Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

87 / 103
2-43:咲かずの花々の彩(上)

 百蓮は、殻を破壊するのに使ったようにするのであれば、撃てるのは一発限り。失敗したら、もう一度取る必要がある。なるべく最大限の威力をぶつけたいので、かなり気を遣う。

 どこを撃ち抜けばいいのかは分かる。肩を撃たれた際の神凪の胸元には、何やら鉱石のようなものが露出しているのが見えた。明らかに、核が露出していると見える。

 だが今は元に戻っている。不可逆的に露出させ、それから完全に破壊することで、神凪は討ち滅ぼせる。

 

「では皆さんのことは、このイズナがお守りします! 退魔の銃の元へ、見事運んでみせましょう!」

 

 爆発物、特殊素材の傘、ワイヤーなど、とにかくあらゆる手を使う。ワイヤーで百蓮を引っ張って来ようとすると壊れてしまうので、配置されている所まで行かないといけないのが厄介だ。

 援護射撃ではこれはどうにもならず、盾役もアヤメとナグサを守ることに集中させられている。

 

「……何故じゃ?」

 

 神凪に生じた、単純な疑問。弾が当たらなくなってきているのかと思っていた。だが違う。多少は当たっているが、何も問題がないかのように突き進んでくる。イズナの捌きが見事とはいえ、それでもいくらか退魔の弾丸に撃たれているはずなのに。

 

 

「おっかしいなぁ。おじさんそこら辺の子に撃たれて骨折してるんだけど……この差って何?」

“意思力。うん、たぶんそういうことだ。わけもわからず殺意にあてられたホシノのときとは、状況が変わったんだ”

 

 神凪を、クズノハを。乗り越えて、打ち倒すということに関して、彼女らは必死だ。一方で敵側はというと、そのスケールの大きさの弊害であろうか、そういった意思を持つことに慣れていなかった。

 だからいかに脅威を認識していても、なんとなく感覚が、情動が薄い。実感がないのだ。

 つまり、相手を屠る意思の強さは、明確に百花繚乱の者達が上回るようになっていたのである。そしてそれが、強靭さにも影響するのが、この異聞帯の性質でもあった。

 

「きっと、人の心が分からないんだろうな。情報としてしか、人が憎み合ったり、怒ったりすることを知らない。愛し合ったり、信頼するってことを実感してない。そうだろ、神凪サマ!」

「そしてそれが、皆で生きていく未来を見られなかった理由なのでしょう。クズノハ様が、そうなったのではなく──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 両翼に逸れるように走り、ユカリとレンゲは百蓮を手に取る。持っただけで、脆さが分かる。使い捨ての消耗品、乱造品として生み出されたものだと。

 全てが正反対の存在に堕ちてしまった化け物が、軽い気持ちで作っただけのものであると。

 

「人としての表層に拘っていては、其方らの本質、薄れ消えゆく定め。正しく強き百鬼夜行を始めることの意味、なぜ忘れきってしまったのだ!」

“表層だけじゃないからね”

「なに……?」

“私と彼女達は確かに違うかもしれない。キヴォトス特有の、色々な事情があると思う。けれど、それでも私の生徒達は、やっぱり人間だよ。人間の道に生きるべきなんだよ”

 

 強大な神であるための計画。強大な神を作る計画。そんなものはいらない。その要素を抱えながらも、だんだんと決別していく。

 それでもいい。それを肯定する。それは、「先生」の役目ではないかもしれないが、一人の前に立つ人間として、やってやるべきこと。後ろに立つ人間として、認めるべきこと。

 

「脆くある道を選ぶか、良かろう。ならばそれがたやすく崩れること、示してくれるわ!」

 

 キキョウの前に、巨大化した百蓮の束が現れる。そこから放たれる一撃は、隕石のごとき威力と圧力を伴い襲いかかり、一欠片の希望を粉砕しようとしていた。

 イズナが盾になろうとした。防御用の忍具として使ってきた傘が一瞬で壊れた。その中に爆薬を仕込み、互いに弾き合うことで勢いを殺そうとするも、完全には防げない。だがそれを見越して、動いていた者がいた。

 

「よし、間に合ったね! 私が防ぐから、百花繚乱の皆は先生の指示する位置に!」

 

 キキョウに狙いを定めたことで手が空いたホシノは、その一瞬で自分の受け持つ役割を切り替えた。ここで作られた好機を見逃すことなく、敵の背後に配置された百蓮をキキョウも奪取することに成功。

 5人で、神凪に接近する。目標は移動しない。戦法的に移動を必要としないし、逃げ回ることは無意味で、かつ神のすることではないと考えているからだ。なので、綺麗に正五角形を描くように配置できた。

 

“位置についたね。迷わず、即座に、全霊の一射を……放て!”

 

 相手方の反応が、僅かに遅れた隙。そこに入り込むように、一斉に放たれる弾丸。ただの弾丸であれば、5発貰うくらいはどうということはないのかもしれない。だがこれは、自身が生み出したものと同質の、自身にこそ特効になる代物だ。故に同時にそれが体を抉り、体内で衝突し、散らばることにより、劇毒を飲んだかのような苦痛が襲いかかる。

 

「ぐ……ごっ……!?」

 

 まともな声も出せないまま、のたうち回る。とても神の見せるような姿ではない。そして、その胸元には、脈動する光の塊が。

 それをどうにか押し戻そうと、手を胸に運ぼうとするが、うまくいかない。もはや必要すらもなくなったはずの呼吸が乱れる。体も、生成物も、言うことを聞かない。

 

「空洞の殻。人と成った神。私達の前に立ちはだかった何よりも……乗り越えなきゃいけないもの。この世界でクズノハ様が乗り越えられなかったものが、そこにあるんでしょ?」

 

 キキョウの銃口が核のすぐ近くにやって来る。百蓮ではない、ただの百花繚乱の制式ライフル。そこに更にふたつ、同じ銃身が並んだ。

 

「だとしたら、これでアタシ達は証明できる。乗り越えられた世界で、その思いは確かに受け継ぐことができたっていうことを」

「身共には、あなたの考えていることは分かりません。それはきっと、クズノハ様についてもそうでしょう。ですけれど……これだけは分かります。あなたはきっと、大切な何かを、過ったのです」

 

 神の核が、特別なわけではない銃に撃たれる。だがそこにある意思は、確かに特別なもの。それが通じたからなのか、それともただ撃たれたからにはそうなるものなのか。

 それは、あまりにも脆く砕け散った。花や虫よりも儚く、滅ぼされた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。