Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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3-2:Dreadnouhgt

 少し前に遡る。

 異聞帯の王、トリンの元に一人の男が訪れていた。

 

「また来たのか。飽きない奴だな」

「ああ、またなんだ。すまない。どうも話していて楽な気持ちでいられる相手が他にいないのでな」

 

 この男は、マコトの前にも神凪の前にも姿を現したことがある。しかし彼女らには一方的な忠告をしただけであった。だがトリンに関しては、彼の中でハッキリと、別カテゴリーにある。

 

「えーと、何だったか? 余裕の無い奴、見えるものが違いすぎる奴、スケールの大きすぎる奴、どう考えても敵わない奴、存在するのかも怪しい奴、やる気のない奴……か? そりゃあそうもなろうな! 我も大概という自覚はあるが、マシに思えてくるものよ」

「おまけに、昔の協力者達からは裏切り者扱いだ。だから少し、お前を贔屓したくなるような感情が生じている。変か?」

「お主の目指すところを考えると、ぶっちゃけ褒められたものではないかもしれん。だが我は許す!」

 

 直接、その姿を見ることは、「賓客」という扱いといえども叶わない。しかし、そういう扱いをする程度には、彼女にとってその男は友のような存在であった。

 男からしても、この王は奇特に映る。異聞帯の王とは規格外であるものだし、そうあろうとするはずだが、なるべく対等であろうとしているように思える。

 

「あまり特定の異聞帯に肩入れするような行為は、私の計画上好ましくないことたが、特別に伝えよう。彼が、間もなく異聞帯にやって来ると」

「おお。なら出迎えの準備をせねばな。色々と考えるべきことがあるぞ、やはり最初から素性を堂々と明かしたりなどするべきか……」

 

 やはり奇妙だ。先制攻撃で潰せる、ということを示唆したつもりだったのに、真っ先に歓迎の仕方を考えている。

 何か、特別なこだわりがあるのだろうか。

 

「多少の卑怯は許されるぞ? 自然界の戦いと同じだ。使える手を使っていい」

「お主、どこまで分かって言っている? 我には正しいと信じる信念がある。そのようなやり方は反するぞ」

「言うと思ったよ。さて、用はそれだけだ。やりたいようにやって、見せたいように世界を彼に見せてやってくれ」

 

 男が去った、その直後にトリンは先生たちが来たのを感知した。そして先程のやり取りにつながっていくわけである。

 予め知った上で、彼女は自らの王道に従うのである。

 

 

 一方、現在。

 思ったより方舟の状態は深刻だった。技術班はもちろん、それ以外の人員もできることなら作業に加わってほしいくらいであるらしい。改造した部分が派手にやられたようである。

 というわけで、現地に出るのは交渉・指揮役の先生の他に、1名が限度。

 

「……おそらく、適任なのは私だと思われるが、どうだろうか?」

 

 名乗り出たのはカンナ。実力的には申し分なく、百鬼夜行異聞帯においてあまり活動しなかったぶんコンディションは悪くない。確かに適していると言える。

 全員が納得の上で、同行者はカンナに決定した。

 

 さて、問題は素性不明の生徒について。この素性不明というのは、本当に不明なのである。連邦生徒会から受け取った顔写真付き名簿に、類似するものが確認できない。

 青色ショートヘア、身長は170cmを少し上回るくらい、極端なほどに平坦な胸──という特徴に全て当てはまる生徒は、見当たらないのである。その生徒はショットガンを携帯しており、銃社会キヴォトスという土壌は変わらないのが分かる。

 警戒心を剥き出しにしてカンナが前に出るが、そんなことはお構いなしにその生徒は駆け寄ってきた。

 

「だいじょーぶー!? ちょっと凄い乗り物がぶつかっちゃったみたいだけど!」

「大丈夫に見えるか、これが? そこで何をしていた、名乗れ!」

 

 完全に尋問モード。先生は止めに入ろうとするが、事態がこじれそうなので下手なことができない。ただ幸運なことに、あちら側の精神もなかなかに太かったようだ。

 

「うわうわーっ、散歩の休憩してただけだってば! うん、大丈夫じゃなさすぎて気持ちの余裕がぜーんぜん無いのは分かったから! ちょっといたわらせて、ね?」

「……名乗れと、言ったはずだが」

「名前? あたしは石弓(いしゆみ)イリア。なんてことはない、ここで生まれ育った、ごくごく普通のひとだよ!」

 

 何が普通なものか、と言いたいところだが、それはこちら側のデータによる都合でしかない。本人の認識では、それ以外の何者でもないということで、納得するしかない。

 妙に強調しているのが気になるが、同時に気にしてやらない方がいい結果になるだろうことがカンナにも察せられた。

 

「申し訳ない、これは職業柄のようなもので、どうも疑ってかかって、圧をかけてしまう。気を悪くしなかっただろうか」

「ううん、気にしてないよ! 疑われるようなことしてたのはあたしだもん。ああ、でもそうだ。こっちにも聞いてきたんだし、キミの名前と、何しに来たのか知りたいな」

「尾刃カンナだ。こっちにいるのは、私達の先生。名前で呼ぶより、肩書きで呼ばれるのに慣れてるみたいだし、そっちで呼んでほしい。一応、この島に用があってきたが……ここについては、何も知らない」

 

 前屈みの姿勢で、興味深そうに話を聞いてから、目を閉じてうんうんと唸りだすイリア。与えてくる印象は無邪気そのものといった感じで、先程のカンナの態度が申し訳なくなってくる。

 そして大きく頷き、しっかりとこちら側を見据えた。

 

「わかった。じゃああたし、案内するね。色々その途中に聞いてもいいよ。ただーし! あたしからも質問、色々させてね?」

“う、うん。分かった”

 

 思わずうろたえる先生。キヴォトスにおいて、あの手この手で生徒達は魅了をしに来たが、このイリアという生徒、その才能にとてつもなく秀でている。少し胸が暴れるような感覚がした。

 

「おっけー! それじゃあ一緒に見ていこうか、あたし達を乗せてどこまでも海を巡る大船──遊泳大陸船団の景色を!」

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