Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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2-42:影法師の反逆

 ありえない。ありえない。

 眠っていた委員長が。その目覚めをまっていた副委員長が。この異聞帯から弾かれていたはずの人物が。

 今、目の前にいる。

 

「アヤメ先輩に、ナグサ先輩……なのです、か?」

 

 ユカリがこう尋ねることすら、もはや反射的に口から言葉が出ているだけ。百花繚乱の一同は、全く頭が動いていなかった。状況があまりにも飲み込めない。

 

「うーん、確かにそうだけど……どうしよう。どう説明したら、分かってもらえると思う?」

「ナグサさぁ……まあいいよ、私が説明する。あんたももう、説教されるまでもなく身に沁みてるでしょ」

 

 確かに、このふたりはアヤメとナグサだ。だが何故ここに? 特にアヤメは昏睡状態だったし、和解したとはいえ、ナグサに、百花繚乱に辟易としている様子だったはずなのだ。

 それがどうして、ここまで軟化している? 

 

「私達は、先生が切り札として空想のサンクトゥムタワーを利用して呼び出されたもの。あくまで、七稜アヤメと御稜ナグサの情報から生み出された……影法師、みたいなものだよ」

「タワーと先生の持ってるシッテムの箱を介して、事情もだいたい把握してるから、そこは安心して」

 

 安心して、と言われても混乱するばかり。どうやら神凪が立て直しに時間をかけているようであることを確認し、キキョウは思いついた質問をしてみる。

 

「アヤメ委員長……あなたは、百蓮を携えたナグサ先輩と一緒に、自分も百蓮を持って立ってる。どういう原理かも、どういう心境の変化かも分からないのだけれど」

「まあ百蓮が分裂しているのは、あっちも大量生成してるし、そういうものだと思ってもらえる? 心境は……うん、()()()()()。思いっきり変わった。そうなったアヤメとして、今私はここにいる」

 

 もし、目を覚ましたアヤメが、全てを克服したら。頼れる先輩でありながら、なんでも背負わない方法を心得たら。頼り合う関係を、学ぶことができたら。自分が弱くあることも強くあることも、肯定できたなら。

 あるかもしれない、あってほしい未来の姿が、プラナが覗き込んだ万華鏡に映り込んでいたのだ。

 

 その姿になるに至ったアヤメは、百蓮にも認められた。もしそうなるに至ったのなら、どちらが所持することになるのかは分からないが、ルール違反を許容するこの場では関係ないことだ。

 

「お……お主ら、何をした? このようなことは、あるはずも無かったであろうに……まあ良いわ。ただ少しばかり数が増えたとて、妾の計画を崩すことはできぬ!」

“いいや、できるよ”

 

 先生の反論と共に、生徒達も立ち上がる。先程までもうこれ以上動けないといった具合で座り込んだり倒れ込んだりしていたのが嘘のように。

 

「まだ抗うか……!」

“抗うさ。これでも異聞帯をひとつ切り捨ててきたからね、多少ズルいこともできるようになったし、それをしてでも君のことは止めなきゃいけない。人でなしの被害妄想家に、神様気取りでいられちゃいけないからね”

 

 何を言っているか分からない、という顔がひとつ。その顔に向かって百蓮はまた、高貴なる退魔の弾丸を放つ。

 

「流石に、不意打ちじゃないなら当たらないね……先生はね、モノをちゃんと見れない怖がりに、未来を任せられないって言いたいの」

 

 言いながら、ナグサはため息が出そうになる。百花繚乱がある意味神格化していた存在である本来のクズノハも、言語化すれば案外大したことがない存在だったりするのだろうか。

 そして、正真正銘、今のあの者は、大した存在ではない。

 

“この異聞帯の範囲内にあるものを完全に支配していたから、空想のサンクトゥムは絶対者だと認定していたんだろうね。けれど、その構造にちょっとした不都合を打ち込ませてもらったよ。これでそこまで手が届く”

 

 実のところ、アヤメとナグサ自体が必要だったかというと、そういうわけではない。異聞帯の前提となる構造に対するカウンター。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが目的だった。

 だがそれが他のどのような形で行われていたとしても、こうして今行われた形こそが最適だっただろう。

 

「ならば、認めねばなるまい。其方らが妾にとって真に脅威であることを。真に敵であることを。真に乗り越えるべき、我ら同胞の未来のための試練であることを!」

「そっくりそのままその言葉、お返しするよ」

 

 ナグサの啖呵が、戦闘再開の合図となる。

 弾幕と言うのすら生温い、弾丸の壁が展開される。まずこれをどうにもできなければ、手が届こうとどうしようもない。だが鉄壁の盾がこちらにはある。

 

「それしかやることないの〜? はいはーい、おじさん前に出るからね〜……っと!」

 

 先程まで、それに圧殺されそうになっていただろう──などと、神凪の脳裏に苛立ちを伴った言葉が過る。だんだんと、「クズノハ」に戻ろうとしているのかもしれない。

 それでも、怪異の根源、妖魔を生み出した存在だ。弾幕で押し潰せないのなら、それらを召喚してかき乱す。即席かつ片手間でも小さなものを20ほどは生み出せる。圧倒的数的有利をとれる。

 

「よーっし、そうくると思ったよー! じゃあツクヨ、あれやろっか」

「は、はい!」

 

 対妖魔忍具、神秘目くらまし爆弾。このような最終決戦の場で出てくるようなものにも相変わらず有効だ。というより、あちらに対策する気がない。神のごとき力を手にしてしまったが故の慢心が、思いっきり出ている。

 

 

「忍術使いに、噂に聞く暁のホルス……頼りがいのある仲間がいるって気持ちが、こんなに楽だなんて」

「もしかして私達……頼りがいなかった?」

「ナグサ、そういうところ。でもここからは思いっきり頼るから、そのつもりで!」

 

 アヤメとナグサは距離をどんどん詰める。だがそれ以上に詰めることが必要なのが、他の3人。

 

「レンゲ、ユカリ。私達も百蓮の力を借りて、皆で一斉に撃ちたいんだけど、どう?」

「見た感じ、有効そうだしな。あれだけあるなら人数分くらい、借りても怒られないって」

「ええ、もちろんです。クズノハ様の心を、解き放って差し上げましょう!」

 

 殻にそうしたように、核にも百蓮をぶつける。偉大なる先達への、ある種の反逆として、それを目指す。

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