Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
完全に制圧されたエビス軍領域から全軍が去り、百花繚乱軍はすぐにその本部に集まった。キキョウ達からの通達があったのだ。
曰く、百花繚乱軍は役目を終え、間もなく解散式を行うため集合すること、と。
エビス軍が打倒され、情勢は遂に陰陽軍一強となった。その他の勢力もエビス反転攻勢に大いに協力的であり、また長きに渡る内戦の元凶となる陰謀の存在も明らかになった。そしてその陰謀を、完全に百花繚乱軍の結成者たちの手で断ち切った。
こういった事情が重なり、各勢力は陰陽軍の傘下に正式に入り、統一される流れが進んでいた。百花繚乱軍も、そのひとつになる──そのように、一般の人々には伝えられた。
だが、壇上にいるキキョウ、レンゲ、ユカリにとっては違う。自分達は元いた世界に戻り、人々はこの異聞と共に永久に消え去る。最期の別れの言葉を告げる場として、解散式をほぼ即席ながら開くことにしたのだ。
──ユカリの演説──
まず、はじめに。皆様がついて来てくださったこと、ここまで信じていただいたこと、何よりもこの百花繚乱軍を立ち上げたいという望みを、心の底から信じてくださったこと。本当に、感謝申し上げます。
思えば、荒唐無稽でしかない申し出を、皆様にしたところから始まったのでした。ですが、決して身共のことを、我々のことを笑うことなく、昔話を頼りにしてもよいと、自信満々に答えてくださいましたね。
あのことが無ければ、何一つ始まることはなかったのです。皆様は、あの舟が来てから変わったのだ、と仰るかもしれませんが、あの舟も、皆様なくしては来ることはなかったでしょう。
ここまでの道のりで、道半ばに倒れた方々もいらっしゃいます。これからの平和を見ることが叶わない人々、たくさんいらっしゃいます。ですがこの勘解由小路ユカリ、その全てに報いるために力を尽くしてきたつもりです。
ですから、身共の言葉は、皆様に一つ問うて、終わりといたします。
……
──レンゲの演説──
ついに……この日が来たって感じだな。元々の目的を達成できたのもそうだけど、ようやく全ての元凶を滅ぼせた。色々なことも分かってきた。
でもやっぱり、皆すぐに割り切れないと思う。あいつと、エビスの人間が言ってたことは、きっと何もかも間違いってわけじゃない。殺し合ってたことがある。憎み合ってたことがある。よくよく考えたら、ずっと昔のことなはずなのに、ずっとそんなことを思ってる。アタシ達はきっと、そういうものなんだと思う。
けれど、けれど。それでも、皆きっとうまくやっていけたはずなんだ。きっと、今からでも遅くない。これからは、先頭に立ってるのが陰陽軍の人達ってだけで、ひとりひとりが、手を取り合って生きていく。
……アタシは、そんなことを夢見てる。夢を見るなら自由だろ? 皆も、これからのことに夢を見てほしい。それが同じだったら、嬉しいな。
──キキョウの演説──
もう、さっき聞いたって思うかもしれないけど、本当に百花繚乱軍について来てくれたことについては、心の底から感謝してる。私達は、皆からしてみれば、どこの誰かも分からない、知らない言い伝えを信じてる変な人達でしかなかったはず。率直な気持ちを言うと、今でもここまで来られたのが信じられないくらいだし、生きているのが不思議だとも思ってる。
それでも実際に、うまくいった。昔の私は、あまり奇跡っていうのを信じてる方でもなかったけど、今は信じられる。何百年と続いてた停滞が、こんなに短い間にほとんど解決した。止まっていた歴史が、一気に変わった。これを奇跡と呼ばないで、何を奇跡と呼んだらいいのか、私は知らない。
私達は成し遂げることを成し遂げたけれど、役割はこれでおしまい。この地をひとつにまとめる役目は、もっと適している人達に任せたい。だから──百花繚乱軍は、今日をもって、解散とする。
改めて、こんな私達を信じてくれて、本当にありがとう。それじゃあ……
ある意味、彼女らの言葉には嘘が入り込んでいるのかもしれない。この世界に、もう、「これから」はない。
それでも少女達は思い描く。争いが終わった泰平の世で、全てのしがらみを忘れ、共に同じ方を向いて進んでいける人々の姿を。その心は全く偽りなく、それが言葉になっただけだ。
万雷の拍手が、百花繚乱軍本部に響き渡る。その地面を震わせるような音は、この異聞帯の最期の叫びだったのかもしれない。
百花繚乱を、汎キヴォトス史を背負って戦った3人の生徒達は、その音に包まれながら、見知った景色に戻されていた。
きっとこの音は、彼女達の心から消えることはない。
咲かずの花々の彩
我々の苦難が何かのせいであるのなら、
何かに利用されているのなら。
命をなげうってでも、断ち切らねばならないと感じたのですよ。
この景色は、夢想であるのか現実であったのか。
今となっては、確かめる術はない。
だが君は願うだろう。
平和になった世界のこれからを、笑顔で語らう和やかな場が、
確かにそこにあったもので、あってほしいと。