み、そしてアクセス拒絶の仕組みに関するものが主でした』

『おお……気になることがたくさんですね! ……あれ? アクセス拒絶の仕組みっていうと……』

『はい。確かに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()仕組みです。逆に言えば、これを解除することで、限定的ながらサンクトゥムタワーの掌握が可能となります』

 

 それは、あまりにも大きな希望。食い気味に先生は質問をぶつけた。

 

“それは本当!? それで何ができそうなの!?”

『落ち着いてください。実のところ、アクセスできる領域はかなり限られています。それで何ができるかも、不明です。それに』

“……それに?”

『これは、莫大なリソースを使って実現する、奇跡の類です。少なくともこれからの異聞帯攻略に使える手段ではないことは断言します』

 

 莫大なリソース、奇跡。この言葉を聞いて先生は、ごく自然に一枚のカードを取り出していた。大人のカード。先生の持つ、生や時間と称される「重大な何か」をリソースに、自分だけの武器として用い、奇跡を起こしてきたもの。

 もし、これを使えばいいのなら。これから何度も自分の運命を削るくらいで、未来を取り戻せるのなら。

 

“それくらいは、安いよ”

 

 先生の眼前に広がる景色は、シッテムの箱の内側の空間へと変わっていた。半壊した夜の教室。そこでアロナとプラナは、手を重ね合わせている。

 

「わかりました、先生。私も覚悟を決めます!」

「先生、手を」

 

 黙って頷き、円陣を組むように手とカードを添える。

 

「ありがとうございます、先生。それでは、空想のサンクトゥムタワーに接続──成功しました!」

「異聞運営機能の一部分の解析、完了。テクスチャリング、限定実行可能。局所リテクスチャ、開始。多世界解釈万華鏡機構(カレイドスコープ)、発動します!」

 

 

「異物とはいかなる効果を齎すものかと思ったが、やはり失望させられるばかりであったな。ならばせめて勝者の歴史とやらを……神に捧げよ!」

 

 結局この神凪に、傷ひとつ付けられないのかと誰もが諦めた瞬間、どこからともなく飛んできたふたつの弾丸が、かの者の両肩を貫く。

 

「結局、私に頼るんだね。良くも悪くも変わんない子達」

「嫌、だったかな? 私は嬉しいけど。だって……あなたと肩を並べて戦いたいって、ずっと思ってたから」

「そうだねぇ……うん。今はむしろそれがいい」

 

 その白金色は、孤独に咲こうとした花。自らを偽り、背負った重荷に押しつぶされようとしたもの。そしてその全てを糧にした、()()()()()()()()()()ひとつの姿。

 その純白色は、自分だけでは咲けなかった花。自らの作った虚像に縛られ、枯れかかっていたもの。そしてその全てを乗り越えた、()()()()()()()()()()確かな姿。

 

「百花繚乱紛争調停委員会、委員長。七稜アヤメ」

「同じく、副委員長。御稜ナグサ」

「「初代委員長クズノハ、その悪しき形に挑むため、ここに参上した!」」

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