Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
百蓮は、殻を破壊するのに使ったようにするのであれば、撃てるのは一発限り。失敗したら、もう一度取る必要がある。なるべく最大限の威力をぶつけたいので、かなり気を遣う。
どこを撃ち抜けばいいのかは分かる。肩を撃たれた際の神凪の胸元には、何やら鉱石のようなものが露出しているのが見えた。明らかに、核が露出していると見える。
だが今は元に戻っている。不可逆的に露出させ、それから完全に破壊することで、神凪は討ち滅ぼせる。
「では皆さんのことは、このイズナがお守りします! 退魔の銃の元へ、見事運んでみせましょう!」
爆発物、特殊素材の傘、ワイヤーなど、とにかくあらゆる手を使う。ワイヤーで百蓮を引っ張って来ようとすると壊れてしまうので、配置されている所まで行かないといけないのが厄介だ。
援護射撃ではこれはどうにもならず、盾役もアヤメとナグサを守ることに集中させられている。
「……何故じゃ?」
神凪に生じた、単純な疑問。弾が当たらなくなってきているのかと思っていた。だが違う。多少は当たっているが、何も問題がないかのように突き進んでくる。イズナの捌きが見事とはいえ、それでもいくらか退魔の弾丸に撃たれているはずなのに。
「おっかしいなぁ。おじさんそこら辺の子に撃たれて骨折してるんだけど……この差って何?」
“意思力。うん、たぶんそういうことだ。わけもわからず殺意にあてられたホシノのときとは、状況が変わったんだ”
神凪を、クズノハを。乗り越えて、打ち倒すということに関して、彼女らは必死だ。一方で敵側はというと、そのスケールの大きさの弊害であろうか、そういった意思を持つことに慣れていなかった。
だからいかに脅威を認識していても、なんとなく感覚が、情動が薄い。実感がないのだ。
つまり、相手を屠る意思の強さは、明確に百花繚乱の者達が上回るようになっていたのである。そしてそれが、強靭さにも影響するのが、この異聞帯の性質でもあった。
「きっと、人の心が分からないんだろうな。情報としてしか、人が憎み合ったり、怒ったりすることを知らない。愛し合ったり、信頼するってことを実感してない。そうだろ、神凪サマ!」
「そしてそれが、皆で生きていく未来を見られなかった理由なのでしょう。クズノハ様が、そうなったのではなく──
両翼に逸れるように走り、ユカリとレンゲは百蓮を手に取る。持っただけで、脆さが分かる。使い捨ての消耗品、乱造品として生み出されたものだと。
全てが正反対の存在に堕ちてしまった化け物が、軽い気持ちで作っただけのものであると。
「人としての表層に拘っていては、其方らの本質、薄れ消えゆく定め。正しく強き百鬼夜行を始めることの意味、なぜ忘れきってしまったのだ!」
“表層だけじゃないからね”
「なに……?」
“私と彼女達は確かに違うかもしれない。キヴォトス特有の、色々な事情があると思う。けれど、それでも私の生徒達は、やっぱり人間だよ。人間の道に生きるべきなんだよ”
強大な神であるための計画。強大な神を作る計画。そんなものはいらない。その要素を抱えながらも、だんだんと決別していく。
それでもいい。それを肯定する。それは、「先生」の役目ではないかもしれないが、一人の前に立つ人間として、やってやるべきこと。後ろに立つ人間として、認めるべきこと。
「脆くある道を選ぶか、良かろう。ならばそれがたやすく崩れること、示してくれるわ!」
キキョウの前に、巨大化した百蓮の束が現れる。そこから放たれる一撃は、隕石のごとき威力と圧力を伴い襲いかかり、一欠片の希望を粉砕しようとしていた。
イズナが盾になろうとした。防御用の忍具として使ってきた傘が一瞬で壊れた。その中に爆薬を仕込み、互いに弾き合うことで勢いを殺そうとするも、完全には防げない。だがそれを見越して、動いていた者がいた。
「よし、間に合ったね! 私が防ぐから、百花繚乱の皆は先生の指示する位置に!」
キキョウに狙いを定めたことで手が空いたホシノは、その一瞬で自分の受け持つ役割を切り替えた。ここで作られた好機を見逃すことなく、敵の背後に配置された百蓮をキキョウも奪取することに成功。
5人で、神凪に接近する。目標は移動しない。戦法的に移動を必要としないし、逃げ回ることは無意味で、かつ神のすることではないと考えているからだ。なので、綺麗に正五角形を描くように配置できた。
“位置についたね。迷わず、即座に、全霊の一射を……放て!”
相手方の反応が、僅かに遅れた隙。そこに入り込むように、一斉に放たれる弾丸。ただの弾丸であれば、5発貰うくらいはどうということはないのかもしれない。だがこれは、自身が生み出したものと同質の、自身にこそ特効になる代物だ。故に同時にそれが体を抉り、体内で衝突し、散らばることにより、劇毒を飲んだかのような苦痛が襲いかかる。
「ぐ……ごっ……!?」
まともな声も出せないまま、のたうち回る。とても神の見せるような姿ではない。そして、その胸元には、脈動する光の塊が。
それをどうにか押し戻そうと、手を胸に運ぼうとするが、うまくいかない。もはや必要すらもなくなったはずの呼吸が乱れる。体も、生成物も、言うことを聞かない。
「空洞の殻。人と成った神。私達の前に立ちはだかった何よりも……乗り越えなきゃいけないもの。この世界でクズノハ様が乗り越えられなかったものが、そこにあるんでしょ?」
キキョウの銃口が核のすぐ近くにやって来る。百蓮ではない、ただの百花繚乱の制式ライフル。そこに更にふたつ、同じ銃身が並んだ。
「だとしたら、これでアタシ達は証明できる。乗り越えられた世界で、その思いは確かに受け継ぐことができたっていうことを」
「身共には、あなたの考えていることは分かりません。それはきっと、クズノハ様についてもそうでしょう。ですけれど……これだけは分かります。あなたはきっと、大切な何かを、過ったのです」
神の核が、特別なわけではない銃に撃たれる。だがそこにある意思は、確かに特別なもの。それが通じたからなのか、それともただ撃たれたからにはそうなるものなのか。
それは、あまりにも脆く砕け散った。花や虫よりも儚く、滅ぼされた。