Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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2-44:咲かずの花々の彩(下)

 咲かせないことを選んだ。咲かないことを決めた。種を蒔かないことにした。代わりに、火を放つことにした。

 それがもたらすものは、最後には何も残すことなく燃え尽きることであるというのは、理解していた。だがそうあるべきであると、信じていた。

 

 人は憎み合う。憎悪は、別のところにもっと大きな憎悪を作らなければ消えない。その美醜など、分かるものではなかった。しかし尋常のものではない視点は、ある望みへと導いた。

 そうあるべくして、そうあれ。認められるべくして、認められよ、と。価値観というものを介さないその者の目には、そうあることが美しいのではないかと映った。感覚はなく、実感はなく、そうなのではないか、と考えていた。

 

 今。

 憎しみを乗り越えた者達を見た。弱いことを選んだ存在を見た。それでも懸命に、自分で未来を創れると信じる者達を見た。自らの世界では咲かなかった、枝を伸ばすことを許さなかった、そんな花々の彩を見た。

 認めなければならない。これに勝てるはずはなかった。勝てたのかもしれないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()があちらにはあったのだ。

 

「ああ……なんと、美しいことよ……」

 

 初めて、知った。このひと息を吐けば命は尽きると、そう確信できる呼吸を、このひと言に使っても悔いはない。そう思えるくらいに。

 心の底から、美しいと思った。美しいことは、尊いと思った。だから、せめて伝えて逝けたなら、それが一番いい。

 

 たくさんの人々を、独りよがりに巻き込んだ。分かってもいない「善いこと」のためにと、押し付けてきた。だから、自分が救われていいはずはないし、実際救いのない最期だろう。

 そんな自分に、こんな終わりをもたらしてくれた世界への感謝を。そして自分がどうしようもないところまで追い込んでしまった世界へ、せめて穏やかに征く先を。

 祈って、彼女の体は滅びた。クズノハは、この異聞帯の支配者の座から下りたのだ。

 

 

「よく頑張ったね、自慢の後輩たち」

 

 異聞帯の王を仕留めた後輩達に、アヤメは拍手しながら歩み寄った。

 

「その……今まで、迷惑かけたけど。この通り、私達もちゃんと──」

「うん、分かってる。この私は、その辺りもちゃんと理解した七稜アヤメだから。でもね」

「……はい」

「元の世界の私が目を覚ましたら、教えてあげてほしいな。とっても頼れる後輩がついてるよって。そうじゃないと、私って安心できないから」

 

「皆ならきっと……これも、すぐに使えるようになると思う。キキョウにレンゲ、それとユカリ。いつかこれを手に取ってくれるって、信じてるよ」

「本当に!? 頭でっかちの作戦参謀サマには負けてられないなぁ!」

「ええ! 身共も最高のえりーとの中のえりーと目指して、精進いたしますので!」

「ふふっ。本当に……本当に、強くなったね」

 

 話したいこともたくさんあるだろうが、時間には限りがある。神凪の存在を崩すために呼び出された彼女らは、もはや役目を終えた。長くても、空想のサンクトゥムタワーが機能停止するまでしか存在を保てない。

 アヤメとナグサの体が、今から消えますよとばかりに光り始める。

 

「皆を、助けられてよかった。でも、皆を見守れるようになったのもよかった。本当に、ありがとうね」

「きっとまた会う日には、私は覚えていないけれど……どうか、心に留めておいて。心を強く持って、後輩達にもその心を受け継がせてあげて」

 

 激励と共に、頼れる助っ人たちは去っていった。

 それを見届けながら、先生はシッテムの箱を使っての空想のサンクトゥムタワー停止を試みる。

 

『やっぱり異聞帯の王がいなくなると、管理権限を横取りできるみたいですね。それでは、始めましょう!』

『異聞帯運営機能、段階的に減衰させます……十分減衰しました。これからに備えて、データを回収しながら機能の完全停止を……完了。それほど時間を要することなく、百鬼夜行異聞帯は消滅する見込みです』

“……なるほど。異空間もタワーを利用して生み出してたわけか”

 

 プラナがサンクトゥムタワーの停止を完了したことを告げた瞬間に、風景が雪山に戻った。直後、方舟のユウカから連絡が入る。

 

『先生、聞こえますか!?』

“うん。百鬼夜行異聞帯、攻略完了だよ”

『良かったあ……どんな方法でも行方が分からなかったから、どうしようかと』

 

 実際、完全に異空間にいたわけなので、あらゆる観測が不可能になっていた。なかなかに長引いたので、不安も大きかっただろう。

 それも終わり、どうやら安全も確保できたようなので、方舟の方から迎えに来てくれるらしい。

 

“百花繚乱の皆はどうするの? ついて行きたいとか思ってたりはしない?”

「一応、それなりの人数を率いてたわけだから、別れの挨拶もしたいし、百鬼夜行は私達の存在を必要としてるんじゃないかなって思えてきてる。だから私個人としては、残った方がいいんじゃないかなって考えてるんだけど……」

 

 キキョウが振り返ると、仲間達も頷いた。そんなことだろうとは思っていたし、責めはしない。ついて行った先の戦いは険しく、正しいのかも分からないものなのだから。

 他の生徒達にも、最後に別れの挨拶をと見渡してみたが、どうやらシュロは逃げたらしい。別れの言葉は言えず行方不明になりかけていたが、麓で待ち構えていた百花繚乱軍に捕まったらしい、ということは補足しておく。

 

 そして、ミチルとツクヨ。消えゆく定めとなった、異聞帯の住人との別れの時がやって来た。

 

「なんだか、寂しくなりますね。でも本当に忍者っぽいこともできて、楽しかったですよ!」

“イズナが楽しかったのは何よりだけど……うん”

 

 言葉に詰まるミチル。ミチルがこうなっているとなれば、ツクヨは尚更。どうにか気持ちを整理して、ようやく言うべきことがまとまった。

 

「二人とも。私達のこと、忘れないでね」

 

 それがある種の呪いになることは、理解しながら。あえて、この言葉を選んだ。

 先生はそれを力にしていけると、信じているから。先生自身には力はなくとも、彼の心が力を生み出すことができるから。これを、言ってやるべきなのだと。

 

 その思いをしっかりと受け止めながら、先生、イズナ、ホシノは迎えに来た方舟へと乗り込んだ。すぐに方舟は離陸し、すぐに見えなくなっていった。

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